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リモートワークから出社に切り替える企業の意思決定

コロナ禍の開始と共に広まったリモートワークですが、ちらほらとオフラインに回帰している企業も見られるようになりました。オフラインへの切り替えをきっかけに転職活動をしている人たちも散見され、実に混沌とした状況になっています。

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テレワーク実施率は、コロナが始まった2020年5月は31.5%だったものの、2023年1月は16.8%と減少。しかし、コロナ収束後もテレワークを希望する人は2020年5月の62.7%に対し、2023年1月は84.9%と増加しています。

リモートワークと出社…双方メリット・デメリットあるなかで、これからの働き方は?
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リモートワークの課題

これまでもリモートワークについて本noteでも取り上げてきましたが、今回は現状の課題を整理しつつ現状の落とし所について言及していきます。

未経験者のリモート教育

2020年4月から数えると4回目の新卒受け入れの年となりますが、こと新卒や未経験者の教育となるとフルリモートでの教育は難しいのでは無いかと感じています。

オフラインで目が届くところに居てくれるとお互いの忙しさを察知しやすいので、困ったときに声がかけやすいというのが大きいです。フルリモートであってもペアプログラミングで乗り切っている組織も複数見かけますが、時間をロックする必要があるため、ペアプロ以外の時間での教育対象者の進捗に課題が見られます。

営業職のお話もありました。電話営業のシチュエーションで隣に同席をしたり、メモを差し入れたりしやすいというものです。チャットでの代替も考えられますが、ちょっとした遅延や、教育対象者が通知に驚いてしどろもどろになるなどの影響があり、オフラインに回帰したとのことです。

もう一つの観点は行動評価や帰属意識の観点です。中途のデジタル人材などであればジョブ型の色合いが強くなっていたり、業務委託であれば契約更新の有無のみ判断すれば良いので純粋にスキル評価に振り切りやすいです。しかし新卒となってくると社会人としての行動評価の積み上げや、自社のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)体現はこれからです。こうした要素は実に日本的なものではありますが、将来の幹部候補、コア人材候補と考えると何かしらの手打ちが必要でしょう。そしてこれらの要素をオンラインで育成するのは非常に難しいと考えています。研修をして理解度チェックをしたらクリアできるものでもないですよね。

フルリモートで選考・オンボーディングすると早期離職する説

各コミュニティでも各社の中間管理職の皆さんとお話しさせて頂く機会が多いのですが、「フルリモートで選考・オンボーディングをし、一度も会ったことがない人材は短期離職する説」がどうも確からしいのではないかと捉えています。

多くの場合、社内の空気感や意思決定フロー、些末かつ重要なものとしては社内用語といった点から取り残されることをきっかけに疎外感を感じやすくなります。その結果、短期で再びリモート転職活動を再開してしまうというケースです。スカウト媒体を見ていてもここ数年毎年転職している方は少なくなく、一度立ち戻って「なぜ短期離職をするのか」ということについて各候補者が考えたほうが良いかと思います。

ワーケーションの打ち出しと不景気下でのネガティブイメージ

ワーク+バケーションを組み合わせた造語であるワーケーションですが、リモートワークとワーケーションのイメージが近くなると経営層に誤解を抱かせやすい傾向があると感じています。「どうせ遊んでるんじゃないか」というものです。リモートワークの導入と同時に地方自治体も巻き込んで拡がったワーケーションですが、週末や時間外は大自然を楽しもうというコンセプトで始まりました。リゾートテレワークという言葉を謳う自治体もあります。

個人的にも時間外であれば干渉しないで良いとは思いますが、こうしたコンセプトは好景気下では歓迎されるものです。残念なことに一度不景気に転じ、社内が殺伐としてくると風当たりが厳しいという傾向があります。リモートワークに限った話ではなく、福利厚生もそうですし、フレックス制の極みであるフルフレックス制などもそうですが、好景気下で承認され、不景気になってくると否認される傾向があります。不景気下で楽しげなワーケーションは反感を買う可能性が高いです。

一方、特にリモートワーク人材の採用ケースを見ていると、特に40歳を越えてからは介護問題を抱えた人材が地元に戻っていることが分かります。介護を理由にした地元へのUターンは今後も増えていくでしょう。この観点からすると、一身上の回避できない理由を抱えたリモートワークがある一方で、楽しげなイメージが先行するワーケーションが「リモートワーク」という同一名称を名乗ることによる違和感があります。ワーケーションは不景気下ではリモートワークのディスブランディングになっているのではないでしょうか。

リモートワーク前提で採用してしまった人たちの扱い

リモートワークの打ち出しにあわせ、全国採用を掲げた企業は少なく有りません。実際に様々な地方の方と面接もしましたし、入社も確認できています。

しかしこうした企業の中でも地方採用をしているケースはあります。複数の企業で確認できていますが、オフィスへの集合を呼びかけるけれども、時間も交通費も現実的ではないため、「地方人材についてはそっとしておく」という判断を現状ではしているようです。持て余しているようなケースもあり、健全な状態とは言い難いです。こうした企業であっても業務委託のSESやフリーランスについてはリモートワークを継続している場合もあり、更にいびつな状態になっています。恐らく是正すると誰かが辞めるという議論になってしまうため、多くの組織では玉虫色にしたままでしょうし、財政的な事情があればレイオフやレイオフもどきの追い込みが始まることになるでしょう。

フルリモートの最大の敵は疑心暗鬼ではないか

定例会議やSlackというものはあくまでも業務連絡しか来ません。ここに更に「カメラオフでの打ち合わせ」が加わってくると「誰と仕事をしているのか」という気持ちになりやすいです。やってくるタスクを顔が見えない状態で熟すだけだと、精神面が不安定になる方が一定居られます。あるリモートワークが前提の会社さんでは「定例会議よりも1on1」という言葉を使っておられたのが印象的でした。

「顔の見えない状態でのリモートワーク」もそうなのですが、どうもヒトというのは顔や業務連絡以外のコミュニケーションでの様子が見えないと「相手が自分に対してどういった感情を抱いているのか」という点で悩み始めるようです。更に(オンラインとオフラインがなんとなく共存するまだらリモートワークで発生しやすい)自分の知らないところでの意思決定などがあると、自分は不必要な存在では無いかと感じやすいようです。

情報の透明性や、オフラインでの接触機会、日常の1on1によって改善は見込めるものと考えています。

売上・粗利以外で生産性を定義・モニタリングしないと厳しい

オフラインに戻す判断をする企業にヒアリングをすると、一定の割合で「売上が落ちた」という意思決定の理由が見られます。

ここで問題になるのが生産性の議論です。先だってOffersデジタル人材総研にて調査発表を出しましたが、回答のあったデジタル人材の所属組織の77.6%が生産性の計測をしていないということでした。

大手企業にもあるのですが、売上や粗利を総労働時間で割った数字を生産性と定義しているものがあります。しかしこの方法は外部要因や環境要因に左右されやすいという側面があります。例えプロダクトがパッとしなくても営業が頑張って売った場合も上昇しますし、たまたま世間的な波を捉えられた場合も上昇します。そしてもちろんその逆もあります。

純粋な目的を整理すると「ちゃんと仕事をしているかどうか」というのがポイントになります。中には監視ツールを入れたり、資産管理システムを入れたりして代替するケースもありますが、どうしても監視の色合いが強くなるのと、労働時間の長さとアウトプットがリンクしないので適切ではありませんし、離職理由にもなります。ここはOffers MGRやFindyTeams、もしくはプロジェクト管理ツールベースでのアウトプットをモニタリングするのが良いでしょう。そして伸び悩みが観察された場合は1on1などで様子を見に行くということが適切なようです。こうした生産性の計測は、従業員の目線でも「自身の身の潔白を証明する」ためにあった方が望ましいと考えます。

オフラインでの接触機会は極力設けた方が良い

移動コストが掛からないリモートワークの方が通勤よりも合理的ではあります。通勤がなくなったことで体力的な不安がなくなったため、第一線で活躍してきた人材の定年拡大にも寄与できると語る企業もあります。

営業活動などでは客先に向かう往復の時間を使って追加で2社ほど営業ができてしまうので、たとえ勤務は出社を掲げる経営層でも営業活動はオンラインのままで進めることを良しとする傾向にあります。単純にオフライン営業活動に戻すと件数をオンラインほどこなせないので売上が落ちる企業は多いと思われます。

しかし社内の企業運営の話で考えると、ヒトの意思決定は感情も絡みますし、対人関係や帰属意識の高低も絡むため必ずしも合理的ではありません。全くのフルリモートで組織マネジメントをするのは難易度が相当高いです。入社時や一定期間ごとでのオフラインで会う機会を作っていくのが適切では無いかと考えます。私も業務委託の立場ではありますが、先方が集まりそうな機会を見つけては顔を出すようにしています。

フルリモートの許容は多様性の許容

新卒採用が活発な企業を見ていると、往年のメンバーシップ型雇用は新卒入社した正社員を前提に組み立てられていることが分かります。そして労力やスキルの穴埋めを中途や非正規職員、外部リソースで代替してきたと言えます。

新卒入社は明治の時代に始まり、相次ぐ戦火でまとまった若手の雇用が必要だったために始まった慣習です。大学卒業後にゼロベースで社内研修を経て一人前とするというスタイルです。語弊を恐れずに言うとこうした新卒の多くは所帯持ちではないため、配属も残業も企業が自由にできたという側面があります。事実、新卒採用が大好きな企業では、その理由として上記のようなことを裏で掲げているところもあります。

しかし現在の会社組織は様々な人が働いています。新卒正社員、中途正社員、契約社員、派遣社員、地方在住、日本在住外国籍、海外在住外国籍、SES、フリーランス、副業人材。そして核家族化や高齢化の進行に伴い、子育て・介護・看護コストが高い課程も増えています。

少子化で企業の人員確保が新卒正社員のみでは難しく、かつ技術要件などが高くて新卒育成が追いつかないようなシチュエーションでは、こうした背景の方々を受け入れざるを得ません。そしてその受け入れの具体策の一つがリモートワークなのだと考えています。

逆に言うと、オフラインに戻すという判断は下記のような条件が必要であると考えます。

  • レイオフ前のGoogleのように残り続けるだけの理由がある社員がしっかりと確保できる待遇面での優勢に自信がある

  • 多少辞めても問題ないという判断ができる人余りの状態

  • 新卒独身者のみ集めた若い組織

現在の核家族化と高齢化が進んだ日本では、こうした人達の事情を勘案した組織マネジメントが求められています。そしてこれらを許容するためにはリモートワークが必要では無いかと考えます。適度にオフラインを混ぜつつ、組織化を進めていかなければならないでしょう。


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