リコリス・リコイル公式note
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『ファントムメナス』⑨
マダムの拳。
落としきった重心で、靴をアスファルトに喰らい付かせ、太い下半身で体を送り出しながら腰、背筋の捻り、肩の回転、肘の屈伸……全身の全ての力を込めた一撃が来る。
鍛え上げられた体で放たんとするのは恐らく中華系の拳法。
彼我の体重差は目算四〇キロ、真横からの超至近距離――喰らえば、内臓の損傷は避けられず、致命傷にもなりうるのを感じさせた。
よけらない。受けられない。いや
『ファントムメナス』⑧
鍵の閉まる音を切っ掛けに、たきなは音もなく、そして迅速に警戒しながら進んで行く。
まずは隣の家の敷地に入り込み、そのさらに隣の家の敷地に……ぐるりと大きく迂回しつつ、再び公園が見える位置に付く。
彼女は、相変わらずそこにいながら、たきなを見ていた。まるで動きを完全い捕捉していたかのように。
向こうは手には何も持ったずにベンチに深く腰掛けている……が、リュックは前にある。そこに銃が入っ
『ファントムメナス』⑦
「千束!」
たきなは倒れている千束に駆け寄ると、オロオロぷるぷると震えるばかりのクラリスを押しのけ、膝をつく。
敵の銃は二二口径程度の小口径の弾。一発被弾した程度なら……頭部、心臓などの重要器官以外ならまず即死はしない。治療は可能だ。
一目で頭部ではないとわかった。頭部の被弾は血が目立ちやすく、色素の薄い千束の髪ならなおさらだった。
ならば腹部か。
そもそもリコリスの制服は簡易
『ファントムメナス』⑥
クルミの行動は迅速だった。
千束達との通信が途切れた事に気づき、再接続を試みつつも二人のスマホにコール。こちらも接続できず。
即座にラーメン弐郎亀戸店をハッキングし、そこの監視カメラ映像を抜き取り、それを高速再生させて確認する。
……だが、たきなが尾行者を捕まえたのがフレーム隅でギリギリで見て取れるだけで、有益な情報はあまりなかった。
近隣は商店街というわけでもないため、そこまで監
『ファントムメナス』⑤
千束がクラリスと共に小走りに横断歩道を渡ってくるのが見えた時、すでにたきなはやるべき事を終えていた。
尾行者の肩をつかむと同時に引き寄せ、バランスを崩しかけた相手の膝裏につま先で軽く一撃を与えてその場に跪かせると、背後から髪の毛をわしづかみにしつつ、もう一方の手で逆手に握ったペンを頭蓋骨と頸骨の隙間に軽く突き立てていた。
やや上向き加減のペン先はすでに皮膚を破っており、もし暴れようものな
『ファントムメナス』④
店に入った瞬間に全員が声を漏らした理由……一つは、正直さして広くない店内にも、さらに人が並んでいた事、そしてたきなの想像よりも大盛りの、何ならどんぶりから山のようにせり上がっているラーメンが目に入ったからである。
「……あの、千束。わたしの記憶が正しければ、このお店では食べ残しがあると大変な目に遭うっていうのがありませんでしたっけ?」
え!? と、クラリスがたきなを振り返り、そしてカウンタ
『ファントムメナス』③
ミズキの車は蔵前橋通りを東へと進み、錦糸町の隣町、亀戸に入って少し行った所で停められた。
てっきり通りに入った時は、くず餅で有名な『船橋屋』か、優しい味わいで知られる『花いなり』にでも行くのかと思ったが、千束が車を止めるように言ったのはそれらを少し過ぎた路上だった。
「じゃ、ミズキ、もう帰っていいから。こっから歩いてく」
降り立った千束が、助手席の窓から中をのぞくようにして、言った。
『ファントムメナス』②
クラリスと千束が握手をした後、阿久津が立ち上がるのを待って……ようやく、そして、何故か今一度ミーティングが始まる。
「あの、先ほど訊きそびれたんですが……何で今ミーティングをやるんですか?」
思わずたきなが尋ねると、ミカが苦笑し、千束が顔を見てくる。
「ミーティングは大事だよ? たきな」
「それはわかってますけど……」
ミーティング自体に不満があるわけではないし、不要だと思った事
『ファントムメナス』①
今宵は喫茶リコリコのゲーム会だった。
やっているのは『人狼』。
小上がりになっている畳席に加え、カウンター席まで利用しての、九人+進行役のゲームだ。
「役職の確認は終わりました。それでは夜明けです。皆さん、顔を上げてください。」
進行役のたきなが言うと、顔を伏せつつ、トントンと座敷席のテーブルやカウンターの卓を叩いていた一同が動きを止め、顔を上げる。
「朝、村では井ノ上村長が無残な