見出し画像

歴史を知らずに新卒一括採用、年功序列、終身雇用、定期人事異動を叩くのはファッションである

 従来型から派生していく働き方に触れる前に「どのように形成されてきたのか」という話に触れなければなりません。

 ここでオススメしたい本として小熊英二先生の「日本社会のしくみ」があります。明治から現在に至るまでの労働について日本、ドイツ、アメリカなどと対比しながらその成り立ちに触れています。人事や紹介会社、EMなど働き方に取り組む方々には是非読んでいただきたい一冊です。この本をベースにできごとを拾い上げつつ、IT業界につないでまとめていきます。

 いくつか不景気はありましたが、基本的には高度経済成長期からバブルに繋がる好景気のため産業の拡大に伴う人手が足りない状況が続き、人員確保のための新卒一括採用、年功序列、終身雇用、定期人事異動が形作られています。

 欧米などの場合はギルドや資格制度が一定水準を満たした職人を排出していましたが、その機能を大学が置換していきます。そのため高校を卒業後に就職し、やりたいことが見つかったら大学で専門に進み、その専門に関わる仕事につくというキャリアパスやジョブ型採用文化が根付きました。専門分野と職種がリンクしているため更に専門性が高い大学院に対するバリューも付きやすいのです。

 こうした背景が特にない日本では、地頭ありき、性格ありきの採用になっていきました。いつの間にかメンバーシップ採用などと言われていますが。やや横道にそれますが、ここ数年の新卒ITエンジニア採用では人事だけではなくIT部門の責任者が採用シーンの最前線に立って在学中のプログラミング経験や(ITに関する)研究テーマを深堀しながらやりとりしていくのが一般的になっていたり、スキルに応じて初任給が変わり始めていることから、急速に欧米と同様ののジョブ型採用が広まっていると言えます。

 1990年にバブルが崩壊して以降、就職氷河期という言葉が登場します。正社員以外の働き方として非正規雇用が拡大してきた1998年、「ニート」という言葉が流行した2004年などと芳しい話題がありません。

 IT界隈特有の事象については別の回に触れていきますが、IT革命から始まってスマホ、AIに至るまで数多くのムーヴメントはありましたが、社会全体の生活や働き方は変えられても残念ながら就職氷河期の状態を変えるほどの大きさではなかったようです。

 従来型の働き方を語る上で定年の遷移にも注目すべきでしょう。定年制が確認されている最古のものは1887年の東京砲兵工廠職工規定の55歳定年制があります。1902年の日本郵船の社員休職規則でも55歳ですが、このときの男性平均寿命は43歳前後でした。その後、定年制の上限が拡大されたのは1998年に60歳となりますが、現在では平均寿命が80歳まで伸びていることを鑑みると平均寿命が定年制を追い抜いていったと言えます。

 定年の延長と平均寿命の延長の2つがなされた結果、労働者は時代の流れとその加速に晒されることになります。1つ目はその時代ごとの旬の分野に転職やフリーランスの形で対応する「投機的キャリア」です。2つ目は技術やトレンドの「サイクル」を踏まえたキャリアチェンジ、スキルチェンジ。そしてこれらの結果、従来型企業に残り続ける選択肢も含めて労働者の「価値観の多様化」へと繋がります。次回からはこれらの3つの項目についてお話していきます。

頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!