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展示制作プロセスを一挙公開!展示に隠された見えない奮闘記 #04

ライター情報:小林 沙羅(こばやし・さら)
科学コミュニケーター。大学で分子生物学を勉強したあと、研究所の広報、フリーランスのサイエンスイラストレーター・アニメーションクリエイターを経て未来館へ。未来館では展示制作に携わったり、たまにイラストを描いたりしています。

今回の記事では科学コミュニケーターの⼩林沙羅が、展⽰制作現場の裏側の様⼦をお届けします。普段なかなか見られないディープな(?)セカイを覗いてみてください。

何から始まるの

2022年3⽉12⽇、いよいよ施⼯がスタート!

と、その前に。

まずは先住の展⽰を撤去するため、展⽰場所をついたてで囲い、「展⽰準備中」の看板を設置します。

準備中の看板をテクニカルスタッフの皆さんに設置してもらっています

 

撤去が進むあいだ、サンプルを⾒ながら展⽰物の素材や形を決めていきます。

材質や発⾊は展⽰の雰囲気を⼤きく左右するのでチームの皆で何度も検討を重ねます。

⾊の発⾊を確認している様⼦。緑は窓枠の⾊、えんじは微⽣物センサーの⾊


実際の展示での窓枠はこんな感じ


実際の展示での微生物センサーはこんな感じ


「サンプル」といえど侮るなかれ。

展⽰のシンボル「微⽣物多様性」の縦看板は、実際と同じ素材のシートに実⼨代の「様」を出⼒したサンプルを作ってもらったんですよ!
(それにしてもどうして「様」の字がサンプルに選ばれたんたんだろう・・)

展⽰の⾓にある「微⽣物多様性」の「様」の⾒え⽅を確認している様⼦
照明の当て⽅で印象が⼤きく変わるので、できるだけ実際の照明に近づけます

続いてはグラフィックシートの確認です。

⽂字やイラストの大きさ、⾊などを確認するため実⼨のサイズで出⼒してチェックしていきます。

ここでもチームで意⾒を出し合うことが⽋かせません。

(ちなみに、⾊覚の多型に対応した⾊かどうかを判断するのには「⾊のシミュレータ」というアプリを使っています。)

約1年にわたって携わってきた展⽰企画がパソコンの画⾯から出て、⽬の前に⼤きく映し出された時の感動といったらもう・・・!

⻑かったこのプロジェクトのゴールが近づいてきているんだなと、感慨深い気持ちになったことを覚えています。

また、オフィスの廊下で作業をしていると通りがかった⼈が声をかけてくれて、館内のコミュニケーションが促進されたというおまけの効果もありました。

廊下にグラフィックのサンプルを貼りだしたときの様⼦
廊下の突き当たりまで、チームの科学コミュニケーター総出で貼り出しました!

 

いよいよ現場の様子を公開!

展⽰を組み⽴てる現場は、先住の展⽰の撤去が終わり、がらんとしています。

ここからどんどん組み上がっていきますよ〜

2022年3月12日 いよいよ施工が始まりました


2022年3月17日 木のフレームが組みあがってきました。展⽰公開まであと34⽇!

 

2022年3月24日 「微生物多様性」立て看板を設置中。
実際の展示では5枚の層になっているので、1層だけの姿はこの時だけ。
展⽰公開まであと27⽇!


ビジョナリーの伊藤さんと現場確認。施工中何度も足を運んでいただきました

 

そして、今回の展⽰の⽬⽟のひとつ、本物の植物たちが運び込まれました。

未来館の展⽰の中にこれだけの規模で本物の植物を入れるというのは、今回が開館以来初めてのチャレンジでした。屋内の環境で枯れはしないか、安全⾯は⼤丈夫か、そういったことに気を配りながら作っていきます。

2022年3月28日 植栽を設置している様子。
床下には配線があるので、水がしみないようにしっかり防水します。
展⽰公開まであと23⽇!


2022年3月30日 なぜ屋内で傘!?
こちらは蛍光塗料の発色や塗る位置を確認するために手元を日傘で暗くしています。
展⽰公開まであと21⽇!

 

現場で働く人たち

ここまで施⼯現場で展⽰が出来上がっていく様⼦を⾒てきましたが、実は作業の多くが閉館後の⼣⽅から夜中にかけて⾏われていたんです。

施⼯する時の⾳が他の展⽰を⾒る時の邪魔にならないよう、皆が寝静まる夜(・・・と閉館⽇)がゴールデンタイムというわけです。

夜中にもかかわらずテキパキと作業をこなす職人の皆さんは本当にタフで、私にはとてもたくましく⾒えました。

こうしてようやく展⽰が完成!!

ここで施⼯の様⼦をタイムラプスでご覧ください。もう、これを読んでいるみなさんも涙なしには⾒られない!・・・はず。

ちなみにBGMは未来館の科学コミュニケーターで、この展⽰のディレクターを務めた櫛⽥さんのクラシックギター演奏です。(動画の編集も櫛田さんがやってくれました。)


どんな気持ちでつくっていたの

最後に個人的な思いを少し。

この展⽰は私が未来館に来て初めて携わった展⽰企画でした。

私が未来館に入った理由のひとつは、展⽰というスケールの大きなものを作ることを通して、いろいろな⼈とつながりながら仕事をすることでした。

実際に展⽰制作に携わってみて、多くの⼈が関わるということはそこに関わった⼈の数だけ、異なる価値観や⾒えている世界がある、ということを強く実感しました。

例えば展示空間のイメージ。

それまでテキストをベースに進めてきた議論から、展示空間のイメージを描き起こす段になった時、当たり前のことかもしれませんが、3人の科学コミュニケーターが全く違った景色を頭に思い描いていました(前の記事にイメージ図があります)。

それまでは言葉を交わしつつも「ほんとにこの議論嚙み合っているのかな」と不安感じることも何度かありましたが、それぞれの頭の中を視覚化することで、議論や言葉の解像度がぐっと上がってきました。

一方で、視覚化することに関してはチャレンジングなこともありました。

私は科学コミュニケーターの他にイラストを描く仕事もしていて、これまで見えないものを可視化することや、難しいことを視覚的にわかりやすく表現することに重きを置いてきました。

しかし企画を進めていたある日、ビジョナリーの伊藤さんから「見えないものを可視化することは大きな力を持つけれど、どんなにわかりやすく可視化しても自分の考えを聞き入れてもらえないことがある。見えないものを見えないまま知覚すること、見えない存在に思いを馳せることも重要」というような指摘がありました。

イラストという視覚を重視した作品作りにそれなりに真剣に取り組んできた私は、その言葉を聞いたとき自分の軸が揺らぐ感覚を覚えました。その指摘があったからこそ、伝え方の方向性がぐっとクリアになってコンテンツの表現の幅が広がっていったような気がします。

例えばグラフのような視覚的な情報以外に、そこに居るだけで何かを感じられるような雰囲気に空間が作られていったり、においや触覚を使って伝えるコンテンツが加わったり、微生物そのものではなく植物が分解されていく様を通して多様な微生物の存在や命の循環を感じるようなアート作品が導入されたり。

いろいろな価値観や気持ちが重なり合ったり、混ざり合ったり、ぶつかり合ったり、そうやって全く新しいものが出来上がってくるのを肌で感じました。あらゆるエネルギーがダイナミックに渦巻く荒波に揉まれて、ちょっとだけ成⻑した気がします。

最後に制作現場のこととはちょっとずれましたが、展⽰に⾜を運んでいただいたときには、クレジットに載っていないたくさんの⼈の⼒が集まって、展⽰ができているということを感じながら見ていただけたら嬉しいなと思います。

(展⽰だけではなくて、セカイもそうやって回っているんだなあと、⼩林はちょっと照れくさいことをたまに思ったりもします)

ということで、最後まで読んでいただきありがとうございました!

次の記事もぜひお楽しみください~

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