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【斬新】ホームレスの家を「0円ハウス」と捉える坂口恭平の発想と視点に衝撃。日常の見え方が一変する:『TOKYO 0円ハウス0円生活』

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「ホームレスの家」を新たな視点で捉える坂口恭平が投げ掛ける「『家』『生活』とは何か?」という問い

本書は、作家・坂口恭平が、早稲田大学建築学科に所属していた際の卒業制作として行った「ホームレスの家の研究」がベースとなった作品です。建築学科に所属していたにも拘わらず、「建物を建てること」に関心を持てなかったという著者の特異な視点が全面に発揮された作品で、社会の捉え方が一変するような力を持っていると感じます。

「鈴木さん」というホームレスとの衝撃の出会い

本書は、坂口恭平が「鈴木さん」というホームレスと出会うところから始まるのですが、この「鈴木さん」、ちょっととんでもない存在です。私たちがイメージする「ホームレス」とはかけ離れていると言えるでしょう。彼はアルミ缶集めの達人でもあるそうで、それだけで月に5万円ほどお金を稼いでいるそうですが、そのすべてを食費に費やしています。鈴木さんは、「みっちゃん」という女性のホームレスと2人で生活しているのですが、「2人の月の食費が5万円」というのは、かなり贅沢と言えるのではないでしょうか。しかもすべて自炊なので、材料費に相当お金を掛けられるのです。

確かに、鈴木さんは「住む家がない」という意味で「ホームレス」であることに間違いはありません。しかし「ホームレス」と聞いてイメージするような「貧しい生活」とはかけ離れているのです。恐らく、一般的な社会人よりも全然豊かな食生活を送っているのではないかと思います。

そんな鈴木さんが隅田川沿いに建てた「0円ハウス」こそ、著者が注目した「建築物」というわけです。本書で著者は、「ホームレスが住んでいる家」という意味で「0円ハウス」という言葉を使っています。しかし鈴木さんが住んでいる「0円ハウス」は、「本当に0円」で作られているんだそうです。

ホームレスの家であっても、全体の内どこかしらにはお金が掛かっている場合が多いと著者は言います。ブルーシートだけは買ったとか、バッテリーや電池はお金を出して手に入れているなど、「ほぼ0円だけれども1円も使っていないわけではない」という「0円ハウス」がほとんどだそうです。しかし鈴木さんの家は、すべての材料をゴミでまかない、電力についても一切お金を支払っていません。完全に「0円」で作られているというわけです。まずこの点が凄いと言えるでしょう。

しかも鈴木さんは、自身が住む「0円ハウス」にこれでもかと創意工夫を施しています。詳しい点についてはこの記事では触れませんが、「生活を便利にする」「容易に不便を解消する」「日常を快適にする」など、「自分の生活スタイルに合わせて家を調整する」という考え方に溢れた設計がなされているのです。そして後述しますが、この点こそ、著者が「0円ハウス」に着目した最大の理由だと言えます。

「ただより高いものはない」とよく言うけれど、「ただより価値のあるものはない」を実践してる人はそうはいないでしょう。

坂口恭平はそう言って鈴木さんの生活スタイルを絶賛します。確かにその通りでしょう。鈴木さんは「0円」である「ゴミ」を活用して家を作ったり、生活を成り立たせるものを揃えたりする一方で、「ゴミ」であるアルミ缶で得た収入で贅沢な食事をしているからのです。

これはまさに、「『家も職も持たない生き方』を自ら選び取っている」としか考えられないでしょう。そういう意味で、鈴木さんのことを「ホームレス」と呼ぶことにどことなく抵抗を感じてしまう気持ちもあります。

そもそも鈴木さんは、恐らく一般社会で生活していても非常に優秀な人であるはずです。そう感じる理由の1つは、アルミ缶集めの凄さにあります。彼はもの凄く考えて工夫をして、週に100キロもアルミ缶を集めるのです。なかなかその凄さは伝わりにくいと思いますが、「アルミ缶回収業者が、鈴木さんが集めたアルミ缶を回収するためだけに遠くからやってくる」ほどだと本書には書かれています。思考力1つで他の人とは比べ物にならないほどアルミ缶を集めてしまうという点だけでも、その知性の高さが窺えるでしょう。

本書での坂口恭平とのやり取りを読めば、鈴木さんの頭の回転がとても早いことが理解できるはずですし、周りの人から人望も非常に厚いのです。一般社会でも間違いなく暮らしていけるし、というかかなり上のレベルまで行ける人なのではないかと感じます。

「そういう人が”敢えて”ホームレスを選んでいる」というのが鈴木さんに対する印象です。彼の生活スタイルを見ていると、「これはこれでアリだろうな」と感じさせられます。私の場合は、「映画館で映画を観る」とか「美術展に行く」など、「スマホだけでは成立しない生活」を望んでしまうので、どうにか上手いこと社会に溶け込まなければなりません。しかし、もし自分がそういうタイプでないなら、鈴木さんのような生活スタイルもアリだと感じます。何を以って「豊かな生活」と考えるかは人それぞれでしょうが、鈴木さんの生活は、「豊かな生活」の1つの形として成立するだろうと思いました。

「0円ハウス」はどのように凄いのか

さてそれでは、著者が「0円ハウス」の何に注目したのかについて触れていきたいと思います。

ホームレスの家を、建築的な視点から見てみる。
それは、住宅というものの考え方をひっくり返してしまうほどの、驚きの体験である。

著者はこんな風に書いており、大げさに思えるかもしれませんが、本書を読むと「なるほど」と感じさせられるはずです。そのポイントは、先程少し触れた、「自分の生活スタイルに合わせて家を調整する」という考え方にあります。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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