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一日一書評#45「一億円もらったら/赤川次郎著」(2000)

「お金」がテーマの本を教えて欲しいと言われたら、すぐに本作を紹介するだろう。それくらいお金が主体の小説だ。何なら主人公はお金と言っても良いくらいだ。

「一億円もらったら」は、赤川次郎による連作短篇集である。ミステリーのイメージが強い赤川作品だが、本作はまた違う作風となっている。

収録されている5話に共通する登場人物は、大富豪の宮島勉と、秘書の田ノ倉良介の二人である。年を取った宮島は、莫大な財産を持て余していた。遺産を相続する家族もおらず、使い道に悩んでいると、田ノ倉の発案で、見ず知らずの人間に一億円を渡し、その後の人生がどう変わるか観察するという実験を行うようになる。何とも悪趣味だが、この行動が渡した人の人生に思いもよらない影響を及ぼすのだ。

各話に登場する、一億円をもらう人物は、性別も年齢も立場も様々だ。突然目の前に現れた田ノ倉から、一億円を贈与することを告げられた彼ら。困惑する者もいれば、すんなりと受け入れる者もいる。一億円の使い道はそれぞれ異なるが、その額はあまりにも大きく、その後の人生にもたらす影響は凄まじい。

「人が大金を手に入れたらどうなるのか」という簡単な構図によって描かれた小説だが、各登場人物が迎える結末は大きく異なる。それもそのはず、彼らは置かれた状況も違えば、金の使い道も違う。使い道は大きく分けて2種類。一億円を私利私欲のために遣う者、他人のために遣う者だ。ただ、他人のために遣うことが、自分を守ることに繋がる場合もあるので「他人のため」とは何か?と思わず考え込んでしまいそうになる。

本作は「想像を超える大金の面白い使い道」という一種の大喜利である。その結末は、後味が悪かったり、ハートフルだったりする。本作を読むと、「もしも大金を手に入れたら」と、軽々しく妄想するのが怖くなるかもしれない。大金を手にした普通の人々が織りなす人間模様を、是非ご覧頂きたい。


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