みっことさかみち団地③
「みっことユッキー」
みっこの住む団地には、いくつか公園があった。
ななめ公園、したの公園、よこの公園。
どうしてそんな名前がついているのかはわからないけれど、おとなも子どもも、みんなその名前で3つの公園を呼んでいた。
したの公園では、みっこよりすこし年上のユッキーと呼ばれるお兄さんがよく男の子たちとあそんでいた。
ユッキーは、ほかの上級生みたいにいばったりしない。
やせっぽっちで、せが高くて、かみがふわふわで、にっこりやさしくわらう。
ユッキーとあそぶ男の子たちは、ユッキーより年下ばかりだった。
みんなのお兄さんみたいに、ユッキーはニコニコわらって男の子たちとあそんでいた。
ゆうぐのどかんの上で、いっしょうけんめい声をだしながらカードゲームをしているユッキーは、ちいさい男の子みたいだった。
いつの頃からか、ユッキーと男の子たちをみかけなくなっていった。
ともだちのナナちゃんは、「男の子にわるいことをするお兄さんがつかまったってニュースがあったから、ユッキーともあそんじゃダメだってママが言ってた」とヒソヒソ声でおしえてくれた。
ユッキーはわるいことをしたの?
していないのにあそんじゃダメなの?
みっこは首をかしげたが、もともとユッキーとあそんでいなかったのですぐにわすれてしまった。
とてもさむい冬のある日。
みっこはおつかいの帰り道、したの公園のゆうぐにすわるユッキーをみかけた。
マフラーをぐるぐるまきにして、はなを赤くして、ゆうぐのどかんの上でじっと空をみあげていた。
空もユッキーもまっしろで、くすんだどかんにすわるユッキーは色ぬりする前のがようしみたいだった。
「つぎは、ひいくんのターンだよ。」
ユッキーはにっこり空にむかってつぶやいた。
ユッキーはカードゲームをしているようだった。
もうだれもあつまらなくなった公園。
みえないだれかと楽しそうにあそぶユッキー。
みっこは、なんだかかなしくなってきた。
ユッキー、おうちに帰ろうよ。
おかあさんが心配してるよ。
みっこは声をかけたかったけれど、うまく出せなかった。
みっこに気づいたユッキーは、ゆっくり手をふった。
「つぎはなにしてあそぼっか!」
だあれもいない公園で、にっこりわらうユッキーがなんだか急にこわくなって、みっこは家に向かうさかみちをいそいでのぼった。
さかみちのしたにあるから、したの公園なのかな。
そんなことを思いながらさかみちをぐんぐんのぼる。
はく息はまっしろで、かぜはつめたいのにからだはあつくて、うしろからユッキーがおいかけてこないか、どきどきしながら家へついた。
家の中はオレンジ色のひかりに包まれてあったかくて、でむかえたお父さんお母さんも、うすいピンクの色のほっぺたをしていた。
あのときみた、まっしろなユッキーと公園は、ゆめのなかのけしきみたいだった。
春になり、ユッキーはどこかへお引越しした とナナちゃんからきいた。
また、みんなであそべるといいね。
みっこはさくらの花びらをのせたどかんをみながら、にっこりわらうユッキーのことを思い出し小さく声に出した。
次はユッキーのターンだね。
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