リコリス・リコイル公式note

リコリス・リコイルの公式noteができました! ストーリー原案者・アサウラ先生の書き下ろし小説のほか、リコリス・リコイルの最新情報を掲載していきますので、応援よろしくお願いします!

リコリス・リコイル公式note

リコリス・リコイルの公式noteができました! ストーリー原案者・アサウラ先生の書き下ろし小説のほか、リコリス・リコイルの最新情報を掲載していきますので、応援よろしくお願いします!

メンバーシップに加入する

リコリス・リコイルのストーリー原案者、アサウラ先生の書下ろし小説などを発信していきます。 週に一度の更新を予定していますので、お楽しみに!

  • スタンダードプラン

    ¥600 / 月
    初月無料

マガジン

最近の記事

『invisible backup』 ③

 ツユのアイディアを伝えると、楠木は二つ返事で了解してくれた。  それが焦りによるものなのか、単純に良いアイディアだとして受け入れてくれたからなのかはわからない。  ツユはサッチェルバッグを脇に置いて、棚に背を預けると膝を立てて座る。  若干の恐怖を感じつつも、銃を足と腹部の間に挟むようにして置くと、素早く、そして可能な限り静かにバッグからテープを取り出した。  工作は無論、負傷時にも用いる何かと便利なそのテープ……正式名称はあったが、みんなダクトテープやら布テープ、は

    • 『invisible backup』 ②

       体は可能な限り低く、足音は殺し、慎重に前へ、前へ。  頭ではわかっている。敵は建物の中。司令部が監視している。だから、さっさと歩いて行けばいい。  けれど、自分の鼓動はうるさい程に鳴り響き、吐息は乱れ、全身の毛穴からじわりと汗が湧き続けている。  ちょっとした衣擦れの音が怖い。ローファで踏んづけた小石の、カチっというその音なんて心臓が止まりそうになる。  まるで自分の居場所を世界中にアピールしているんじゃないか。そんな気にさせる。 『怯えるにはまだ早い。進め』

      • 『invisible backup』 ①

         何と言う事はない、普通の仕事。  それも、あっという間に終わる。  ……そのはずだった。  発砲した瞬間、目の前の状況がそのサードリコリス――鴨跖ツユには理解できず、思わず固まった。  目標はモデルのようにすらっとした長身で、長髪の女。これを撃った。  ヘッドショット。絶対に当てられる距離にまで接近しての、それも相手の完全な不意をついての……そんな完璧な一発。  サプレッサーから亜音速で飛び出した四五口径が女の側頭部に喰らい付き、頭蓋骨の中でその恐るべきパワーを解放

        • 『To each their own』

           ※本作はヒマを持て余したタイミングなどにお読みいただく事をおすすめします。  うららかな午後の日差しを浴びて、店は穏やかで温かな空気で満ちていた。  これを喫茶リコリコに当てはめると、要は、〝天気が良く、時間帯も悪くないのに何故か客が少なくてマジでヒマ、何で?〟という意味になる。  特に、千束にとってはその意識が強い。  客商売というのは大勢の人と出会い、交流し、そして良くも悪くもイベントが多発する楽しいもの……だと幼少期は思っていたが、なかなかどうして現実というのは

        マガジン

        • 『invisible backup』
          3本
        • 『To each their own』
          1本
        • 『A Day of No Guns』
          6本
        • 『ザ・アンリマーカブル・ナイト』
          5本
        • 『フキの恩返し』
          5本
        • 『ファントムメナス』
          11本

        メンバー特典記事

          『invisible backup』 ③

           ツユのアイディアを伝えると、楠木は二つ返事で了解してくれた。  それが焦りによるものなのか、単純に良いアイディアだとして受け入れてくれたからなのかはわからない。  ツユはサッチェルバッグを脇に置いて、棚に背を預けると膝を立てて座る。  若干の恐怖を感じつつも、銃を足と腹部の間に挟むようにして置くと、素早く、そして可能な限り静かにバッグからテープを取り出した。  工作は無論、負傷時にも用いる何かと便利なそのテープ……正式名称はあったが、みんなダクトテープやら布テープ、は

          『invisible backup』 ②

           体は可能な限り低く、足音は殺し、慎重に前へ、前へ。  頭ではわかっている。敵は建物の中。司令部が監視している。だから、さっさと歩いて行けばいい。  けれど、自分の鼓動はうるさい程に鳴り響き、吐息は乱れ、全身の毛穴からじわりと汗が湧き続けている。  ちょっとした衣擦れの音が怖い。ローファで踏んづけた小石の、カチっというその音なんて心臓が止まりそうになる。  まるで自分の居場所を世界中にアピールしているんじゃないか。そんな気にさせる。 『怯えるにはまだ早い。進め』

          『invisible backup』 ①

           何と言う事はない、普通の仕事。  それも、あっという間に終わる。  ……そのはずだった。  発砲した瞬間、目の前の状況がそのサードリコリス――鴨跖ツユには理解できず、思わず固まった。  目標はモデルのようにすらっとした長身で、長髪の女。これを撃った。  ヘッドショット。絶対に当てられる距離にまで接近しての、それも相手の完全な不意をついての……そんな完璧な一発。  サプレッサーから亜音速で飛び出した四五口径が女の側頭部に喰らい付き、頭蓋骨の中でその恐るべきパワーを解放

          『To each their own』

           ※本作はヒマを持て余したタイミングなどにお読みいただく事をおすすめします。  うららかな午後の日差しを浴びて、店は穏やかで温かな空気で満ちていた。  これを喫茶リコリコに当てはめると、要は、〝天気が良く、時間帯も悪くないのに何故か客が少なくてマジでヒマ、何で?〟という意味になる。  特に、千束にとってはその意識が強い。  客商売というのは大勢の人と出会い、交流し、そして良くも悪くもイベントが多発する楽しいもの……だと幼少期は思っていたが、なかなかどうして現実というのは

          『A Day of No Guns』⑥

           カスミが穴を見上げてみると……どうやらフキは小さな空調の穴を無理矢理に通り抜けてきたらしい。小柄なカスミでさえ躊躇う小さな穴なのだが……。  よくここを……これがファーストリコリスの力なのか。  カスミは初めてファーストの凄みを感じた。 「んだよ、終わってんのか。誰が……」  フキはマッチョ達を見た後、確認するように辺りを見渡す。  すると、ぼうっと立っていたカスミを彼女の視線が通り過ぎていく。 「あの」  危うくスルーされそうになったのを感じたので、カスミは小さ

          『A Day of No Guns』⑤

           千束は暗闇になった虚を突いたのか、ベレッタ92FSを握るスーツの手首を両手で掴んでいた。  しかも発砲がないままベレッタの排莢口から力なく弾薬が飛び出し、さらに二人の足下へ向かってマガジンが落ちていく。  千束は初手で、一瞬で、見事なまでに銃を完全に無力化したのだ。  スライドを押し込む事で発砲を防ぐと同時に装填された弾薬を抜き、マガジンリリースボタンを押し込んだ――言葉にすればさしたる事ではないが、これを敵が握っている銃でやるというのがまともではない。  当然スラ

        記事

          『A Day of No Guns』⑥

           カスミが穴を見上げてみると……どうやらフキは小さな空調の穴を無理矢理に通り抜けてきたらしい。小柄なカスミでさえ躊躇う小さな穴なのだが……。  よくここを……これがファーストリコリスの力なのか。  カスミは初めてファーストの凄みを感じた。 「んだよ、終わってんのか。誰が……」  フキはマッチョ達を見た後、確認するように辺りを見渡す。  すると、ぼうっと立っていたカスミを彼女の視線が通り過ぎていく。 「あの」  危うくスルーされそうになったのを感じたので、カスミは小さ

          『A Day of No Guns』⑤

           千束は暗闇になった虚を突いたのか、ベレッタ92FSを握るスーツの手首を両手で掴んでいた。  しかも発砲がないままベレッタの排莢口から力なく弾薬が飛び出し、さらに二人の足下へ向かってマガジンが落ちていく。  千束は初手で、一瞬で、見事なまでに銃を完全に無力化したのだ。  スライドを押し込む事で発砲を防ぐと同時に装填された弾薬を抜き、マガジンリリースボタンを押し込んだ――言葉にすればさしたる事ではないが、これを敵が握っている銃でやるというのがまともではない。  当然スラ

          『A Day of No Guns』④

           散開するように、三人はそれぞれにプリクラ筐体から出る。  千束はシャッターのしまっている出入り口側のスーツ、たきなは事務所へ続く扉の前に立つマッチョへ。カスミもまたたきなから離れて大きく迂回するようにしてマッチョの方へと向かった。  打ち合わせたわけではなかったが、自然とそうなった。  それは恐らく、スーツの方が腕が上だと千束もたきなも判断したせいだろう。  たきなは、千束の心配はもう辞めていた。  足周りが弱くとも、暗闇の中で戦う事になったとしても……恐らく自分より

          『A Day of No Guns』③

          「あの、千束……? これは?」 「ほら入って入って」  ゲームセンターの一角に複数台鎮座する、女性の顔がドでかく写る垂れ幕で覆われた謎の大型筐体。  千束はその中の一つに颯爽と入って行くのだが……たきなとカスミは思わず立ち止まってしまった。 「カスミ、これ、知ってます?」 「さぁ、何でしょうか」  情報を取得しようとしばし観察していると、どうやら証明写真を撮る要領でシールを作る機械らしい……と理解できたと同時に、たきなは思い出した。 「あ、これ、プリクラですか」

          『A Day of No Guns』②

           たきなが見た限り、そのサードリコリスの顔は完全に他のゲームセンターの客と同じで、今、目の前で起こった事が現実として受け入れられず、驚き、そして硬直している……というような感じである。  どう見てもあのスーツとマッチョを処理するために現場に侵入し、作戦を遂行中のリコリスには見えなかった。 「へい、彼女!」  ベンチに座っていたそのサードの左隣に、千束は声をかけつつ座った。  ……が、サードは無反応だった。  ツンと千束が彼女の肩を突く。サードが押されるようにして体を傾

          『A Day of No Guns』①

           たきなは、千束に頬ずりするようにして顔、そして体をも寄せる。  肩、そしてお互いの髪がそっと触れ合うも、頬同士は触れあう事はなかった。  たきなの頬が感じたのは千束の細く長い指と、スマホの硬い感触。 「もしもーし」  千束の声から数秒を経て、二人の間に挟まるスマホから聞き覚えのある声――楠木司令だ。 『……何だ? 今忙しい、後にしろ』 「こっちも結構緊急なんですけどぉー。言っちゃぁなんですけどね、楠木さん、ちゃんと仕事してます?」 『何の話だ、要点を言え』

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』⑤

           千束はピザを大皿に載せると、小上がりの方へと持って行く。中央にちゃぶ台が再び鎮座し、それを囲むようにL字型に布団が備えられた、それ。  まさに、夜中のパーティ仕様である。  そこにカトラリーやピザカッター、皿、そしてコップ……トドメに14インチタブレットがスタンドで立たせられているという状態だった。  そこにトコトコと店の奥からクルミが大型のポテトチップを持ってやって来ると、彼女はそれをためらいなくパーティ開きにしたのだった。 「ヒューッ!! まさに喫茶リコリコ・オ

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』⑤

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』④

           寝なきゃいい。  寝る前に食べると太る。それは問題だ。しかし空腹だ。……ならば、寝なければいい。  たきなや千束の中には存在しない発想だった。  まさにコペルニクス的転回であり、常識を打ち破る新たな、そして見事な回答と言えた。  これまでも時の刻みに人間は支配され続けてきた。  時計など想像もされなかった原始時代であっても、日は登り、沈んだ。その間――昼と夜に人々はスケジュールを組み、それに従って生きた。  当然それは、昼の明るさの利便性や夜の危険性などから必然的に

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』④

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』③

          「明日、何食べようか。朝ご飯」  ……また食事の話が始まった。  しかし、予定を立てておくのは悪くない。起きたらすぐに準備に入れば無駄がないだろう。  たきなは瞼を閉じたまま付き合う事にした。 「……そうですね。普通に考えるなら、ご飯を炊いて、お味噌汁にお漬物と……納豆。あ、磯辺焼き用ですけど、いい海苔を仕入れていたので、それ、少しもらいましょうか。それと鮭を焼いて」 「いいねぇ! 日本の朝だ! 最高! ……でもなぁ」  千束の言いたい事はたきなにもわかった。朝はオーソ

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』③

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』②

          「そうじゃなくて、ご飯」 「……は?」  千束が何を言い出したのかわからず、たきなは思わず振り返ってみると……彼女もまたきょとんとした顔をする。  たきなの眉間に今、皺が寄っている理由はなんぞや? とでも思っているかのようだ。 「千束」  千束がドライヤースイッチを切る。

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』②

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』①

          ※本作は錦木千束と井ノ上たきなのどうでもいい日常を切り取ったものです。過度な期待は大変危険ですのでおやめください。 「あー、なんか無駄に疲れたー」  カランカラン、と扉に取り付けられたカウベルが鳴る。  たきなと千束が喫茶リコリコの扉を開けたのは、丁度深夜〇時を回ったタイミングだった。  予想以上に任務が長引いてしまった。  とはいえさしてハードでもない任務である。  喫茶リコリコ営業終了より少し前に、DAからの緊急任務が入ってしまった。  それ自体は、仕事に不慣れ

          『ザ・アンリマーカブル・ナイト』①

          『フキの恩返し』⑤

           可能性は十分過ぎるほどにあった。少し考えればこの事態も想定できたかもしれない。  なのに、そこまで考えが及ばなかったのは滑稽ですらある。  フキは思わず自嘲した。  ちゃんと事前に言っておけば良かったのだ。  たった一言……いや、それでもサクラは気を遣ったかもしれない。  ……遣うだろう。サクラはそういう奴だ。  なら、せめてサクラが昨日何を食べてきたのかを訊けば……いや、それも無理だ。  昨日のフキはもんじゃ焼きの訓練をして、図書館に寄った事で門限ギリギリの帰宅と