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一日一書評#39「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町/中島らも著」(1997)

その文章からは、生き様が見られる。エッセイと呼ぶには重く、自伝と呼ぶには少々面白おかしい。人生の酸いも甘いも、存分にさらけ出している。

「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」は、中島らものエッセイ集だ。様々な話が収録されているが、メインとなるのは高校から大学時代にかけてのエピソードだ。モラトリアムの期間を、悪友たちと駆け抜けた日々は、読み手を笑わせると同時に、暗然とした気持ちにさせる。

本作に収録されているエッセイは、どれも短い。2~3ページの中に、濃縮されたエピソードが詰まっている。学生時代には暇を持て余し、くだらない悪事を働いて母親が呼び出される。雑誌で読んだマリファナの代替品の情報を実際に試し、喉をやられて終わる。それらの出来事を、誰しもが体験する普通の出来事かのように、淡々と綴っていく。しかし、話自体は特殊だが、どこか共感出来る。学生時代に誰もが抱く「こんな無意味なことはやりたくない」「具体的には言えないけど、こんな感じのことがしたい」という気持ちが根底にあるからだ。

大学入試に落ち、浪人生を経て大学を卒業するまでを綴った第4章「モラトリアムの闇」では、人生が停滞した様を見事に描いている。超名門校である「灘高」に上から8番の成績で入学したものの、漫画を描いたりギターを弾いたりしているうちに、成績は坂を転がるように落ちていった。しかし、親の手前、大学受験をしないというわけにもいかなかった。神戸大学を受けたが、全く勉強していないので、受かるどころか問題の意味もわからない始末。その後一年間、浪人生活を鬱々とした気持ちで過ごし、大阪芸大に滑り込むことが出来た。大学生活は、特筆すべきものがないと本人も語っており、何かに夢中になったり、勉強したりという描写がほとんどなかった。「この先、どうなるんやろう」という言葉が、心の中でも禁句になったという一文に、読み手である私も途方にくれるのであった。


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