一転、眠り姫に〜鬱期への突入〜
16時間睡眠に
2023年2月。るりは、若者の政治参加を促す啓発プログラムのリーダーとなりました。他のメンバーはほとんど皆大学生というプレッシャーの中、経験浅い高校生リーダーとして、悩みながらもチームをまとめ、なんとか成功を収めました。
その次の日から、るりは眠り姫になりました。とにかく眠いと言って、一日16時間ぐらい寝るようになりました。ちょうどそのころ、るりの高校は、高校入試のため休校していたので、起きる必要もなかったのです。
るりは元々、睡眠時間が長く、小学生の時は一日12、3時間ぐらい寝ないと睡眠不足になってしまう体質でした。そして、12歳ごろからてんかんを発症し、発作を予防するためには睡眠を十分に取ることが重要でした。なので、休める時には寝たいだけ寝かせていたのですが…。いくらなんでも16時間は長すぎる。
虚ろな目で「天国みたい」
同時に、表情も疲れ、暗くなってきました。留学のためのオンライン塾でいきなり泣き出してしまう様子を目にし、異常を感じました。「もう塾をやめよう。海外大学受験もやめよう。日本の大学に行って、交換留学とか目指せばいいじゃない。」と言ったのですが、本人は「ちょっと考えさせてほしい。」と言って、やめようとしません。本人の意思が一番大事だし、どうしたものかと考えているうちに、るりはどんどんしんどそうになっていきました。
そんな頃、るりは私と一緒に買い物に行った際、「これを買ってほしい」と言って、すみっコぐらしのチャームを買いました。愛らしいキャラクターたちが勢揃いしているイラストがついています。
帰宅し、しんどそうなので寝かせて私がマッサージをしてあげると、るりは虚ろな目でずっとこのイラストを見つめ、ポツリと、「この風景は天国みたい…癒される…」と言いました。その瞬間、私は、るりが天国に行きたいと思っているのではないかと感じ、ゾッとしたのを覚えています。今思えば、あの時の直感をもっと大切にすべきでした。
病院巡りの日々
これは一体なんなんだ。私は躍起になって検索し、病院巡りを始めました。るりは、その少し前から漢方薬局に通い、婦人系ホルモンバランスを整えるシロップや、寝落ちしそうな時のための気つけ薬のようなものをもらっていましたが、高いだけで全く効き目がありませんでした。
身体の病気を疑った私は、橋本病という甲状腺の病気を知りました。「眠い、だるい、疲れが取れない、元気がない」という症状を読んで、専門クリニックにすぐに連れて行き検査をしましたが、異常はありませんでした。血液検査もして身体を一通り調べましたが、こちらも異常はありません。
るりはこの頃すでに、自分は「うつ」なのではないかと気づいていたようで、こう綴っています。
「うつ病を疑ったと書きましたが、私の場合は直接精神科に行ったわけではありませんでした。というのも、母は精神病になっている可能性を思い付かなかったからです。まだ高校生の私にとって、母に『精神科に行かせてほしい』と言うことはかなりハードルの高いことでした。」
この時私に、うつだと言ってくれていれば、私の対応も違ったし、もっと早く医療に繋げられたと思ってしまいます。が、るりが言えなかったのは、私が言える親子関係を築いていなかったからなのでしょう…。
どんどん情緒不安定に
眠り姫になったるりは気力も落ちて、3学期の期末試験をノー勉強で迎えると言いました。これまでの定期テストでは計画的に試験対策をし、クラス上位の成績をおさめてきたのとは大違いです。
私は「テストがボロボロでも進級はできるよ。大学受験は高校の成績と関係ないからまた考えればいいよ。」と伝えました。が、るりは「ノー勉強で行ったら私どうなっちゃうんだろう。推薦で大学行けるかな?今だけ頑張れなくて成績が下がるのは、客観的に見てもったいないのかな。」と心配になって、だるい体に鞭打って、何度か一夜漬けをしました。頑張りたい、頑張れない。その二つの間を行ったり来たりして、るりは不安定になっていきました。
ここまで来て、さすがに私も、この不調はメンタルなものから来ていると感じるようになりました。るりは自分でハードルを上げすぎて、「私にはこんなこと到底できない」と思い込む癖があるのではないか。また、母である私がストイックに頑張って目標を達成する気質であること、そしてひとり親という変なプライドのせいか、あまりダメな姿をるりに見せてこなかったため、るりが「ママほどちゃんとできないし頑張れないから自分はダメだ」と思ってしまっているのかな、それが苦しいのかなと感じていました。
私はるりに、それまで目指していた海外大学の受験をやめようと言いました。るりはしばらく抵抗して「考えさせてほしい」と言っていたので無理強いはしませんでしたが、2、3週間かけて何度か言い、ようやくるりもそれに合意しました。ただ、ガックリきて、挫折感を感じているようでした。
短歌に気持ちをのせたるり
るりはこの時期から、気持ちの吐き出し口として、短歌を詠み始めました。SNSで短歌を投稿していたのをいくつか見せてくれたので、私はそのアカウントを記憶し、こっそり見るようになりました。わざわざアカウントを私の目に晒したのですから、見てほしいというSOSだったのかもしれません。
るりの短歌は、不安定な心を写し出していました。
この先に広がる未来も大空もぜんぶ抱きとめ愛してゆきたい
鮮明な空の青さがまぶしくて布団に戻ってしまう日がある
またあしたさらっと君は言うけれどそれが僕の生きる意味になる
がまんしてなくてもういいよこれからはって誰かの優しい声で目覚めた
癒えない傷を僕が塞ぎたいってあなた私はこのままでいいの
彼らにも飛べるはずさと飼育員 飛べなかったよかなしくなった
あなたにはわからないこと わたしにもわからないこと あなたもわたしもくるしいこと
2、3週間、様子を見ている間に、るりはどんどん疲れて暗い感じになっていきました。