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一日一書評#38「世界の果てのビートルズ/ミカエル・ニエミ著・岩本正恵訳」(2006)

「世界の果てのビートルズ」の著者、ミカエル・ニエミさんは、スウェーデン最北端の村で生まれた。本書は、人口900万人のスウェーデンで、75万部のベストセラーとなった。

ミカエルさんの自伝的小説である本作は、主人公である「ぼく」の成長する姿を描いている。舞台となっているのは、北極圏にあるスウェーデン最北端のパヤラ村だ。何もない閉鎖された空間で、友人のニイラと共に過ごした日々は、楽しくもあり、美しくもある。

超がつくほど田舎であるパヤラ村には、人生を変えるような刺激は無かった。そんな平凡な日々を変えたのは、ビートルズであり、ロックンロールだった。「ぼく」の姉のレコードプレーヤーをこっそり使い、再生した時のことをこう記している。

「雷鳴がとどろいた。火薬の樽が爆発し、部屋がふっ飛んだ。酸素が部屋から吸いだされ、ぼくらは壁に叩きつけられた。」

あり得ない表現のオンパレードだが、幼い彼らにとってはそれくらいの衝撃だった。その後、彼らはバンドを結成する。最初はお金が無いので、楽器は手作りだった。ロックンロールによる初期衝動は、生半可な気持ちで抑えきれるものではなかったのだ。本物の楽器を手に入れ、下手なりにロックンロールを奏でることが出来るようになるのは、もう少し先の話だ。

本書の大きな特徴として、リアルな描写の中に空想が混ざっていることが挙げられる。そういった、嘘か現実かわからないシーンは、彼らの幼少期に多い。「ぼく」とニイラの2人だけで空港に行き、飛行機に乗る場面は、唐突すぎて戸惑いを隠せなかった。しかし、思い返すと、私も幼少期に説明できないほど奇妙な体験をしている。それは本当に体験したことなのか、おぼつかない記憶が生み出したものなのかはわからない。そういった虚実織り交ぜられた描写により、自分もパヤラ村での出来事を追体験しているかのような気分になれる。

パヤラ村での青春の日々は、ロックンロールによって彩られた。

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