見出し画像

【抵抗】若者よ、映画『これは君の闘争だ』を見ろ!学校閉鎖に反対する学生運動がブラジルの闇を照らす

完全版はこちらからご覧いただけます


学生が正当な権利を求めて権力と闘う様を映し出す映画『これは君の闘争だ』は、特に若い人ほど観た方がいいだろう“熱い”作品

とても良い映画だった。本当、若い人ほど観た方がいい作品だと思う。

私は別に、「この映画に出てくる若者のように闘うべきだ」などと考えているわけではない。ただ本作は、「何に疑問を抱くべきなのか?」「抱いた疑問に対してどう行動すべきなのか?」について考えさせてくれるという意味で価値があると考えているのである。決して若者に限らないが、現代を生きる人の多くは、「現状に対する疑問」をはっきりとは認識していなかったり、それを認識していても特に何も行動しなかったりするように思う。年齢が上の世代ならある程度もう「人生を諦めるモード」にいるだろうから別にいいと思うが、若い世代はそんな風には思えないはずだ。

だったら、やはり闘うしかない。

というか、実際に闘うかどうかは別として、疑問を抱いたり、どんな風に行動すべきかを考えたりする機会はやはりあってもいいんじゃないかと思う。本作は、そういう視点がかなり失われているだろう現代日本に生きる人々に、「考えるきっかけ」を与えてくれる作品と言えるだろう。

ドキュメンタリーを普段観ない人でも触れやすい、非常に珍しい構成の映画

本作はまず、その構成が非常に面白い。私は結構ドキュメンタリー映画を観る方だが、なかなかこのような作りの作品は観たことがないと思う。

さて、本作で扱われているのは、「ブラジルの公立校に通う学生たちが抗議のために様々な活動をし、最終的に学校を占拠するに至る過程」である。デモや占拠の実際の映像、当時のニュース番組や政治家たちの発言など様々な映像が組み合わされ1本の映画に仕上がっているのだが、まあそれ自体はよくある構成だろう。

違うのは、ナレーションである。本作では、「3人の若者がお喋りをしているようなナレーション」がつけられているのだ。これが非常に斬新だった。

デモ活動時この3人は高校生であり、学生運動の中核に位置していた中心人物である。そしてこの3人によるナレーションは、普通にイメージする用な感じではない。恐らく、ナレーション録りしている場で映画の実際の映像が流されているのだろう、それを観ながら3人がワイワイ喋っているみたいなナレーションなのだ。なんとなくだが、「最低限の台本しかない」みたいな印象だった。

ちゃんとイメージしてもらえているか分からないが、日本のバラエティでよくある、「衝撃映像を観ながら、ワイプに映っている芸能人がワチャワチャ喋っている」みたいな感じを想像してもらえればいいだろう。ドキュメンタリー映画としてはかなり珍しいタイプだと思うが、少なくとも私にはまったく違和感がなかった。それに、このようなナレーションになっているお陰で、普段ドキュメンタリー映画を観ない人にも観やすい作品に仕上がっているとも思う。

まさに学生運動に関わっていた本人が、「うわー、あん時は大変だったなぁ」「ねぇ、ちょっとこっちの話を先にしてもいい?」「あの頃は髪型がフラフラ定まらなかった時期だー」などとかなり自由に喋りながら、時折きちんと「ブラジルの状況を詳しく知らないだろう人」向けに状況説明も入れるというスタイルである。状況説明だけはなんとなくの台本がありそうだが、それ以外はフリートークのように感じられた。これによって「堅苦しいドキュメンタリー映画」という印象がまったく無い作品に仕上がっており、「ドキュメンタリー映画なんて一度も観たことがない」みたいな人でも、結構チャレンジしやすいと思う。扱われているテーマはかなり厳しい現実だが、当事者たちがそれを楽しそうに話しているのを聴きながら観ると、悲壮感もあまり感じずに済むだろう。

なかなか珍しい「楽しく観られるドキュメンタリー映画」というわけだ。

「暴力」に対する私の考え方と、若者たちが当時置かれていた状況について

さて、映画の内容についてあれこれ書く前に、まず1つ触れておきたいことがある。私が「暴力」についてどのような考えを持っているかについてだ。映画では、高校生たちが「デモ」と称して、様々な場所を占拠したり、道路を強制的に封鎖したり、市議会の扉を壊そうとしたりする様子が映し出される。それらはもちろん、一般的に「暴力」と呼ばれるものだ。だから、「暴力」に対して私がどのように考えているのか説明しておく方がいいだろう。

基本的に私は暴力を肯定できない。しかし、「暴力に訴え出る以外に手段が無い」という状況も存在するはずだと思う。そして「暴力に訴え出る以外に手段が無い」と言えるのは、「立場の弱い者が、立場の強い者に闘いを挑む場合」だけだと考えている。

映画の中で誰かが、次のようなことを言う。

抵抗は、私たちの唯一の手段。

観れば、確かにそのことが実感できるだろう。学生運動に参加している公立校の学生たちは、ほとんど何も持っていないのだ。というわけでここで、彼らがどんな状況に置かれているのかについて少し触れておこうと思う。

ブラジルでは、公立校に通うのは「貧困層」と決まっているのだそうだ。では「貧困層」はどのような生活をしているのか。親の給料は、最低賃金の月250ドル。その一方で、地下鉄の運賃は95セントもする。約1ドルだと考えると、月給の250分の1。月給25万円で換算すると、地下鉄の運賃が1000円ということになる。とてもじゃないが、通学で使えるような値段ではないだろう。またある学生は、「常に『家賃か食費か』の選択に迫られていた」と口にしていた。そもそもが「学校に通うかどうか」以前の問題というわけだ。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

ここから先は

6,451字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?