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【ふくわらい】生まれたままの自分を認め愛せますか

西加奈子の言いたいことが油絵のように塗り重なった作品。

主人公の「定(さだ)」は書籍編集者として非常に優秀な25才の女性だ。とても感じが良く思いやりのある話し方ではあるものの、「自分の感情」は伝えない…というか感情が体に馴染んでいないために外に表されない感じがする。どこか受け答えがASD的で人間と人間の機微がつかめていないのだ。(ロボットなのではないかと噂されたりもする)

定は「ふくわらい」が大好きだ。心の中で人の顔から一旦全部パーツを外し、移動させたり置き換えたりするのが趣味……って本当に変人ですよね。

そんな彼女の奇妙な生い立ちと、仕事で関わる人々や、定を好きになる盲目の男などを通して、彼女のポジティブな変化を描いた物語です。

【自分の顔を認められているのか?という問題について】
私は自分の顔が好きかと言われたら好きではないけれど、生まれた時からこの顔なわけだし、ニュートラルに「受け入れている」状態だ。誰もが羨むような美人に生まれていたら特だろうなぁと思うこともないわけではないけど、まぁ仕方ないじゃないかと諦めている。

でも定は知っている。どんな美人でもパーツの形と位置に過ぎないことを。ゲシュタルト崩壊のようにバラバラにして置き換える。定にとってはその方が面白い顔になる。定は美しい顔より面白い顔が好きなのだ。

ピカソの絵(やってることは主人公と同じなのが興味深い)

美醜の意味付けは、神の手による偶然がもたらした世界。そこがわかっているようで皆わかってなくて、だから不自然な形やパーツを持って生まれると悩み、化粧に凝ったり、幾度も整形を繰り返したりして足掻く。

この本では美しい顔の人も醜い顔の人も出てくるけれど、定を通して最終的には世界と自分がつながり命を吹きこまれる姿が描かれて、読後はとても良かった。

西加奈子はテーマを一冊にてんこ盛りにする傾向がある作家なので(大好きな作家です)ここでは顔のパーツ配置と美醜の問題に絞りました。

他にも
・多様性のあり方
・グロテスクな異文化体験
・見えないものを見る力
・文字や言葉の持つ力
・科学の理解を超える力
・凡人が天才を目指して不器用に生きる姿
・亡くなった人と生きている人の一体化

などについて描かれています。
どの登場人物にも愛着を感じ、温かな気持ちで読むことができる本です。


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