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アリーチェ・ロルヴァケル『幸福なラザロ』

『武士道残酷物語』のことを考えていて、ふと思い出したのがアリーチェ・ロルヴァケルの『幸福なラザロ』のこと。実際の事件を下敷きにしてるとは知らずに観た。

(C)2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE

フィルムで撮影された映像の質感は、時代に取り残された村の景色を皮肉なほど瑞々しくネオレアリズモにように見せている。搾取されながらも豊かにも見えた前半とは打って変わって“現代”パートの映像は心なしか青みが強く、貧乏暮らしの描写も手伝って余計寒々しい。ひとりだけ歳をとらず若々しいままで無口なラザロのきらきらした目が、彼らを無邪気に射抜く。
あと、かつての村人たちが卑屈に貧しく老いている演出の細かさにも居た堪れなくなった。貼り付けたような媚び笑いに、そして都合よく利用されているのにどう身を立てていけばよいのかわからない不安で被支配に甘んじる様子に、つい自分を重ねてしまって愕然とした。

(C)2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE

『幸福なラザロ』という映画を全面的に支持するわけではない。何ならあまりスマートじゃないと思ったところも…。
でも忘れがたい映画ではあった。『バトル・ロワイヤル』の柴咲コウじゃないけど「あたし絶対あんな風にならない!」っていう気持ちがちょっとずつ湧いてきたのは、この映画のおかげだ。
『幸福なラザロ』は『武士道残酷物語』に通じるものがあるので、興味をもたれた方や組織のなかで働いててモヤモヤを抱えてる方にはぜひおすすめしたい。

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ちなみに、アリーチェ・ロルヴァケルは1981年生まれのイタリアの映画監督。ポン・ジュノが2020年にチェックすべき映画作家として紹介したうちのひとりでもある。

※他に挙げられているのは

濱口竜介
アリ・アスター
クロエ・ジャオ
ユン・ガウン
ジョーダン・ピール
アルマ・ハレル etc

アリーチェ・ロルヴァケルは新作『La Chimera』で今年(2023年)のカンヌ国際映画祭監督賞・脚本賞などなど受賞している。
この作品は評判も良かったようなので、国内でも劇場公開される日が来るのを首を長くして待ってます!!!

『幸福なラザロ』
製作年:2018年
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
撮影:エレーヌ・ルバール
美術:エミータ・フリガード
出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルヴァケル、ニコレッタ・ブラスキ、ほか
配給:キノフィルムズ
上映尺:128分
アスペクト比:1,86(ヨーロピアン・ヴィスタ)
字幕翻訳:神田直美

※監督も撮影監督も女性だ…。まぶしい。。

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