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GAFAは転換点にいる。そして日本企業は?

2022年5月17日に刊行された『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』(山根節、牟田陽子著)をもとに、GAFAをはじめとする、アメリカのビッグ・テックの凄さと、これからの課題、そして日本企業はどこに活路を見出すことができるのかを考えてみたいと思います。

なぜ日本から

なぜアメリカでGAFAが生まれたのか

GAFAとは、「G:グーグル」「A:アップル」「F:フェイスブック(現メタ)」「A:アマゾン」のことです。
諸説ありますが、英語圏ではGAFAという呼称よりも、「The Big Four」や「Big Tech」と呼ぶ方が一般的だと言われています。

それはともかく、なぜアメリカでGAFAが生まれたのかというと、『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』から読み解くなら、次の2点に集約できます。

1) 「バカ者、若者、よそ者」と言われるイノベーションを起こす可能性の高い、天才を輩出する
    土壌がある

2) 天才を支えて育てるエコシステムがある

前者からみていきましょう。

アップル創業者で、レジェンドともいえる故スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式のスピーチで、「stay hungry. stay foolish.」という名言を残しました。ジョブズこそがまさにfoolish(バカ者)を体現する、一般常識から良くも悪くもはみ出た人でした。

グーグルの共同創業者であるセルゲイ・ブリンは旧ソ連からの移民です。
アメリカの大学は、外国人留学生をたくさん受け入れています。その最たるものがスタンフォード大学で、スタンフォード大学というインキュベータがテック産業と結びついて、「シリコンバレー」を形成しました。
現在のテック産業では、グーグル以外にも、マイクロソフト、アドビ、IBMのCEOはインド系です。アメリカでは、「よそ者」であっても才能があればトップになれます。

フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは、ハーバード大学在学中に起業しました。彼は本格的なビジネスを行うためにシリコンバレーに移りましたが、20歳そこそこの「若者」がトップであっても、大化けする可能性を感じれば、投資家は資金を惜しみなく投入します。

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、ビジネスセンスの面で頭抜けています。彼はまったくの「よそ者」としてEコマースビジネスを始めますが、創業の時点ですでに、アマゾンを大掛かりなインフラを創る会社にするという壮大な構想を持っていました。
成功したから称賛されている面はあるにせよ、アマゾンのビジネスメカニズムを知ると、単に運やタイミングに恵まれていただけではなく、恐ろしく緻密にイノベーションを起こす仕組みが組み込まれていることが分かります。

GAFAは分岐点に差し掛かっている

GAFAとひとくくりにできないくらい、将来の展望に差が出てきているようにみえます。
ただし共通して言えることがあります。それはGAFA各社がそれぞれのビジネス領域であまりにも巨大になりすぎているため、独占・寡占に対する制限や、倫理面のチェックが厳しくなってきていることです。
この現象はアメリカ国内だけでなく、欧州をはじめ、世界中で同時に進行しつつあります。
主要先進国の国家予算を超える経済力を持つようになったがゆえに、そのパワーが足かせになってきています。

もうひとつは、世代交代です。

アップルはジョブズの引退により、2011年にティム・クックがCEOの座につきました。この10年をみるとアップルのビジネスは順調ですが、ジョブズがトップだった時代の革新性は見られなくなりました。

グーグルは世代交代には成功しているように見えますが、同社とアップルはスマホOSの寡占問題が大きな壁になっています。

アマゾンでは、2021年にベゾスからアンディ・ジャシーが経営を引き継ぎました。ベゾスの側近であり、稼ぎ頭のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のトップだったとはいえ、巨大グループトップとしての手腕は未知数です。

そしてなによりも、フェイスブックです。
2022年6月3日付日本経済新聞朝刊は、シェリル・サンドバーグのCOO退任を報じています。

#日経COMEMO #NIKKEI

見立てはいろいろありますが、フェイスブックのビジネス面での成長と成功を支えてきたのは、サンドバーグに負うところが大きかったことは間違いありません。
社名変更を迫られたほど、取り巻く環境が厳しい中で、側近中の側近が去ることは、フェイスブックの将来に暗い影を落とすことになりそうです。

こうやってみていくと、規制強化と後継者問題は、これからのGAFAの分岐点となる大きな課題として、今、立ちはだかっています。
彼らも盤石ではありません。

日本企業に活路はあるのか?

再び参考図書の『なぜ日本から・・』に戻って、著者の主張を見てみましょう。
その終章には、日本企業ができることのヒントが書かれていますが、残念なことに、説得力のない提言になっています。

ただそこで、これはいい目線でとらえているなと思ったものを抜粋します。

 情報革命が本格的に社会を変えるのはこれからだと思い知ろう

この視点の延長線上で、私は次のように考えます。
GAFA4社のビジネス領域や立ち位置は違いますが、いずれも情報産業のインフラとして君臨している企業です。インフラ産業は、安定的に収益を上げる構造を維持しやすいですが、いったん基盤ができあがって安定してくれば、そのインフラを使ったビジネスがたくさん現れて、それら裾野産業の方がより大きくなります。
日本企業は、その裾野産業でビジネスチャンスを狙うことができそうです。
とはいえ、工業化社会と違って、完璧さや生真面目さによって追求できた改善よりも、情報社会ではアジリティが求められますので、そのためのマインドセットと仕組みづくりを備えるように変身することが不可欠です。

次の2つは私の提言です。

ひとつは、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括)です。
他の先進国と比べて、社会背景から、日本と日本企業はD&Iを切実に求められていませんでしたが、グローバル社会の一員として生きていくためには、道義的にD&Iを進めることが最低限の条件になります。
それを仕方なくという受身で捉えるのではなく、多様性の中にこそイノベーションの芽があり、そこにある個の才能を重視することが変革につながることと理解し、積極的に取り組むことが求められます。

ビジネス世界における現在のマイノリティは、女性と外国人です。

女性活躍は男性の働き方改革や、家事の分担、保育園などの施設の充実等、課題は山積ですが、育休法改正など政府が本腰を入れていることもあり、企業がその気になれば一番手を付けやすい分野です。
いままで私たち男性が使ってきたステレオタイプ的な見方をしてよいなら、知識産業や感情産業(サービス業など)がこれからの主流になることを考えると、一般的には女性の方が優位性を持っています。

外国人労働者については、中途半端な技能実習制度は止めて、しかるべき基準は定めたオープンな移民政策を考えた方がいいです。
移民受入れの可否を論じる段階は過ぎていて、どの基準で受け入れるかのレベルで考えるべきタイミングに来ています。
もっとも重要なことは、外国人にとって日本で、日本企業で働くことに魅力を持ってもらえるようにすることです。
特に高い能力を持つ人材を惹きつけることが、GAFAの成り立ちで見たように、競争力の源泉になります。これは法的な問題ではなく、企業がどれだけ本腰を入れて取り組み、制度化できるかだけの問題です。
報酬面だけでなく、どれだけ働きやすい環境を提供できるかがカギです。
また、いきなり企業で就業するよりは、大学、大学院等の高等教育で高度人材になり得る外国人に、日本で学びたいと思ってもらえるような教育の仕組みづくりも大切になります。
技能実習制度は、悪用している企業がみられるだけでなく、技能実習生にとって魅力のないものになっています。家族帯同条件が厳しいことや、永住を前提あるいは選択肢として考えられていない制度だというのは、日本で働こうという気持ちを削ぐ大きな要因です。
そのうえ忘れてならないのは、報酬面で日本は相対的にどんどん魅力がなくなっていることです。言語習得の難しさや、習慣の違いに馴染まないといけないことと、上記の家族帯同、永住困難という問題を合わせて考えると、「日本で働かせてあげているんだ」という上から目線はもう通用しません。
いかに彼らに「来てもらうか」を考える時代になりつつあります。

これらを進めることができれば、かなりの進歩ですし、国力を回復する基礎作りになります。
「よそ者」に活躍してもらえる下地ができます。

もうひとつ重要なのは、学習(ラーニング)システムの改革です。

学校制度の改革だけでなく、企業の研修制度の改革も不可欠です。学校制度の機能不全からあふれ出ている問題は昨今のニュースで取り上げられていますが、それらの一つひとつをモグラたたきで潰そうとしても変わりません。
なぜなら、学校の問題は、全体システムが悪循環を生むものになっているからです。

企業の研修制度も、階層別研修といった一律の学習制度は誰も幸せにしないものになっています。今は個を尊重し、個に合わせて学習制度を適用しようと思えば叶う技術が整ってきています。
さらに言うならば、自前の教育訓練を超えた学習が可能な時代です。
しかも質が高いし、個人が自分に合った学習方法や時間が選択できます。

リンダ・グラットン教授が「LIFE SHIFT」で提唱した人生100年時代の生き方は、生涯学習と切っても切れません。
であるならば、学校と企業の学習は、連続性を持つものと捉えて、人生の学びの全体最適システムを構築することが、日本にとっての大きな課題です。

言い換えるなら、学習システムをグローバルにもオープンなものとできるなら、「若者」や、常識を超えて尖った思考のできる「バカ者」を惹きつけることができます。
産官学の協働が求められる難易度が高いものですが、教育改革の必要性を多くの国民が強く感じていますし、社員の学びが少ないことに危機感を持つ企業も増えています。

日本の生命線は経済ですが、それを担保するのは「学習(ラーニング)」です。これからの時代を考えると、「学習システム改革」こそが日本を変革する最重要項目です。

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