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「仕組み」と「圧倒的な実行力」の両輪が長期的な競争力の源泉だ! 【Amazon Mechanismを読んで】

2021年11月に出版された『Amazon Mechanism』の書評と、そこから何を考えて学んだのか、を書きます。

書評は、それこそAmazon Reviewに投稿する予定ですが、そのレビュー・
タイトルは、
「日本企業では太刀打ちできない!アマゾンの圧倒的強さがよくわかる本」です。

この類の本は、内部の人やその企業に通じた人が書いた場合には良いこと、外部の人やその企業からネガティブな感情をもって出た人の場合には悪いことを、実態以上に強調される傾向があります。
この著者である谷 敏行氏は、アマゾンで働いた経験があり、現在は、業務執行支援を提供する会社でManaging Directorに就いていますが、アマゾンの凄さを余すところなく、本書で書いてくれています。
私には、いわゆる「弱い紐帯」ですが、アマゾン・ジャパンの現職と以前長く勤めていた知人がおり、彼らから聞いていた話が、なるほど!と腑に落ちる内容がふんだんに書かれていますので、おそらくここに書かれている内容は、かなり実像に近いのだろうと思いました。

では、書評からはじめます。

『Amazon Mechanism』 

Amazon Mechanismの書評

著書の谷さんが提示しているアマゾンの「イノベーション量産の方程式」は極めてシンプルです。

ベンチャー起業家の環境 × 大企業のスケール - 大企業の落とし穴 
 = 最高のイノベーション創出環境

この方程式の要諦は、創業者による一代限りの成功ではなく、「永続性を与える仕組み」であることです。

今年2021年7月に、稀代の天才であるジェフ・ベゾス氏がCEOを退任したあと、アマゾンがどうなっていくのはわかりませんが、ベゾス氏は自身が退いたあともアマゾンが特別な存在であり続けるためにエネルギーを注いできたのは、「普通の社員」たちを「起業家集団」に変えるための仕組みを作り上げることでした。

そのために大切にしてきた価値観は、
「顧客中心」「発明」「長期思考」です。

そして、すべてを書くことはしませんが、そのための仕組み・プラクティスは、「PR/FAQ (Press Release/Frequently Asked Questions)」で逆方向に思考すること(マーケット・イン)や、「沈黙から始まる会議」で社内政治を撲滅すること、そして「リーダーシップ原則」の追求 など多彩です。

なにより、スティル・デイ・ワン(Still Day One)の精神が根付いていて、ここに書いたことをお題目ではなく、愚直なまでに突き詰めていく姿勢は、日本企業だけでなく、グローバル企業の中でもそれほど多くありません。

その中でも、これは突き抜けているな、と感動すら覚えることを3つ取り上げます。


■ 顧客中心(カスタマー・オブセッション)

とにかく発想の起点は顧客であり、内部事情やリソースにとらわれずに考えています。その最たるものは、社内のカニバリゼーション(共食い)を恐れずに、顧客が満足レベルを超えて、まるで魔法のような時間だと感じてくれるような「顧客体験」を与えられるならば、既存事業を優先することなく、新規事業にリソースを思い切って投入しています。

多くの日本企業が、社内政治や、成功体験をもつ既存事業への配慮でがんじがらめになっているのとは真逆です。

■ インプットで評価

企業が営利団体である以上、売上や利益は絶対的に求められます。ですが、それらを短期思考で追い求め過ぎてしまうと、失敗を恐れずにチャレンジすることで生まれるイノベーションに繋がりません。

アマゾンの歴史を紐解くと、かなり大きな失敗もしてきています。たとえば、ファイアフォンというイケていないスマホを世に出してしまったことがありますが、その失敗をアレクサやエコーの成功の土台にしています。

インプットで評価することの根底には、「私たちがコントロールできるのはインプットであり、アウトプットではない」という基本的な考え方があり、人事評価の基準にもなっています。

多くの日本企業が、任期限定のサラリーマン社長による、短期思考で、目先の業績ばかりを追求した減点主義になっているのとは対照的です。

■ リーダーシップ原則(Our Leadership Principles)

一番凄みを感じたのは、これです。管理職だけではなく、社員全員にリーダーシップを求めるものです。

著者が述べているように、そもそも、全員がリーダーという考え方に違和感を抱く人も多いだろうし、自身もはじめはそうだったです。

少し前にアマゾンで管理職として勤めている知人と話をしたことがあるのですが、採用の時にはリーダーシップの特性がある人しか採らないんだと言っていました。
そのときには、全員がリーダー(=管理職と考えていました)になれるわけでもないのに、なんだろうなと疑問に思ったのですが、本書を読んでこれは決して綺麗事ではなく、全員にリーダーシップが求められ、自走できる社員しか生き残ることすらできない会社なんだということが腹落ちしました。

日本企業はどうでしょうか?採用の場面では、自律や主体性のある人を求めるとよく聞きますが、実務でリーダーシップの発揮を本気で求めているかというと、疑問に思うことが多々あります。

本書はアマゾンの強みをシンプルに、明確に理解できる点においては秀逸です。
ですが、冒頭の方程式にある、「大企業のスケール」を活かし、「大企業の落とし穴」を無くしていくことがいかに難しいことなのか、もっというとこの両者が多くの場合に対になってしまうことが、多くの企業が直面しているジレンマです。

「はじめに」と「終章」で、アマゾンの成功の秘訣こそ、日本企業のこれからの復活や成長と相性がよいと書かれていますが、特に大きな成功体験をもつ大企業にこの方程式を当てはめることは、かなりハードルが高いと感じざるを得ませんでした。

むしろ、アマゾンの圧倒的な強さに圧倒される内容の本でした。

アマゾンの強みの再考と、持続することの難しさ

Eコマースでは、日本においても、アマゾンの力はダントツですし、その勢いは止まるところを知りません。
本書を読んで改めて感じたのは、繰り返しになりますが、普通の社員ですら起業家集団にしてしまうための「仕組み」の緻密さです。
ひとくくりにしすぎるのはよくないですが、グローバルの規格づくりの巧拙などを見ていると、欧米のエクセレント・カンパニーは「仕組み」づくりが上手です。

それにプラスして、というよりも、実はもっと大切で、かつ難しいのが、それを愚直なまでにそれを追求する「実行力」です。
『Amazon Mechanism』では、ハード面での仕掛けに目が行きがちですが、その真骨頂は、「実行力」をしっかりキープするための「仕組み」が作りこまれていることです。

私が社会人になった頃は、コンピューターの世界ではIBMが巨人で、この巨人が倒れる日は来ないと思っていました。
少し前のアメリカで言うと、あのジャック・ウェルチ氏が率いて、あらゆる会社のベストプラクティスであったGEが、当時の勢いを失うとは誰も思っていなかったはずです。

アマゾンは、ベゾス氏が退任し、トップのバトンが渡されました。
書評に書きましたが、「大企業のスケール」と「大企業の落とし穴」は、裏表の関係にあります。

アマゾンがこれからどうなるのかの興味も尽きませんが、それにもまして、世界のトップ企業100社にも数えるほどしかランクインしていない、日本企業がどうなるのかが気になります。
根拠の薄い仮説に過ぎませんが、日本企業・日本経済が復権するならば、それはエスタブリッシュメントからではなく、スタートアップ企業からしかありえないのだろうなと思えてなりません。


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