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大羊春秋~羊務執筆者党史~(16)

この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。

四面楚歌 -第弐号-〈前編〉

平成3(1991)年2月に男性向同人誌摘発事件が起きると、コミックマーケットの開催をはじめ同人誌界の先行きは全く分からなくなりました。

同人誌活動への熱意だったのか、それとも単なるルーチンワークだったのか今となっては分かりませんが、私達はこの状況下でも新刊の発行をもくろみます。
ただ、不透明な状況のため正式な発行物である『GELBE SONNE』ではなく、略式的に新たなレーベルの本を発行しようということになります。
そこでI上と私とで話し合った結果、4年前に発行した『四面楚歌』の復活が決まったのです。
この復活は言ってしまえばI上と私との間での楽屋落ちでした。

“夏コミ”にではなく事件から間もない春のうちに発行としたのは、おそらく今後、摘発により萎縮していく同人誌界の流れに対する反抗心のようなものがあったのでしょう。ちなみにこの時私は23歳、I上は26歳でした。

詳細は次の通り。

『四面楚歌 -第弐号-』の表紙と裏表紙。

『四面楚歌 -第弐号-』
◎入稿日:平成3(1991)年4月8日(月)  ※領収証の日付による。
◎発行日:平成3(1991)年4月21日(日)
◎B5判・36頁・本文用紙70kg・無線綴じ・200部印刷(見本誌12部)
◎頒価400円
◎表紙:エンボス絹目・1色刷り
◎ジャンル:男性向
◎内容(ほぼ掲載順)
・表紙イラスト/七条乱雄斎
・目次カット/七条乱雄斎
・中表紙イラスト/真慧多昭彦(筆者)
・パロディ漫画「ちびま×子ちゃん 前編」(8頁)七条乱雄斎
・アニパロイラスト/七条乱雄斎(3点)
・アニパロ漫画「満月の夜には」(4頁)握手0.5秒
・アニパロイラスト/真慧多昭彦(1点)
・パロディ漫画「ちびま×子ちゃん 後編」(10頁)七条乱雄斎
・オリジナルイラスト/事故り漫談(1点)
・アニパロ漫画「面妖・天空戦記シュラト 娼女破獄」(3頁)とよまえ♡しょう子
・「編集後記」(1頁)
・表紙4写植/監督市川崑

印刷部数の決定はサークルの主宰者である私が最終的に決定するのですが、どういう思考で本誌を200部にしたのか、今となっては分かりません。
当時の先行き不透明な状況では従来通りの100部を維持するべきだと思うのですが…… 理解し難いですね。

印刷所は再び「日光企画」を利用していますが、何故「しまや出版」ではないのかその理由は不明です。
奥付では男性向同人誌であることから、これまでと同様に実名表記を避け「上京龍泉府印刷」としています。

本誌は私の希望で「中綴じ」にする予定でした。本文の構成もそれを意識したものになっています。ところが、印刷所に中綴じは製本が外注になるため納期に間に合わないと言われ、やむなくいつも通りの無線綴じにしました。

表紙4はイラストではなく、『史記』「項羽本紀」登場する“四面楚歌”の件の漢文にしました。これはI上のアイディアです。
監督市川崑による写植ですが、“四面楚歌”の文字がちょうど中央に配置され、またフォントも良く私は大変気に入っています。

都内の書店で委託頒布されていた男性向同人誌が摘発されたのを受け、印刷所の指示により同人誌も商業誌同様、性器を隠す“修正”を施すのが必須となりました。修正の無い本を印刷所は受付けてくれません。
商業誌の“修正”と言っても、この頃の商業誌の修正は、性器の部分にドットが大きめの粗いスクリーントーンを貼っただけで、修正越しに性器が見えているという言わば甘いものでした。
『四面楚歌 -第弐号-』はこれと同様の修正をして印刷所へ入稿、承諾を得て印刷してもらうことができました。

初頒布は「コミックレヴォリューション9」を予定していましたが、不測の事態が生じた場合を考慮して、会場への直接搬入ではなく前もって私達で受け取りに行きました。それがいつだったかは忘れてしまいましたが、M本の車で向かったと記憶しています。

そして予定通り初陣こと初頒布の日となりました。
当日は開会前にスタッフが各サークルのスペースを巡回し、修正の無い本の頒布を禁じる旨を伝えていたと記憶しています。勿論、『四面楚歌 -第弐号-』は修正が施されているため頒布はOKでした。

【コミックレヴォリューション9】
◎開催日:平成3(1991)年4月21日(日)
◎会場:東京都豊島区池袋「サンシャイン文化センター ワールドインポートマート」
◎配置場所:「丸の内線の間 X-16A」
◎売り子:M本・真慧多昭彦

搬入数は44部で頒布結果は44部でした(完売)。

ここで不審に思うことがあります。
不測の事態が起こりうる不透明な状況のため、印刷した全部数を搬入するのを控えるのは当然として、何故44部という少なさなのか?
当時、会場をザッと見回したところ、新刊を出しているのは「SSP」ぐらいしかありませんでした。この状況で44部しか搬入しなかったということは絶好のチャンスを逃したことにほかなりません。
この搬入部数にした理由は記録が無いので分かりませんが、23歳にしては若者らしい覇気が無く、度が過ぎた慎重さには我ながら呆れてしまいます。

この有り様にさらに追い打ちをかけるように、このあと事態が動きます。

後半へ続く。

同誌の目次。『GELBE SONNE』と違い2頁目(表紙2)に配されている。
「ちびま×子ちゃん 前編」の扉。

《第16回「四面楚歌 -第弐号-〈前編〉」おわり》

※文中敬称略

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