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一日一書評#41「バーボン・ストリート・ブルース/高田渡著」(2008)

「バーボン・ストリート・ブルース」は、フォークシンガー・高田渡さんの自伝である。高田渡さんは、1969年にレコードデビューし、その後40年間全国各地で歌ってきた。本作は、高田さんの半生が綴られている。

貧乏だった幼少期、フォークソングとの出会い、レコードデビュー・・・様々な出来事が、高田さん自らの手で淡々と書かれている。特に幼少期は夜逃げを経験するほどの生活だったが、「貧乏を知っているのはいいが、慣れ親しむな」という父の言葉を受け入れ、前向きに生きていた。そのせいか、文章からはそこまで悲壮感は漂ってこない。

本作で描かれているのは、高田さんの周辺で起きた出来事が中心だが、第3章の「ガンコのすすめ」という項では、高田さんの思想がはっきりと表れている。「『まわりがなんと言おうと、オレはこれを信じている』というぐらいのガンコさを持っていないと、いいように利用されて終わってしまう。僕は僕だし、あなたはあなたなのだ。別にみんなといっしょにする必要はまったくない。」という文章には、この本の発売から18年が経つ現在でも、救われる人がいるだろう。

しかし、そんな高田さんも、もちろん人を嫌っていたわけではない。第4章「旅のおもしろさはなんといっても人と街」では、全国各地で出会った人たちとのやり取りを、面白おかしく描いている。自我を貫き通す孤高の存在かと思いきや、人との関わりを楽しみ、大事にしていることが伺える。

高田さんを語るうえで、切り離せないのが酒だ。酒の飲みすぎで、慢性的な肝臓病にかかっていた。40歳を過ぎてから、入退院を繰り返していた。病院の門をくぐる直前まで酒を飲んでいたというのは本人の弁だ。健康診断で毎回のように異常な数値をたたき出すも、驚異的な回復力で数値を下げていたという一文に笑ってしまった。

高田さんと高田さんの曲、そしてフォークソングが一世を風靡した時代に、思いを馳せたくなる一冊だ。

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