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大羊春秋~羊務執筆者党史~(15)

この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。

同人誌摘発事件発生

「第14回『GELBE SONNE 4』」で述べました通り平成3(1991)年2月、男性向同人誌の委託頒布を行っていた東京都千代田区神田神保町の「書泉ブックマート」、同じく神田神保町の「コミック高岡」、東京都新宿区新宿の「まんがの森 新宿店」が警視庁保安一課と神田署、麹町署により摘発され、各店の店長と「書泉ブックマート」の店員2名、合わせて5名がわいせつ図画販売目的所持容疑で東京地検へ身柄を送検されました。
同年2月25日(月)の読売新聞夕刊社会面の記事によると、33種類5039冊を押収したとあります。

事件の第一報とも言える読売新聞夕刊社会面の記事。

また、同年4月15日(月)の読売新聞夕刊社会面の記事では、事件を捜査していた警視庁保安一課と神田署、麹町署は、(4月)15日までに、新たに女性2人含む32人の作者と、印刷会社社長7人、発行元の6人をわいせつ図画販売目的所持、同ほう助容疑で東京地検へ書類送検とあります。
さらに記事には、今回の記事で送検されたのは、身柄、書類合わせて74人。書類送検された作者は、埼玉県浦和市(当時)の無職T(24)ら、22歳から36歳までの32人と記されています。

2ヶ月経ってもまだ報じられた同人誌摘発事件。

私がこの事件を知ったのは、前出の2月25日(月)の読売新聞夕刊社会面の記事においてです。

当初はさほど重要な事件とは思えませんでした。
しかし、次第に同人誌界、そして出版業界をも巻き込んだ極めて深刻な影響を及ぼすものだと認識させられます。

現在のようなネットがまだ存在しない時代、この事件の深刻さや影響を当時どのように認識していったのか、その過程は33年が経った今ではもう忘却の彼方で分かりません。

「MINIES CLUB」(ミニーズ・クラブ)の同人誌は私も前出の書店で買っていました。
確かに、何種類もの本を一斉に売場に並べる派手というか大規模な売り方で目立っていました。それ故に、警察は以前から注意していたにもかかわらず、書店側が応じなかったため摘発に踏み切ったという“噂”を当時耳にしています。
これは飽くまでも私個人の考えですが、同人誌ということで書店側は警察が動かないと高をくくっていたのではないでしょうか。
またこの頃は遊人の漫画「ANGEL」が自治体で有害指定を受けるという、いわゆる「有害コミック騒動」起き、性描写に限らず社会的に漫画へ対する規制が叫ばれた時期であり、その影響もあったと思われます。
「有害コミック騒動」については「Wikipedia」にページがあります。

余談ですが、後日、読売新聞の朝刊か夕刊のどちらかは失念しましたが、この摘発事件について、当時「日本漫画家協会」理事長だった漫画家の加藤芳郎(故人)のコメントが載っていました。それには、どういうツテで摘発された同人誌を目にしたのか知りませんが、これらを“便所の落書き”同然だと酷評し、摘発に賛同するような内容だったのを憶えています。

この事件に関しては次のブログで詳細を知ることができます。
資料性が高い良い記事です。同人誌活動をしている方なら必読と言えます。

事件を受けて、同人誌専門の印刷所間の協議の末、同人誌も商業誌と同様に性器を隠す“修正”を義務付けられます。この頃、まだ「日本同人誌印刷業組合」は設立されておらず、この協議にどこの印刷所が参加したかなど詳細は不明です。
この決定がいつ頃のことなのか分かりませんが、同年4月8日(月)に私達が
『四面楚歌 -第弐号-』を入稿した際には修正を義務付けられていました。

商業誌の“修正”と言っても、この頃の商業誌の修正は、性器の部分にドットが大きめの粗いスクリーントーンを貼っただけで、修正越しに性器が見えているという言わば甘いものでした。
『四面楚歌 -第弐号-』はこれに準じた修正をして印刷所へ入稿、承諾を得て発行することができました。

本誌の初頒布は同年4月21日(日)開催の「コミックレヴォリューション9」でした。当日の会場でも開場前にスタッフが巡回し、無修正本の頒布を禁じる旨を伝えていたと記憶しています。勿論、『四面楚歌 -第弐号-』は修正が施されているため頒布はOKでした。

その後「コミックマーケット準備会」により事態が動きます。
6月に発送された「コミックマーケット40」の当落通知に同封されていた「コミケットアピール」に、修正の具体的な指針が掲載されていたのです。それは白または黒のベタで完全に性器を隠す(消す)ことという旨でした。

これにより商業誌に準じた修正をしその結果、印刷所のチェックを通り、「コミックレヴォリューション準備会」に頒布OKを出されたのにもかかわらず、
『四面楚歌 -第弐号-』は頒布できなくなりました。
この準備会の判断に私達は当時、「コミケ準備会は余計なことをする」と舌打ちしたものです。

「コミックマーケット準備会」が何故このような厳しい方針を打ち出したかは、前出のブログをお読みいただくと分かります。

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いつものことではありますが、この第14回は特に書く(入力する)のに苦労しました。
この事件については避けて通れないため、当初から独立した回で扱うことにしていました。ただ何を、どの程度述べるべきなのか非常に迷いました。
結果、ご覧の通り当時の新聞の切り抜きがまだありましたのでそれを載せ、私自身はなるべくあれこれと私見を述べないようにしました。

執筆(入力?)するにあたり、試しにGoogleで「MINIES CLUB」を検索してみたところ、当時の同人誌が中古ショップでネット通販されているのを見つけ驚きました。これは事件が完全に風化している証拠だと私は思います。

同人誌活動、特に男性向同人誌を製作している方は、このような摘発は今後も起こりうることなので、コミケの開催をも危うくしたこの事件を知るべきでしょう。

《第15回「同人誌摘発事件発生」おわり》

※文中敬称略

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