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『夏休みの楽園』


カネも暇もないから

せいぜい江の島へ連れて行こう


しかし車をどこへ停めよう

あるいは電車で行こうか

砂落とすのとかだるいな


自分が子供だった頃の純粋さはもう

なくなったわけで


妻に至っては

日焼けしたくないから

留守番するなどと言っている


まったく身勝手なものだな




小学生の頃がいわゆる

バブル期の終わりだったせいか


夏休みともなると

毎日のようにどこかしらへ

遊びに連れて行ってもらったのを

思い出す


私たち兄弟の場合

父は大企業ではないけど経営者

母は専業主婦で

比較的余裕があるということも手伝って


プールや遊園地はもちろんのこと

ハワイとかグアムとか


そうそう

空港でテレビ局の

インタビューを受けて

兄とふたり

夏休み明けに

学校のヒーローになったことも




いまやむかし


考えてみれば

あれからほどなくして

バブルがはじけて

父の会社は傾き

それから母もパートを始めて


質素な生活になっていった

そんな気がする


兄も私も中学以降は

部活に明け暮れたから

さほど気にならなかったけども




我が息子も例外なく

夏休みに入った


介護施設にいる父からは

ハワイにでも連れてってやれと

他人事のように言われるが

到底無理な話で


それなら旅費を出してくれよと

半ば冗談交じりに言うが

それもまた困難だと承知のうえ




金髪でグラマラスな水着のおねえさんを

ワイキキビーチでみて以来

兄と私は

この世の楽園の存在を知った


その衝撃は

両親にはもちろん内緒

兄と私の

密かな想いとして

心に留めてこんにちに至る


自分が子をもつ歳になって

生活の幅と視野が広がり

ワイキキビーチだけが

楽園ではないことはわかっている


だけどもその楽園へ

我が息子を連れて行ってやれないのは

なんとも情けないこと


そんなことを

妻に言うわけでもなく

ひとり噛みしめている


しかし江の島のギャルもまた

悪くないだろう


平成黒ギャルは絶滅したときいた


いまはどんなギャルがいるのか


息子にとって

夏休みの楽園になればいいが








































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