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『葛藤など』


お父さんが会社を辞めました。それで若い時からの夢だった、お店をもったんです。
お父さんはわたしが生まれる前から一生懸命働いていて、趣味もこれといってなく、お酒やたばこにも使わないで、お金を貯めていたみたいです。銀行員だからお金のことには詳しくて、ただ貯めるだけでなく、たくさん増やしたようです。だからお店をやらなくても、もう会社を辞めて、わたしたち家族を養うだけの貯金はあるとききました。
ほとんど趣味のためにお店をやるそうです。
でもどうして、男性向けのランジェリーショップを、わたしが毎朝使う駅の商店街に開業したんでしょう。
好きなものを否定したくありません。男性向けのランジェリーを、お父さんが商売にすることを、娘のわたしも否定できません。だからって、もう少し、なんというか、やり方はなかったのかなと思います。
平凡な商店街、むしろシャッター多いようなところに、いきなり紫の内装のお店が出来たら、それは目立ちます。わたしはお父さんのお店だなんて一言も話したことはないけど、なぜか友達は知っていました。
お母さんはどう思っているのだろうと、聞いてみたけど、夢をがんばって叶えたお父さんのことを悪く言ってはダメとしか…。わたしもそれはわかっているんです。
お父さんのお店、あまり来客はありません。だけどじつはインターネットでの通信販売のほうに、けっこう注文が来ているそうです。なかには海外からの注文もあるとのこと。こないだ、大量の注文が入ったときには、わたしも梱包を手伝いました。繊細な商品だけに、丁寧にまごころを込めて詰めるのよ、否、詰めてちょうだいね、となぜかお父さんはおネエ口調になっていました。
もうここまできたら、お父さんにはがんばってもらいたいです。
近々、テレビの取材がくるそうです。わたしにも店先に立っていてほしいとお父さんは言いますが、ちょっとさすがに遠慮しておきます。わたしは陰ながら、応援します。チラシ配りもがんばってやるね。
ちなみに女性モノも少しですが、扱っています。














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