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【闘い】デュポン社のテフロン加工が有害だと示した男の執念の実話を描く映画『ダーク・ウォーターズ』

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世界的大企業の隠蔽と「テフロン加工」の危険性を暴き出した弁護士の壮絶な奮闘を描き出す映画

私はこの映画を観るまで、「テフロン加工が危険だ」という事実を知らなかった。公的機関の情報を見つけられなかったので特にリンク先は示さないが、「テフロン加工 危険」で調べると様々なサイトがヒットするので見てみてほしい。映画『ダーク・ウォーターズ』を観る限りでは、「テフロン」を販売しているデュポン社もその危険性を認めているように思える。ウエストバージニア州パーカーズバーグの住民3535名が起こした集団訴訟を、デュポン社は6億9040万ドルを支払って和解しているからだ。

しかしデュポン社は、「テフロン」だけで毎年10億ドル以上も売り上げている。約7億ドルの和解金など大した金額ではないだろう。

「テフロン加工」の製品なんて使っていないから私には関係ない、ということにはならない。「テフロン」の原料である「PFOA」という化学物質は、カーペット・車・コンタクトレンズなど様々な製品に使われているからだ。デュポン社は、「テフロン」発売の翌年には既にその危険性に気づいていたにも拘わらず、その情報を40年以上も公表しないまま販売し続けた。

ネットで調べてみると、2021年10月22日より、「PFOA」は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)の指定物質となっていて、一部の例外を除き使用できなくなったそうだ。

私たちは、そのような物質によって作られた製品を当たり前のように使ってきたのだ。なかなか恐ろしい事実ではないだろうか。

映画『ダーク・ウォーターズ』では、そんなデュポン社を相手にたった1人で闘いを挑み、企業の隠蔽を暴き出した弁護士の闘いが描かれる。日本では先日、東京電力の旧経営陣に対して13兆円という国内史上最高額の賠償金支払いが命じられた。賠償金の金額だけが「正義」ではないとはいえ、巨大なものに立ち向かい「正義」を勝ち取る物語はやはり人を惹きつける力があるだろう。

法は守らなければならないが「絶対」ではない

私は基本的に、「悪法もまた法なり」という考えを受け入れている。独裁国家でもない限り、「法律」は民主的なプロセスで決まるだろう。それがどれほど「悪法」だと感じられるものだとしても、成立のプロセスが正当なら、とりあえずは受け入れるしかないと考えている。私たちは、そんな「悪法」が生み出されないようにあらかじめ注意すべきだし、それでも成立してしまったのであれば、とりあえず従いながら、その「悪法」を変えるか無くすかするための努力を続けるしかない、というのが基本的な考え方だ。「悪法だから従わなくていい」というのは、正しい姿勢には感じられない。

もちろん、「時とともに法律が古くなる」こともある。成立した際には「悪法」ではなかったが、今現在の社会には合わないというわけだ。しかしその場合でもやはり、「変えるか無くすかする努力」をしなければならないだろう。「市民の声を反映し、法律を社会の実情に合わせて変える」ための手続きがきちんと存在し、それがとりあえず正しく機能していると言える状態なのであれば、「時代に合わなくなった悪法」にもとりあえず従いながら、変えるか無くすかする努力をしなければならない、と考えている。

つまり、「大体の場合、『法律の条文』には従わなければならない」というのが私の考えだ。

問題は、「法律の運用」の方である。

法律は、ただそこに存在しているだけでは機能しない。きちんとそれを運用する人間が必要だ。それは別に、裁判官・検事・弁護士といった人たちだけではないだろう。政治家・官僚・公務員など様々な人が「法律の運用」に携わっているはずだ。

しかし、「そういう『法律を運用する人』を凌駕する存在」が、「法律の運用」を歪めてしまうことがある。例えば、この映画で描かれるデュポン社のような世界的大企業などがそれに当たると言えるだろう。

先述した通り、私は、それがどんなものであれ、民主的なプロセスで決まった法律には従わなければならないと思っているし、「法律的に正しいと定まったものは善」という判断を社会が受け入れるべきだと思っている。しかしもしも、「法律の正しい運用」を歪ませるような存在がいるとすれば、「法律的に正しいと定まったものは善」という判断を許容することなどできないだろう。法律が正しく運用されているはずだと思うからこそ、たとえ「悪法」だと感じる法律でも従わなければならないと受け入れる余地が生まれる。しかしそこが歪められてしまえば、「法律の存在」そのものが揺らぎかねない。

私たちは、政治や経済など様々な領域で、「『法律を運用する人』を凌駕する存在がその正しい運用を歪ませる現実」に触れてきた。正しい手続きで許認可が行われなかったり、悪事が見逃されたりしているのだ。そして、そのような現実を知れば知るほど、「法律を守ること」への意欲が減退してしまう。

だからこそ、この映画の主人公の行動は称賛に値すると思う。彼は実在する弁護士であり、家族との穏やかな生活を犠牲にしてまでデュポン社との闘いに挑んだ人物なのだ。

パーカーズバーグの住民の訴えや、主人公の奮闘は、なぜアメリカ国内でも知られていなかったのか

公式HPによると、映画『ダーク・ウォーターズ』制作のきっかけとなった記事があるという。2016年1月6日にニューヨーク・タイムズに掲載されたものだ。この記事を読んだ、俳優であり環境活動家でもあるマーク・ラファロが映画化を決意し、自ら主人公ロブ・ビロットを演じて完成させたのが本作である。

映画制作のきっかけにまつわるこの話に、私はとても驚いた。何故なら、「デュポン社と闘っている弁護士がいる」という事実が、アメリカ国内でも広く知られていたわけではない、ということになるからだ。2016年の記事公開時点で、ロブがこの案件に携わってから18年が経過している。その間、ロブの奮闘はさほど注目されなかったということだろう。

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