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遅ればせながら、読後感です

遅ればせながら、マイケル・サンデル教授の「これからの『正義』の話をしよう(いまを生き延びるための哲学 鬼澤忍訳 早川書房 2010年8月27日)を読みました。
大学での講義をベースに書かれているので分かりやすい内容でした。

既にいろいろな方が紹介されていますし、いろいろな読み方があると思いますが、私には2つの感想があります。

1つは、2008年-2009年の金融危機において救済された金融業界がボーナスを支払ったことに対して批判が起きたことに関し、「人間には成功がもたらす報酬を手にする権利があるという考え方は、アメリカンドリームの中核をなしている」とし、オバマ大統領の言葉を載せています。

ここはアメリカです。われわれは富を軽蔑しません。他人の成功を妬んだりしません。そして、成功は称えられるべきだと確信しています。しかし、人々が当然にも憤慨しているのは、失敗した経営者が報酬を得ていることです。その報酬を納税者がまかなっているとなれば、なおさらです(役員報酬についてのオバマ大統領の所見 2009年2月4日)

マイケルサンデル教授の近著の「The Tyranny of Merit」の中で、これまでの政権(民主党も共和党も)が「アメリカンドリーム」を「是」として、幾度となく唱えてきたこと、しかし、実際はそのドリームを実現するには難しい所与の格差があることを指摘しています。

アメリカ国内の「分断」については、サミュエル・ハンチンソンが2004年に「分断されるアメリカ ーナショナル・アイデンティティの危機(原題はWho are We?)で、人種的多様性から解き明かしていますが、サンデル教授の近著を読むと、わずか10年間で「分断」の要因が大きく変化したかのようです。いまや、オバマ大統領の「富を軽蔑しません」が変わりつつあるのではないかと思います。

翻って、日本。ハンチンソンが言うような「分断」はないと思いますが、富による「分断」は日本でも起こりえるのではないかと感じました。

また、アメリカと日本の彼我の差を改めて思い知らされました。日本には「成功は称えられるべきだ」という社会的コンセンサスはないように思います。

2番目の感想は、ベンサムの功利主義から「正義」を論じていますが、「最大多数の最大幸福」という言葉は久しぶりに目にしました。しかし、このアプローチは普段のビジネスでの「判断」では普通のアプローチです。「メリットとデメリット、プロス・コンス」。私が関わってきたビジネスでは「正義」という尺度で物事を真正面から測ることがありませんでしたので、「正義」という視座を入れてみると判断がどうなるだろう、と考えてみました。
ただ、それは「正義に適っているのか」というような議論をしても浮き世離れと思われてしまいますから、「真・善・美」とでも言い換えた方がいいかもしれません。

それにしても、上手い邦題をつけたものです。原題は「Justice (What`s the Right Thing to Do?)。「正義」、だけです。副題も上手いです。早川書房の編集者のセンスに脱帽します。近著の邦題が楽しみです。

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