ファンダムマーケティング-「記憶のメカニズムについて」 -
ファンダムマーケティングと題して連載を始めている本noteも4回目です。これまで3回ファンダムマーケティングについて書いてきました。
第一回:「ファンダムマーケティングとは?!」
第二回:「ファンダムマーケティング-「企業の差別化ってどこにある?」-
第三回:「ファンダムマーケティング-「選ばれるブランドが持つ”マインドシェア”の価値とは?」 -
第一回では、ファンダムマーケティング以前にブランドが立ち向かうべき課題について。第二回では、ブランドとしての差別化について。第三回では、選ばれるブランドが持っているマインドシェアについて。
実はこの『ファンダムマーケティング』に至るには、音楽やエンターテインメントを活用する以前にマーケティングのリアルを知らなければいけません。
現状のブランドマーケティングにおける課題の整理や把握、認識がなければ誤解された『ファンダムマーケティング』になってしまうからです。
さて、今回はさらにマーケティング以前の人間の脳みそについて考えていきます。マーケティングという概念が誕生して約100年余りの中で、私たちは物事を考えてしまいがちですが、より大事なのは人間そのものの構造であり、仕組みです。
第三回では「想起」の重要性を考えてきました。これからの時代は「マインドシェア」の戦いになると。そして、それは「第一位選択」だと。この「マインドシェア」のゲームに多くのブランドが業種業態を問わずガチンコの殴り合いを始めます。しかし、その座に座れるのはごくごく限られた一部のブランドです。
「マインドシェア」とは、すべてのブランドが「第一位選択」の戦いをしているゲームであり、ほとんどのブランドが辿り着くことができないゲームでもあります。そこに選ばれるマーケティングの手法、それが「ファンダムマーケティング」です。
そして、「想起」獲得のために重要なのは、まず「記憶されること」です。「記憶」されなければ戦いのリングには上がれません。それはエモーショナルなクリエイティブや有名人の起用、インサイトをおさえたコピーといったものだけではありません。
「記憶の仕組み」を解き明かすこと。ここがまず重要です。
購買も興味もないのに覚えているフシギ
さて、突然ですが以下の画像をご覧ください。
救心製薬です。これをご覧になって、みなさまの頭の中にはあるメロディーが流れているのではないでしょうか。「♪きゅ~しん きゅう~しん♪」です。
僕はいま、36歳で幸か不幸かいまのところ、救心を購買した経験は一度もありません。お世話にもなっていません。もっというと興味も一切ありません。(救心製薬の方ごめんなさい)
続いて、こちらはいかがでしょうか。
伯方塩業の伯方の塩です。「救心」と同じように、みなさんの頭の中でメロディーが鳴っているはずです。「♪はっかったの~しおっ!♪」
我が家にこの伯方の塩があるかどうかも定かではないし、もっというと塩に特段の思い入れも興味も私にはありません。
しかし、なぜ「救心」も「伯方の塩」も私たちは覚えているのでしょうか。エンゲージメントだ!と言われているこの時代に、なぜ購買したことも興味もないブランドのことを私たちは覚えていて、さらにいうと歌えるのでしょうか。
私が調べた限りだと、両ブランドのテレビCMは現在放送されていません。(されていたら誰か教えてください)にも関わらず、私たちは覚えています。この情報大爆発の時代、記憶されるのがとつもなく難しいと言われているのに、覚えている不思議。それはなぜなのでしょうか。
テレビCMを長年やってたから?フリークエンシーが高かったから?歴史あるブランドだから?いろいろ理由はあるでしょう。しかし、同条件を満たしているそのようなブランドはごまんとあります。
人間には短期記憶と長期記憶のふたつが存在する
覚えているものと覚えていないもの。この違いはどこにあるのでしょうか。それは人間の記憶のメカニズムを考えていくと見えてきます。
記憶されるメカニズムとしてまとめたのが上の図です。見方としては左下の「刺激」から見ていきます。まず記憶されるためには、なにがしかの刺激が必要になります。「実際の商品(実体的刺激)」「広告(象徴的刺激)」「クチコミ(社会的刺激)」大まかにわけるとこの3つです。
特にこの「刺激」を司る役割を担うのがマーケティングであるわけです。で、この図でとりわけ見てもらいたいのは図の上半分です。人間には「短期記憶」と「長期記憶」があるという点です。
「短期記憶」とは、15秒以内に90%を忘却するもので、例えば3日前に食べた夕飯だとか、日々あふれる広告などです。
そう、ブランドの広告のほとんどは「短期記憶」に格納されます。コロナ時ではない平常時に朝起きて、出社して、帰宅して、寝るまでに私たちは膨大な量の広告を浴びています。いうなれば、広告のシャワーです。でも、ほとんど覚えていません。見ているはずなのに覚えていない。それは「短期記憶」に格納されているからにほかなりません。
一方、「長期記憶」とは、体験や知識などを格納するもので、脳の容量は無制限です。例えば、自転車の乗り方、お箸の持ち方、車の運転の仕方など一度覚えたら忘れない類のものです。
ここで、重要なのは、音楽(音)というのは、「長期記憶」に格納されるチカラを持っています。ゆえに、私たちは購買ゼロ興味ゼロのブランドだとしても、覚えているのです。
例えば、数年来歌ってないのに、カラオケに行くと歌えてしまう歌はありませんか?それは歌詞(目)では覚えていないけど、メロディーとしては「長期記憶」に格納されているから、すらすらと歌えるのです。
もっというと、マーケティングのマの字も知らない子供も観察していると顕著です。私には4歳の娘がいます。いま、ABCDEFGなどアルファベットを覚えていますが、その覚え方はメロディーです。「♪ABCDEFG♪」と誰もが知っているあのメロディーを歌にして覚えています。歌がなくなると途端に間違えます(うちの娘だけでしょうか)
このように、音楽(音)というのは人間の「長期記憶」に格納されることにより、長く覚えているのです。
これをさらに脳科学的に考えると、聴覚からの刺激は大脳辺縁系に伝わります。そこには記憶を司る海馬や扁桃体への刺激も多く含まれています。つまり、聴覚からの情報は、その場の空気や感情までも包んでおり、それらを含めて記憶として定着させる機能を脳が有しているそうです。
確かに、ある音楽を聴くと思いだす人や場所などはすべてセットで記憶されています。つまり、「記憶させる」ためには聴覚を有効に活用すべきなのです。
「いかに視認させるか」にこれまでのマーケティングは重きを置いてきました。それは変わらず重要です。しかし、より大切なのは「いかに記憶させるか」なのです。
マーケティング以前に私たち人間が本来持っている脳の仕組みや構造を分析することで、見えている発見があります。
そして、音楽(音)は単に記憶させるだけではなく、深く人の心に突き刺すチカラもあります。
改めて、購買ゼロ興味ゼロのブランドでも覚えているのだから、もしもターゲットが好きだったり、思入れがあったり、機能的価値ではない情緒的な価値を与えることができたのなら・・・それは「マインドシェアの獲得」に大きな影響を及ぼすことができるのではないでしょうか。
第四回も読んでいただいてありがとうございました。