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一日一書評#46「学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる/せきしろ著」(2012)

これは、幾多の青春小説をフリにした、壮大なユーモアである。

今回紹介するのは、せきしろさんの「学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる」という短編集だ。著者のせきしろさんは、北海道出身の作家で、著書に「バスは北を進む」「たとえる技術」などがある。

本作には、学校をテーマにした短編小説が36本収録されている。登場人物に名前はなく、シンプルな構成だ。読んでいくうちに、これが普通の小説ではないということに気付くだろう。学校には似つかわしくない奇妙な描写で溢れているのだ。様々な感情を誘発する不思議な物語は、一般的な学校を舞台にした青春小説の皮をかぶって近づいてくる。

学校があって、そこに通う生徒がいて、授業や行事、恋愛がある。そこに見えるのは間違いなく学園生活だ。しかし、主人公の生徒が荒唐無稽な妄想に走ったり、存在意義の不明な部活があったりと、どこかおかしい。さらに、笑えるオチに着地したかと思いきや、センチメンタルなラストを迎えることもある。その終始読み手を翻弄するスタイルは、人を選ぶことを承知で誰かに薦めたくなる。

本作を読んだ私が思うのは、少なくとも学校生活を真正面から楽しめた人間には、この作品は書けないということだ。文化祭や体育祭などの行事や、部活動を良い思い出として捉えていたら、それらに真剣に取り組んでいた生徒たちを茶化すような文章は書けない。逆に言うと、学校がつまらなかった人には、非常に面白い作品に映ると私は思う。

途中まで真面目な青春小説と見せかけて、オチでひっくり返す作品も存在する。一見ふざけているようで、フリの真面目な部分はきちんとした構成力と文章力が無いと書けない。序盤で読み手が違和感を感じてしまうと、オチで笑えなくなってしまうからだ。せきしろさんの、文章を書く確かな技術があるからこそ、本作は成り立っているのだ。

せきしろさんの視点で見た学校生活を、是非味わってみて欲しい。


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