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『「いや、ついさっきブックオフに行ったものでね」』


俺より親父のほうが緊張してて

ここ何日も

ずっとそわそわしてる


いや俺の彼女が来るんだから

親父は落ち着いとけよ


っていうかなんなら

出かけててもいいぞって

そう思ってる


母ちゃんは料理作ってくれて

姉ちゃんは掃除してくれて

俺はまあ色々それを手伝って

親父はただ邪魔なだけ


「ブックオフ行ってくる」


居ても立ってもいられず

立ち読みに出かけるらしい


「ちゃんと時間には戻るから」


勝手にしろ


彼女から連絡きた

次で最寄駅だって

じゃあ迎えに行くかな




帰ってきたら

親父も戻ってて


両親と姉と

大歓迎してくれている

これはまあ

素直に喜んでいいかな


彼女も掛け値なしの笑顔っぽいし




で姉ちゃんが皮切りに


ふたりは学校が違うけど

どこで知り合ったのって


俺は彼女から借りた

中学の卒業アルバムを

見せていたりしたし


塾のクラスメイトだってことは

前から言ってたけど


でも敢えて彼女の口から

聞きたいみたい


ま会話として自然だし

いいかな


席がよく隣になって

なんとなく喋るようになって

わからないところ教え合ったりって


そんな感じで彼女も乗ってくれて


テニス部だっけ?って

母親も質問を被せて


そしたら彼女が

よくご存じですねって返したら


親父がやらかした




「写真集で見たんだよ、写真集」




静まり返ったよね


料理を食べる手も

止まったよね


「写真集で、君がテニス部って見たんだ」


卒業アルバムだろって

俺も母ちゃんも姉ちゃんも

一斉に訂正したけど

もうなんだか手遅れかな


「あ、あぁそうかそうか」


彼女は引きつってる


「写真集じゃなくて卒業アルバムだな、はは」


親父は照れ笑いをしながら


「いや、ついさっきブックオフに行ったものでね」


恥を上塗りするんじゃねえよ親父


彼女はとってもできた子だから

なんだかそのあたりは

聴こえないふりをして


テニス部で大会勝ち上がった話とか

受験との両立で大変だった話とか

そんなんでごまかしてくれた


俺はあんまりにも腹が立ったから

母ちゃんがデザートで出してくれた

アイスクリームを

親父のシャツの襟にほうりこんで


「ああっ!つめてぇ!」


親父は風呂場のほうへ消えてった




食事はおひらきにして

俺は彼女と散歩に出かけることにした


なんだか楽しい家族だねって

笑って受け入れてくれたから

俺は救われたよ













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