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日常的状態と例外状態 カール・シュミット的考察~北海道経済~

例外状態に目を向ければ、現実の意味や本質が明らかになる。

中公新書から蔭山宏氏の「カール・シュミット」が出版されました。同書は「尊敬すべき敵」の思想と理論を精緻に解説した入門書、と帯に書かれていとおり、カール・シュミットの経歴・思想・理論について分かりやす記載されています。

カール・シュミットは、ナチスの桂冠法学者とも言われ、稀代の思想家か、ナチスのイデオローグか、と毀誉褒貶のあるドイツの法学者です。樋口陽一氏訳の「現代議会主義の精神的状況(岩波文庫)」では、ワイマール体制への幻滅から、議会主義の精神史的な基礎は過去のものとし、議会主義と民主主義の連関を切断し、ドイツの新しい政体を暗示しています。

こうしたカール・シュミットの思想については、ここでは触れません。シュミットの政治学のアプローチは現在のコロナ禍の私たちの生活を分析するのに有益だと思います。それが「例外状態」の分析です。

蔭山氏の言葉を引用しましょう。

「我々はとかく、「常態(日常的状態)」こそが、すぐれて現実なのだから、現実を学問的に認識するには「常態」を対象とすべきであり、「例外」を取り上げても現実の理解には役立たない、と考えがちである。
ところが、カールシュミットにとって重要なのは、例外状態であって日常的状態ではない。常態を自明なあり方とみなしていると気づかないか、常態は無数の条件が織りなされた結果、常態として現象しており、そうした条件の一部、または不可欠の要素が突然失われたりすると、例外状態が生まれる。したがって、現実の意味や本質を明らかにするには、同じことが繰り返される日常的な現実を中断し、その外部に出て、日常的現実を成り立たせている基礎に目を向けなければならない。

北海道経済を見てみましょう。近年、インバウンド観光客で北海道経済は潤っていました。ニセコにはオーストラリアからの不動産投資が増え、それに関連する電気工事などが増えていました。主要都市・観光地にはインバウンド観光客が訪問し、運輸業・飲食業・ホテル産業などの観光関連産業は盛況でした。

これがコロナによって観光客が蒸発してしまいました。インバウンド喪失という例外状態になってはじめて、北海道経済の根本において支えている条件に気づくのです。

なぜ、北海道開発庁が設置され、かつては北海道庁より予算規模が大きかったのか。なぜ政府がウポポイという北海道初の国の博物館となるアイヌ民族博物館を造ったのか。

地政学的にみて北海道が北の守りの地であることは自明です。新千歳空港は航空自衛隊千歳基地がある千歳空港と併設し、新千歳空港から札幌に向かう時には、戦闘機の離発着を目にすることがあります。

スクランブル発進は、昨年は対ロシア機は268回でした。このすべてが北海道からではないでしょうが、北海道は北の守りの重要な地であり、この地に国が財政支援するのは国防の観点からは当然のことでしょう。インバウン経済が蒸発し、北海道経済、そしてその基礎をなす要素が浮き彫りになったと言えると思います。

例外状態の今、北海道=観光地、だけでなく、北海道=国防の要、ということを再認識すべき時かもしれません。

写真は、アイヌ民族博物館からみたポロト湖です。

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