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Jリーグなんて興味なかったはずの私が、ムラサキスポーツでボールを買うに至るまで

【日々はあっちゅーま】
#14,イワン


 
よく初対面の人とのやり取りで、学生時代スポーツ何かやってましたか?という質問があるが。学生時代、スポーツを全くやっていなかった私は、この質問をされると結構困る。


あえて言うなれば、野宿とか、焚き火とか、ヒッチハイクだろうか。


え?それはスポーツとは言わないって?


それならば。と持ち出すのが、
学生時代ではなく、私の漫画喫茶時代の話である。

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季節は10月。


いつものように、夜勤のシフトに入り。清掃を終え、控え室でのんびり漫画を読んでいると。
店内カメラに、見た事もない大きな黒い影が映っていた。


何事かと思ってカウンターに出ると、身長190cmはありそうな、でかいヒグマのような男。


がっしりとした身体つき、むすっとへのじに曲がった口、ブルーの瞳、短く刈り込んだゴールドアッシュの髪。北欧系だろうか。



「May I help you?(お手伝いしましょうか?)」と尋ねる。


「ニェット、ワタシ、英語わかりません。あ、あの…。インターネット、使えますか?」


「使えますよ。そうしたら、身分証見せて頂けますか?えーと…、イワンさんですね。オープン席こちらです」


「あ、ありがとゴザイマス」


いそいそとオープン席に移り、調べ物をする大男。あまりのでかさに、周りに少しはみ出している。


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小一時間は調べ物をしていただろうか。お会計にやってきた。



「あ、ありがとゴザイマス」
「240円です。イワンさんは、どこの国の人ですか?」


「あ、あーっと、ワタシ、ロシアから来ました。イワンです。ニホンゴ勉強してます。学校行ってます。はい」


なるほど、だいたい事情は飲み込めた。

 
「ところで、ネットで何調べてたんですか?」


「えっと…。モスクワの学校ではサッカーできます。でも日本の学校サッカー出来ない。グランド空いてない。ワタシ、サッカーしたいです。でもサッカー出来ない」


要約すると、サッカーをする場所を探しているらしい。


「イワン、OK、分かりました。今大丈夫?ちょっと待っててね」


イワンを待たせて、ネットで色々調べてみる。



すると、となりの西葛西駅に、一般人参加可能なフットサルチームがあることが分かった。



「えーと、イワン。私ゆうきです。よろしく!イワン明日空いてる?時間ありますか?」

「明日、アルバイトあります。学校あります。でも、夜空いてます。はい」


「よし、そうしたら明日の夕方、西葛西で会いましょう。サッカー出来る場所行こう!」

「ほ、ホントデスカ!ありがとゴザイマス!」



へのじに曲がった口が思わずほころんだ。


〜〜〜〜〜〜

 
最初は、フットサルチームの情報だけ渡して、お終いにしようかとも考えたが。見ず知らずの場所で、入会の手続きするのは大変だろうと、一緒について行く事にした。


夕方6時、西葛西駅改札でイワンと待ち合わせる。


「ユキさん!こんにちは!」
「おー、イワン!お疲れ様!」


ボルダリング出来そうなでかい背中に、リュックサックが巾着袋みたいにピッチリ張り付いている。遠くから見ても、ひと目でイワンだと分かる。


フットサルコートまで一緒に歩く。歩いているうちに、だんだんと、イワンが日本贔屓(びいき)だという事が分かってきた。



「ワタシ、日本大好きで日本来ました。源氏物語読みました。古事記読みました。はい。トーゴーヘイハイチロー、すごい人です」


なるほど。


 
「ワタシ日本の音楽大好きです。藤山一郎(昭和歌謡のスター)すばらしいです。青い山脈聴きました。はい」


うんうん。


それにしても、10月なのに半袖短パンで、イワン寒くないの?


「はい。ロシアにオイミャコンという所あります。とっても寒い。日本暖かい。大丈夫。はい」


さすがロシア人。そりゃオイミャコン(マイナス50℃)と比べたら、どこでも暖かいだろうに。

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そうのこうのしてる内に、フットサルコートに到着。



数人の男女がコートの前で集まっている。

「すいませ〜ん。フットサルこちらでいいですか?フェイスブックで問い合わせた前田です。」


「あ、前田さんですね。あと、イワンさん、もうすぐ始まるから着替えて、アップ(準備運動)しててください」




「よしイワン、ここで良いみたい。じゃ頑張ってね」



「…あの〜、ユキさんは、サッカーしないですか?」


「あれ?前田さんは参加しないんですか?」



ギクリ…。
イワンの視線が背中に痛い。
フットサルチームの視線も痛い…。


ですよね〜。そんな訳にはいかないですよね〜。


でも、自慢じゃ無いが。
小学校時代、運動神経が無さすぎて、万年ゴールキーパー要員だった私。


毎日、学校帰りに公園でサッカーして遊んでいた時も、早く終わらないかな〜。早く終わらないかな〜。と心の中でずっと時計を数えてた私。



そんなサッカー嫌いで過ごした少年時代から、はや20数年…。


いいですよ、サッカーでもフットサルでも、やろうじゃありませんか。


〜〜〜〜〜〜

イワンと一緒に軽く走ったり、ストレッチしたり、アップ。

10月のひんやりとした空気が気持ちいい。



ピーッ!
始まりの合図だ。
コートの中央に集まって円になる。


はい、番号ー!


イーチ!
ニー!
サーン!
シーイ!

 
 
奇数と偶数でチーム分け。
はい奇数チーム、ビブス着けてー!
 
ビブス(メッシュ素材のゼッケン)を着ける方と、付けない方でチームを見分ける。


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ピーッ!

さあキックオフ


ポーンポーンとパスが回っていく
パスの合間を縫って、すかさずボールを取りに行く

体を捻って、ボールを遊ばせて選手をかわす、パスを回す


サイドから選手が上がってくる
 

はいユーキ!
はいテッシー!

 

バシッとボールを受け取る、
すかさず奪いにくる選手


はいイワン!

パスを回し
コートを前後に走る


はい、いーよー、いーよー!
へいへいへい!

音楽番組みたいな掛け声をかけながら、
ボールの行方を目線で追いかけ、空いてるスペースへ走り込む


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選手1人抜ける、ドリドリドリ
ゴール前空いてる
いーよーいーよー!


ドーン!

力強くキック決める!
ボールはネットにバシッと突き刺さる


ゴール!
ナイシュー!
ナイシュー!


ハイタッチ、ハイタッチ
はい、気持ち切り替えてこー!

ハーフウェイラインに戻り、再度キックオフ


 
意外や意外、はじめてみると楽しいフットサル。
ボールを追いかけて、パスを回して、また走って。

心臓ドキドキ高まってくる。


 
もっと声!もっと声出して!
はい、声大事!!
ディフェンスしっかりー!

メンバーの皆も優しくて、初心者の私にも、積極的にパスを回してくれる。


はい!そこあいてるよー!
はいユーキ!


バシッとボールを受け取った瞬間、後ろからヒグマのような大男の突進。


ボガーン!

ゴロゴロゴロ…


ユーキ!?
ユーキ!

ユキさーーん!!


集まるメンバー。
いててて、イワン、大丈夫よ…。でも、車に轢かれたかと思った…。
仲間に起こしてもらい、プレイ再開。


はい、気持ち切り替えてこー!


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それからというもの、週に1回、イワンと一緒にフットサルをする日々が始まった。



夕方7時から2時間ぐらい汗を流して、帰りにイワンとご飯を食べる。


大の日本贔屓のイワンだが、食に関しては割と保守的なようで。納豆も、ラーメンも、寿司も苦手。


唯一、肉は食べられるようなので、西葛西のガード下の韓国料理屋で、安い焼肉定食食べるのが2人の何となくの決まりになった。


「イワン、今日も楽しかったね!」
「はい。楽しかったデス」


「最近はどう?」
「はい。ワタシ日本の映画視ました。ビルマの竪琴(1956年制作)観ました。はい」


相変わらず、好みが昭和で止まっている男、イワン。

でも、そんな風に他国の文化に夢中になれるイワンを、ちょっと羨ましくも感じる。



「ところで、イワンは、いつまで日本にいるの?」
「はい、学校終わったらビザ切れます。日本いれない。でもワタシもっと日本いたいです。でも仕事無い。ユキさん、何か仕事ありますか?


「うーん。さすがに仕事の紹介は難しいなぁ…。ちなみにイワンはどんな仕事がしたいの?」


「はい、ワタシ日本の映画に出たいです。ビルマの竪琴観ました。はい」



いや…。出せるもんなら出してやりたいけどねぇ…。

というか、私だって出れるもんなら出たいけどねぇ…。映画。


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兎にも角にも

はじめこそ右往左往していたフットサルだったが、慣れてくるとだんだん欲も出てくるもので。

ムラサキスポーツでフットサル用のボールも買って、夜の公園でドリブルやシュートの練習を始めたり。ランニングを始めた私。


練習の甲斐あってか、だんだんとプレイも様になってきた。


はいユーキ!
バシッ!


前、前、前!空いてるよ!
ドリドリドリ!
はい、かわして、かわして!


フェイントかけて、左右に振って。
ゴール前は空いている!


いっけーっ!
どかーん!


ズバンとボールがネットに突き刺さった。


ユーキ!ナイシュー!
ユーキ!ナイシュー!
ユキさんナイシュー!


ハイタッチ、ハイタッチ、ハイタッチ


フットサルはじめて、初のゴール。
ちょっと涙が出そうになった。

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さらば、小学生の頃の冴えない自分よ、さらば。



そんな風に、楽しく過ごしたフットサルライフだったが。


結局、イワンをプロデュースしたいという監督は最後まで現れず。
ビザが切れたイワンは、年が明けた2月未明、泣く泣く母国へと帰っていった。

 

イワンがいなくなってしまっては、フットサルを続ける理由もないので。
私も自然とフェードアウト。

またいつものような、絵本描きの日々が戻ってきた。


とまぁ、普段椅子に座って絵を描いてばかりで、ほとんど体を動かさない私だが。


フットサルの楽しさを知ってしまって以来、時間を見つけてはランニングに出かけたり、いつでもコートに立てるよう、実のところこっそり準備は怠っていない。


〜〜〜〜〜〜
 


初対面の人とのやり取りで。
前田さんはスポーツ何かやったりするんですか?と聞かれる事がある。

そんな時には気まぐれに、こう答えることがある。






ええ、実はフットサルを少々。


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おしまい



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