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一日一書評

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ジャンル問わず800字程度の書評を上げるマガジン。漫画は一巻のみの解説とする。2019/8/21より更新スタート。
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記事一覧

一日一書評#47「本で床は抜けるのか/西牟田靖」(2015)

読書家にとって困るのが、本の置き場だ。手放すのはもったいないという思いによって、本がどんどん溜まっていく。 今回紹介するのは、そんな本好きなら誰もが通る問題を取り上げた本、「本で床は抜けるのか」だ。著者は、ノンフィクション作家の西牟田靖さん。西牟田さんは、作家生活のある時点まで、実際の体験やインタビューをもとに本を書いていた。しかし、資料をもとに執筆を行うようになってから、急激に蔵書が増え、生活スペースを圧迫するようになってきた。それに伴い、蔵書問題に向き合うようになったの

一日一書評#46「学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる/せきしろ著」(2012)

これは、幾多の青春小説をフリにした、壮大なユーモアである。 今回紹介するのは、せきしろさんの「学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる」という短編集だ。著者のせきしろさんは、北海道出身の作家で、著書に「バスは北を進む」「たとえる技術」などがある。 本作には、学校をテーマにした短編小説が36本収録されている。登場人物に名前はなく、シンプルな構成だ。読んでいくうちに、これが普通の小説ではないということに気付くだろう。学校には似つかわしくない奇妙な描写で溢れているのだ。様々な感情

一日一書評#45「一億円もらったら/赤川次郎著」(2000)

「お金」がテーマの本を教えて欲しいと言われたら、すぐに本作を紹介するだろう。それくらいお金が主体の小説だ。何なら主人公はお金と言っても良いくらいだ。 「一億円もらったら」は、赤川次郎による連作短篇集である。ミステリーのイメージが強い赤川作品だが、本作はまた違う作風となっている。 収録されている5話に共通する登場人物は、大富豪の宮島勉と、秘書の田ノ倉良介の二人である。年を取った宮島は、莫大な財産を持て余していた。遺産を相続する家族もおらず、使い道に悩んでいると、田ノ倉の発案

一日一書評#44「すべて真夜中の恋人たち/川上未映子著」(2014)

これは恋愛小説なのだろうか。描いているのは間違いなく男女の恋愛感情だが、私が今までに触れてきた恋愛の物語とは、大きく異なることが多すぎる。 川上未映子さんは、2008年に「乳と卵」で芥川賞を受賞。「すべて真夜中の恋人たち」は、2011年に発表された長編小説である。 入江冬子は、出版社で校閲の仕事をしていた。人と関わることが苦手な冬子は、いつしか職場での居場所を無くしていた。その後、元々冬子の出版社で働いていて、現在は編集プロダクションを経営している恭子に頼まれ、新たに校閲

一日一書評#43「奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの/久住邦晴著」(2018)

本書を読むと、自分たちの街にある小さな本屋を大事にしようと思うだろう。 「奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの」は、かつて札幌にあった書店、くすみ書房が、どのような道のりを歩んできたかを記した本である。 1946年に創業したくすみ書房は、著者の久住さんの父親が立ち上げた書店だ。決して大きな店舗ではない、いわゆる町の本屋さんである。久住さんは、1984年に店長に就任することになる。その後の経営は苦しいものとなった。1999年の地下鉄の延長で、くすみ書房の最

一日一書評#42「バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで/速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲著」(2016)

音楽の世界には、様々なグループやバンドがいる。古今東西多くのバンドが結成され、残念ながら解散していくこともある。それらが結成された理由は些細でありふれたものかもしれない。しかし、解散の理由となると、バンド一つ一つに存在する。不仲、お金の問題、事務所の問題など、様々な理由でバンドは解散していく。 そんな、世界中の有名なバンドや音楽グループの解散に至るまでの経緯をまとめた本が、この「バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで」だ。タイトルの「バンド臨終図巻」は、山田風太郎さんに

一日一書評#41「バーボン・ストリート・ブルース/高田渡著」(2008)

「バーボン・ストリート・ブルース」は、フォークシンガー・高田渡さんの自伝である。高田渡さんは、1969年にレコードデビューし、その後40年間全国各地で歌ってきた。本作は、高田さんの半生が綴られている。 貧乏だった幼少期、フォークソングとの出会い、レコードデビュー・・・様々な出来事が、高田さん自らの手で淡々と書かれている。特に幼少期は夜逃げを経験するほどの生活だったが、「貧乏を知っているのはいいが、慣れ親しむな」という父の言葉を受け入れ、前向きに生きていた。そのせいか、文章か

一日一書評#40「下戸の夜/本の雑誌編集部 下戸班編」(2019)

意外に思われるかもしれないが、俳優・植木等は下戸だったらしい。そんな知られざる情報が書いてあるのは、本の雑誌編集部の下戸班によって編集された「下戸の夜」という本だ。 酒飲みから見た下戸の生態や、下戸による酒飲みへの反論などが様々な視点で書かれている。まさに下戸の下戸による下戸のための本だ。世間には、お酒にまつわるエピソードや歌で溢れている。しかし、それらに感情移入出来ない人間も大勢いるはずで、私もその一人だ。私は酒が一切飲めないので、書かれている下戸の言葉に終始共感しながら

一日一書評#39「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町/中島らも著」(1997)

その文章からは、生き様が見られる。エッセイと呼ぶには重く、自伝と呼ぶには少々面白おかしい。人生の酸いも甘いも、存分にさらけ出している。 「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」は、中島らものエッセイ集だ。様々な話が収録されているが、メインとなるのは高校から大学時代にかけてのエピソードだ。モラトリアムの期間を、悪友たちと駆け抜けた日々は、読み手を笑わせると同時に、暗然とした気持ちにさせる。 本作に収録されているエッセイは、どれも短い。2~3ページの中に、濃縮されたエピソードが詰ま

一日一書評#38「世界の果てのビートルズ/ミカエル・ニエミ著・岩本正恵訳」(2006)

「世界の果てのビートルズ」の著者、ミカエル・ニエミさんは、スウェーデン最北端の村で生まれた。本書は、人口900万人のスウェーデンで、75万部のベストセラーとなった。 ミカエルさんの自伝的小説である本作は、主人公である「ぼく」の成長する姿を描いている。舞台となっているのは、北極圏にあるスウェーデン最北端のパヤラ村だ。何もない閉鎖された空間で、友人のニイラと共に過ごした日々は、楽しくもあり、美しくもある。 超がつくほど田舎であるパヤラ村には、人生を変えるような刺激は無かった。

一日一書評#37「注文をまちがえる料理店/小国士朗」(2017)

2017年6月、とあるレストランが2日間だけプレオープンした。そこは、認知症を患った人が働く「注文をまちがえる料理店」という名前のレストラン。発案者の目論見としては、ひっそりとしたプロジェクトになるだろうと考えていた。しかし、「注文をまちがえる料理店」は、SNSで拡散され、反響を呼んだ。私も、当時Twitterでその存在を知った者の一人だ。 本書は、「注文をまちがえる料理店」の企画を立ち上げ、実現するまで、そしてプレオープン時に起きた出来事を中心に構成されている。 小国さ

一日一書評#36「本当はちがうんだ日記/穂村弘著」(2008)

自分のダメな部分をさらけ出せる人を無条件で尊敬している。特にエッセイにおいては、自分の恥や失敗を書くことで、文章の面白さが増す上に、自らを強くすることが出来る。今回紹介する本も、著者の情けない部分が前面に出た、素敵な作品となっている。 「本当はちがうんだ日記」は、歌人の穂村弘さんが、自らの日常を描いたエッセイ集だ。穂村さんは、身の回りで起きた些細な出来事を、独自の目線で描いていく。その独特な感性から生まれた文体は、奇をてらっているわけでもないのに、グッと引き込まれて、印象に

一日一書評#35「お釈迦さま以外はみんなバカ/高橋源一郎著」(2018)

SNSの発達により、誰でも簡単に面白かった本を人に紹介することが出来るようになった。私もこうして書評を毎日書いているし、月に一度は本好きの集まりに顔を出し、良かった本を紹介している。 作家の高橋源一郎さんは、2012年から「すっぴん!」というラジオ番組のパーソナリティを務めている。3時間半の生放送の中には、「源ちゃんのゲンダイ国語」というコーナーがある。高橋さんはそこで、毎週一冊の本を紹介している。本のジャンルは、エッセイ、旅行記、ルポルタージュなど様々だ。その口頭で行う書

一日一書評#34「ないもの、あります/クラフト・エヴィング商會」(2009)

この本の存在を知った時は、勝手に「やられた!」と思った。発想一発勝負の構成に、表現の豊かさが加わり、非常に面白い一冊となっている。 「ないもの、あります」は、著作と本の装丁を多く手掛けるクラフト・エヴィング商會によって書かれた、全125ページの本だ。ちなみに、本作もクラフト・エヴィング商會がカバーデザインを担当している。 タイトルの「ないもの、あります」とはどういう意味か。まず、この本において、クラフト・エヴィング商會は架空の店だ。「ないもの、あります」の看板を掲げ、言葉