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『ファントムメナス』③


 ミズキの車は蔵前橋通りを東へと進み、錦糸町の隣町、亀戸に入って少し行った所で停められた。

 てっきり通りに入った時は、くず餅で有名な『船橋屋』か、優しい味わいで知られる『花いなり』にでも行くのかと思ったが、千束が車を止めるように言ったのはそれらを少し過ぎた路上だった。

「じゃ、ミズキ、もう帰っていいから。こっから歩いてく」

 降り立った千束が、助手席の窓から中をのぞくようにして、言った。

「何よ? 折角ならお店までおくったのに」
「や、それがさ。店の前に車止めたりするとちょっと迷惑っていうか、たびたび問題になってるみたいだからさ。ここでOK」
「そ? そんじゃ先に帰っちゃうけど」

 先に降りていたたきなは、クラリスの様子をうかがう。

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