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過激化するリモートワーク推進派と、リモートワーク化を前に経営者・労働者が取り組むべき5つの課題

 緊急事態宣言でリモートワークが強制適用された4月、5月。それに対して各社の判断が分かれた6月。電車も時間帯によっては2月以前の混み具合ですし、肌感では8割の人が通常勤務しているのでは?と感じています。

 個人的にはリモートワークに不便は感じていませんでしたし、出社してもオンラインミーティング・面談・面接がほとんどなので自宅で十分だと感じていますが、経営の視点、及びかつて研究職で干された身としては中長期的なキャリアパスの視点で解決すべき課題があると考えています。

リモートワーク過激派とも言える論調

 下記コンテンツでお話したようにオンライン合理志向は以前から存在していましたし、インターネットの普及によってリモートワークは増えていくのは当然の流れです。

 今回リモートワークをテーマにしなければと思った理由でもあるのですが、リモートワーク推進派を超越したリモートワーク過激派とも言える論調が目に余ります。彼らの論調をまとめると下記のような感じです。寸感を→で書いておきます。

・リモートワークの方が通勤時間がなく効率的だ
 →単純計算でそうなりますよね
・リモートワークでは煩わしい人間関係に悩まされず、健やかだ
 →根本的に解決した方が良いと思いますが分からなくはないです
・リモートワークで一切の問題は発生しておらず、発生しているのはリテラシを始め当人たちに問題がある
 →言い切るねー
・リモートワークが導入できない企業は体質が間違っている
 →過激ですねー
・リモートワークが導入できない企業は今後採用できない
 →脅すねー
・オフィスの床代を給与に還元せよ
 →家賃補助と差し引きでよろしいか

 リモートワーク過激派まで行かずとも、推進派の人たちの論調はメリットしか語っていないのが気になります。弱いと言わざるを得ません。この傾向の論調は自身の強みに対しての世間の風向きが変わればキャリアが吹き飛ぶので注意が必要です。

 一方、出社を推奨する企業からも風評を考えて強く主張できないケースが多々見られます。もっとも、特に理由なくなんとなく出社に戻している企業も多そうですが。

 ここ1ヶ月で公私ともに様々な会社規模・状況のCXOの皆さんと意見交換する場もありましたので、総合的に解決すべき課題についてお話していきます。なお、自社の見解などではありませんので予めご了承下さい。 

1) 採用・教育・評価

 人事に置いて入り口と出口とも言える採用・教育・評価です。まずは採用と教育。

 本noteでも幾度となくお話してきましたが、新卒一括採用であるメンバーシップ型の殆どの日本企業(一部外資系企業も含む)は大学での成長をノーカウントとして扱っているため、初期研修が必須というデザインになっています。

 初期研修をオンラインで実施するというハードルが実に高いという印象です。単にカリキュラムを流すだけであれば可能ですが、ワークや実習となるとまだまだツールもハウツーも不十分と言わざるを得ません。

 研修対象者のスキルのばらつきが強いというのも無視できません。キーボードに不慣れ、検索に不慣れ、プログラミングなどに代表されるスキルや経験の差も年々広がっています。できる人を採るというのも言うは易し。競争率と市場感、採用コストを考えてから意見するべきでしょう。

 必然的にある程度育った人がリモートワークに対応できると言えます。ではその人はどこから来るのか?この状況をクリアせずにリモートワークは善、リモートワークできない企業は悪という雑なラベリングをしていくと行き着く先は入社後1-3年はオフラインで手厚い研修+OJTで育成し、その後リモートワーク対応した会社に人材輩出する企業という一団が形成されるでしょう。

 これは極端な話ではなく、既にこれに似たことがフリーランスで起きています。入社後1-3年は手厚い研修+OJTで育成し、その後フリーランスになる/自社開発企業に転職するというものです。この流れをトレースするだけなのでかなり角度の高い話です。いずれの話もそうですが人材輩出企業認定されるのは経営層としては面白くありません。リモートワークに耐えられる集団は突然産まれないのです。


 次に評価です。そしてその前段階にはタスクの履行確認が入ります。順当に考えていくと評価を成果主義ベースに切り替えていく必要があります。成果主義ありきにしていくと、ジョブ型採用がしたくなる。成果を出せなかった人の給与はドラスティックに下げなければならない。この判断をできるか?と言われるとメンバーシップ型採用をしてきた企業にはかなりなハードルになります。

 また、バックオフィス・間接部門を中心に「成果とは?」という業種も存在します。話をうまく進めないと「正確なタスクの履行」のようにミスの有無で判断する減点方式の評価を導入する流れにもなりかねないので熟考が必要です。


 メンバーからの脱却・昇格に欠かせない視座の育成はどのようにすれば良いのかというのも課題です。ジョブ型採用、成果主義になった先にメンバーがどのようにすればリーダー、マネージャー、もっと言えば中間管理職に育っていくのかは未知です。数年先に社会的に中間管理職不足として問題になる可能性もありうるでしょう。

2) コミュニケーション、ピープルマネージメント

 リモートワークの課題としてよく語られるのが、コミュニケーションとマネージメントです。

 合理化を進めていくと必要な業務連絡しかしなくなります。ディスプレイの見える範囲しかカイシャが広がらないので、2ホップ以上離れた人とのコミュニケーションは眼中に無い方が増えてきます。この点について弊社で効果的だったのはGood&Newです。下手にZoom飲みを実施するより拘束時間は短く、ライトに展開できますのでオススメです。

 リモートワークだと働きすぎるというピープルマネージメントの話題もあります。リモートワークが浸透し始めた3月から4ヶ月が経過し、労働問題になる可能性は頃合い的にそろそろ発生しそうです。PCの操作ログ監視は情シス視点では有効そうですが、各社の対応を注視したいところです。

3) 創造性と定型オペレーション

 定型業務に落とし込めたオペレーションはリモートワーク化しやすいという傾向にあります。勢い役職がメンバーに近い方が有利ですし、プログラミング作業もメンバー層であればここに括れると考えています。一方で中間管理職とか情シスとか総務のように、差し込みが多くその処理を期待されている業種は不利です。

 全社という視点で考えると事業そのものが定型化している方が有利です。社会インフラ化しているもの、優位性が確固たる事業は定型化していると言えるでしょう。自然と大手になります。

 しかし業務が定型化しているということは自動化しやすいということでもあり、AIなどの投入や自動化が経営判断されれば長期的なジョブの存続は怪しいということも頭に入れておく必要があるでしょう。

 一方の創造性とは何かというとディスカッションの類が挙げられます。先日オンラインOSTを試行してみるという勉強会に企画から参加してみましたが、複数のオンライン会議ツールをずらりと並べ、取捨選択や組み合わせを議論するというのはなかなか骨が折れる作業でした。既に知識のある方がピックアップを済ませた状態でも3時間位かかりましたね。実際に実施した感想からすると、運営者のみならず参加者にも高いITリテラシー、高いネットワークコミュニケーション、高い計算機資源を持ったPCが要求されることが分かりました。

 こうしたハードルを越えた上でも、廊下などですれ違った際に産まれるコミュニケーションの実現(そこから産まれてきたアイディアや突破口、コラボレーションなどには追加の工夫が必要です。逆に言うと、出社している場合であっても会議や意見交換の場を制限しているような環境であればオフラインで集合するメリットを殺している可能性もあるやも知れません。

4) 課題の発見

 リモートワークでは画面越しに見える範囲しか見えないため、取り組む問題の殆どは誰かが起票したタスクです。タスクになっていないものを誰がどう拾うのかは考えなければなりません。

 問題になりやすいのは業務効率化でしょう。各担当者がエンジニア・非エンジニア問わず一定以上のITリテラシーをもって業務に臨み、疑問を感じたら問題定義することを徹底しないと非効率な業務は社内で放置される傾向にあります。不便だなと思っていても、解決の方法を知らない方々は我慢を選ぶため顕在化しないものが多いです。こうした事柄を誰がどのようにして拾うのか?誰に相談すれば良いのか?最初から全社的にITリテラシーを担保した採用を行いなさい、という論調は求人票と待遇を見直してから主張すべきです。


5) 転職活動・キャリアチェンジ

 リモートワークを期に地方に移住される方が一定数居られるようです。ここで気になるのが転職活動であり、キャリアチェンジです。特に転職活動は本人にその意志がなくても現職が潰れることによって強制的に実施させられるという事実も視野に入れねばなりません。

 地方に移住してしまうとフルリモートワークありきになるため、選択肢が限られていきます。一度もオフラインで会わないまま面接・内定・入社からオンボーディング、次の転職まで過ごすことになる可能性も今後は増えていくでしょう。都内からの移住は個人的には神奈川、埼玉、千葉で探しておくのが中長期的なキャリアの観点からは妥当なのではと思っています。

 ここで注意したいのがスキルの賞味期限です。実際にリモートワークをしてみると画面の前に広がっているタスクをこなすことが全てになります。ジョブ型採用にシフトすることで、従来のメンバーシップ型採用で起きていたジョブ範囲外のスキルがいつの間にか身につくということはなくなります。ここで+αの自己研鑽を積んでおかないと、与えられたジョブと共に自身の需要が消滅するリスクがあります。

 これまで自分自身で高学歴ワーキングプアを経験したり、2000年代前半に羽振りが良かったもののどこかに行ってしまった研究者の動きを見るに、将来のジョブを得るために最も避けなければならないことが忘却されることです。社内のみならず社外への発信を意識して継続する必要があるでしょう。

落としどころとしてのリモートワーク

 現在の状況が過渡期であることから、仮にコロナウィルスの動向が6月現在の東京以外のレベルに収束したとしても週1-2出社が現実的ではないかと考えています。

 経営層としてはリモートワーク対応が紹介会社の検索条件では一般的になり、面談では「コロナ対応」について必ず質問される時代です。労働者としても新規スキルへの習得や興味が薄れたり、企業へのぶら下がり前提の方々には実に辛い展開になるでしょう。経営者、労働者ともに安易にリモートワークを選択するのではなく、ここで挙げたような中長期の課題への取り組みもしっかりと行っていく必要があります。

おまけ:リモートワークに本当に必要だったもの

異論は認めます。




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