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ブルーハーツに憧れて

日々はあっちゅーま
#26,ブルーハーツ


ヒマラヤほどの消しゴムひとつ
楽しい事をたくさんしたい
ミサイルほどのペンを片手に
おもしろい事をたくさんしたい

「1000のバイオリン」より

僕が中学2年生の時、転校生がやってきた。
名前は前島ようすけ君

ちょっぴり癖っ毛の坊主頭とくりくりの目、ひょろっとした体格で、まるで山から降りてきたお猿のような感じの男の子だった。

僕たちはようすけ君の事をスケ、スケっていつも呼んでた。
はるばる熊本県から埼玉の学校までやってきたみたいで、いつも学校の裏手に建っている学生寮から歩いて通ってた。


ブルーハーツ10

自由の森学園(僕たちの中学校)の寮生は、上級生とも一緒の部屋で生活するせいか、いろんな漫画とか音楽とか、悪さとか教えてもらってて、通学生よりもちょっぴり大人っぽい子が多かった。



ある日、休み時間に教室で、
クラスメイトの元ちゃんと僕がゲームボーイソフト「ドラゴンクエストモンスターズ、テリーのワンダーランド」で遊んでいると、

スケがつかつかとやってきて、
「なんだよガキみたいな事やってんじゃねーよ」
と言って去っていった。


僕はいまいち、何がガキっぽかったのかよく分からなかったけど。
スケはあんまりゲームボーイは好きじゃないみたいだった。

ブルーハーツ4

スケは気に入らない授業があると結構サボったりもしてた。

一体、授業をサボって何をしているのか分からなかったけど、今までの3組(僕は3組だった)にはちょっといないタイプの男の子、それがスケだったのだ。


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その頃の僕の好きなことは、通学中に音楽を聴く事と、漫画を描く事で。
アンデスの民族音楽とかクラシックのオーケストラとかを聴いている時が幸せだった。

ちょうどヴィヴァルディーの四季を春・夏・秋・冬集めたばっかりで、毎日聴き比べをしていたのだ。

部活の漫画研究会にも何度か遊びに行ったりしてた。


そんな感じで教室でのんびり音楽を聴いていると、ある日スケがやってきて
「ちょっと聴かせてよ」とイヤホンを奪い取った。

スケはほんのちょっとだけイヤホンを耳に当てると、
「なんだよユーキは訳わかんねぇ音楽聴いてんな」と言ってから、自分のCDプレーヤーを取り出して言った。

「ちょっとこれ聴いてみろよ」


言われるままにイヤホンを耳に当てると、スケが再生ボタンを押した。
途端に満員のライブ会場の声援が鼓膜に響き渡った。


こんばんは!ザ・ブルーハーツです!
ジャーン!

き〜が〜狂いそう!
ナナナナナナナ〜!


びっくりした。

スケがあまりにも爆音で音楽聴いてるのにもびっくりしたけど。
はじめてのロックの、はじめてのライブアルバムは、今まで僕が聴いていたクラシックとは全然同じ音楽とは思えなかった。

スケはニヤリと笑うと、
「いいっしょ?これ貸してやるよ」と言って、傷だらけのCDディスクを僕のプレーヤーに滑り込ませてくれた。


ブルーハーツ5

ザ・ブルーハーツの「LIVE  ALL  SOLD  OUT」
多分、僕が人生で一番繰り返しきいたアルバムだと思う。


終わらない歌を歌おう
クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう
全てのクズ共のために
終わらない歌を歌おう
僕や君や彼らのため
終わらない歌を歌おう
明日には笑えるように

「終わらない歌」より


それからというもの、僕のCDプレイリストからクラシックは姿を消し。
ブルーハーツが全曲を占めるようになった。

後で知ったけど、ブルーハーツは音楽のジャンルでいうと、パンクロックというものになるらしくて。
3コードのシンプルな曲調とか、反抗的なメッセージが特徴らしかった。


ブルーハーツ6

通学中の電車でブルーハーツを聴いていると、これはいかん!という気持ちがムズムズ湧いてきた。

おちおち、のんびり漫画とか描いている場合じゃないぞ。とも思った。
それぐらい、ブルーハーツの歌詞とか歌は僕の心をかきむしった。


役立たずと罵られて
最低と人に言われて
要領よく演技できず
愛想笑いも作れない

「ロクデナシ」より


正直、僕は今までの人生で「役立たず」なんて言われた事は無かったし。
お父さんも、お母さんも、おばあちゃんも優しかったし。
なんならお調子者で「愛想笑い」ばかりだったけど。

ブルーハーツを聴いていると、なぜか自分がロクデナシになった気分になって、なんだか怒りがメラメラと燃えてきた。


とは言っても、社会とか、政治とかちんぷんかんぷんだった中2の頃の僕は、怒るといっても一体何に怒って良いのか分からなくて。



代わりにスケと一緒に、授業をサボって遊ぶようになった。 


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僕たちの通ってた学校は、埼玉の山奥の方にあって、近くには名栗川っていう川が流れてた。

僕やスケや、元ちゃんは、授業をちょくちょくサボっては、河原で泳いだり、飛び込みをしたり、音楽聴いたりして過ごした。


ブルーハーツ7

ブルーハーツのボーカルの甲本ヒロトは、ライブでいつも上裸になったり、裸になって歌ったりしてたから、僕もヒロトみたいに上裸になりたかったんだけど、流石に学校で裸になるわけにはいかないから、代わりに河原で上裸になって岩の上で甲羅干ししたりしてた。


 

生きてる事が大好きで
意味もなくコーフンしてる
一度に全てをのぞんで
マッハ50で駆け抜ける

「未来は僕らの手の中」より


その頃は、そうやっている事がなんだかカッコよくて、パンクな事なんだと思ってた。


学校帰りに近所のマツモトキヨシによって、恐る恐る整髪料を買ってきては、ワックスをベタベタ髪の毛に塗りつけてみたり。

大宮駅のアルシェで、生まれて初めて自分のお金でTシャツ買ったり。
(それまでは、お小遣いは、スクリーントーンとか、Gペンとか、コピックとか、ケント紙に使ってた)

スニーカーはコンバースのオールスターがカッコよくて、しかもハイカットをクタクタになるまで履き潰した奴の方が、尚カッコいいと知ったり。


自分の部屋で、CDコンポから爆音で音楽を流しながら、ベットに向かって一人でモッシュ&ダイブの練習をしたり。
(なんだか本当にライブに行ったみたいな気分になれた)


一緒に住んでいた僕のおばあちゃんは、そんな変わり果てた僕の様子を見て、
「一体、ゆうちゃんはどうしちゃったんだい?」と心配そうにしていたけれども…。


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そんな風に、気分は甲本ヒロトで過ごしていた僕だったんだけど。
ある日、担任の仲本よしこ先生が激怒して、僕とスケを職員室に呼びつけてお説教をした。

今まで大人しくて、素直で純粋だったユーキが、急に授業をサボりだして、河原で焚き火したり、ロケット花火で遊んだりし始めた訳だから、まぁ無理もない事だけど。


とにかく、仲本よしこ先生の怒りはすごくて、僕たちを叱りつけただけでは収まらなくて、片道2時間ぐらいの道のりをかけて僕の家まで車でやってきて、僕のお父さんお母さんと保護者面談を行った。


一体、どれぐらい話し合っていたのか。

日が暮れて、仲本先生が車に乗って帰って行くと、その後夜が更けるまで今度は僕がこってり怒られた。


「あんた、授業サボって悪さするために学校行ってんだったら、地元の学校に行きなさい!」

お母さんも珍しく激怒していた。


ブルーハーツ8

今になって思えば、そこまで生徒の為にする仲本先生の情熱はすごかったなぁ。と思うけれど。


その頃の僕は大人たちへの反抗心でいっぱいだったから、


「やっぱり大人たちは僕の気持ちも分からないで、勝手なことを言っている」

とか思って、一人でスネて尖っていたんだ。
(流石に学校辞めたくなかったから、しばらく大人しくしてたけど)


誰の事も恨んじゃいないよ
ただ大人たちに褒められるような
馬鹿にはなりたくない

「少年」より


何はともあれ、それから中3に上がる頃になっても、スケや、元ちゃんとはずっと仲良しで。

列車に乗って旅に出たり、海を見ながら野宿したり。

自分たちでいうのもなんだけど、映画のスタンドバイミーみたいな毎日を過ごしてた。
(もちろん線路の上も歩いた)


ブルーハーツ9

夕焼け空は赤い
炎のように赤い
この星の半分を真っ赤に染めた

それよりも
もっと赤い血が
身体中を流れてるんだぜ

「夕暮れ」より



その昔、「ロックを聴いたら不良になる」と言われた時代があるらしい。


僕らの時代には、そんな言葉は死語になっていて。
おかげで僕は不良にならなかったし、なれなかった訳でもあるんだけれど。



それでもロックは、あの時、教室の隅で僕の知らなかった世界の扉を開いてくれたから。

今でもロックは、僕にとっての特別な魔法であり続けているんだ。





まぁ、今となっては、パンクロックっていうか、反抗っていうか。
ただの「反抗期」だったような気もするけどね。



ブルーハーツ1

「おしまい」


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