『ファントムメナス』④
店に入った瞬間に全員が声を漏らした理由……一つは、正直さして広くない店内にも、さらに人が並んでいた事、そしてたきなの想像よりも大盛りの、何ならどんぶりから山のようにせり上がっているラーメンが目に入ったからである。
「……あの、千束。わたしの記憶が正しければ、このお店では食べ残しがあると大変な目に遭うっていうのがありませんでしたっけ?」
え!? と、クラリスがたきなを振り返り、そしてカウンターの奥にいるやたらと大柄な、それこそどこぞのボディーガード業でもやっていそうな厳つい店員を見る。
その店員が、たまたま人の首ぐらいならはねられそうな大ぶりの肉包丁を握っていたせいで、その威圧感はたきなでさえサッチェルバッグ内の愛銃を意識するレベルだった。
こんなのを目の当たりにしては、クラリスがビビるのも無理はない。
『ボクの言葉を忘れたか? 〝背伸びをするな〟だ。大盛りを頼んでおきながら残すようなバカなマネをしなければ問題ない。自分に合った量を頼んで、それでなお食べきれなかったのならそれは仕方ないとみんなわかってくれる。心配するな。そもそもそんなヤバイ店じゃないんだ。噂が一人歩きしているだけ。……まずは券売機に金を入れろ』