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『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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2022年2月の記事一覧

わたしを作る世界で一番一生懸命で純粋な料理

不覚にも美容院で涙してしまった 土井善晴先生の本「一汁一菜でよいという提案」。 好きでフォローしている方がおすすめされていたので読もうとアマゾンレビューを見ると、泣きましたと書かれていて、「えっ、お料理関係の本で涙する?」と思ったけれど、美容院で髪を染めてもらいながら、まんまと泣いた。 目からウロコだった。 私は一人暮らしだし、家族のためにごはんを作らないといけないわけではない。 でもやっぱり食事の支度をめんどうにいつも思っていた。 しかも作るなら美味しくないといけ

E13:地下鉄・絶望物語

世間には「初めての人」にとても冷たい人がいる。 (そんなこともわからないの?)みたいな顔を 平気でこちらに向けてくる、そんな人が一定数いる。 僕は、『地下鉄絶望物語』を経験しているから できるだけ、優しくしたい、と思っている。 至らない点は、多々あるけれど…。 上京当時、東京の知りあいは「皆無」だった。 今は「メトロ」なんて横文字になっているけれど 昔は「帝都高速度交通営団」とか「大阪市交通局」 なんていう、固い団体名だった。 関西の地下鉄に慣れていた僕も、上京して

パン屋さんにはふらりと立ち寄りたい

いつの日からか、パン屋に行くのが好きになった。 こんな記事を書いてしまうぐらいにはクロワッサンが好きだし、朝ごはんは365日ほぼほぼ食パンを食べている。時間がない朝でも、ちゃんとトーストする。 そのパンへの執着は、新居に引っ越すとなって洗濯機や冷蔵庫などの家電もろもろを15分足らずで即決するほど関心を払っていない自分が、ことトースターに関してはバルミューダを買ってしまうほど。 元々、米派かパン派でいうと パン派寄りな方だったのは確かだ。 ちなみに「日本人なら米だろ!」

ミッチーの私服

彼氏が及川光博氏に似ている。 私が言っているのではない。 私の弟がそう言っているのだ。 彼氏に初めて会ったとき、『相棒』にハマっていた弟はめちゃくちゃ興奮して彼氏に握手を求め、連絡先を聞いていた。 「ミッチーが年をとったら、たぶんあんな感じになると思う!」 彼氏が帰ったあとで弟はしきりに繰り返していたが、ミッチーこと及川光博氏は1969年生まれ。 私と同じ1994年生まれの彼氏の、25歳上である。 四半世紀もの年齢差を感じさせない、むしろ年下よりも若く見えるなんて、ただご

大人になったんだねえ、私たち。

突然のDMにまずは驚いた。 『久しぶり!今そっちに旅行で来てるんやけど、おすすめスポットとかない?』 小中高が同じの地元の同級生からだった。インスタのストーリーで近況はなんとなく把握していたものの、わざわざ連絡を取り合うようなことなんて今まで一度もなかったものだから。懐かしいなあと思いつつ、田舎なりに良さげなスポットをひねり出して彼に教えてあげた。 そもそも思春期だった頃の私は男の子がこわくてろくに話すこともできなかったので、お互いを認知はしていたものの、彼とは深い関わり

--- 人と人の あいだ を繋ぐ糸 ---

冷たい雨の降る土曜日。 立春も過ぎたというのに ほんものの春が来るのはまだ、 幾分先のことみたいです。 * やって来たのは一軒のカレー屋さん。 気分まで塞ぎがちなこんな日は 刺激的なスパイス料理に力をもらおう作戦です。 外壁に這う深みどりの蔦は 屋根の方まで登っています。 店内は昭和ふうの装いで ラジカセから、歌謡曲が 遠く懐かしく流れてきます。 カウンター席に女の人がひとり。 あとはテーブル席に二組。 私は入口近くのテーブルに席を取りました。 料理が運ばれていっ

しあわせの条件

夜、ツイッターで " 今日もいい一日でした ” つぶやくことがあります。最近、いい一日だったなと思える日が多いのです。 僕の毎日はとても単純で、平日は朝6時半に起きることから始まります。 起きたらスマホを持ってシャワーを浴びる。目を覚ますため、身体をあたためるためなので、冬は長くなりますが、好きな音楽を聴きながらシャワーを浴びます。朝ご飯は食べません。(16時間ダイエットは僕には合ってるようで) 通勤には車で1時間くらいかかるので会社に着くのはいつも8時前後。デスクの前に

真夜中に みさおとふくまる

空咳をひとつして照明を落とした。ポツンと音が聞こえそうな程の暗闇に身を委ねると、はじめは視界が闇に覆われていたのに、そのうちに物の輪郭が、ぼんやりと浮き上がってきて、どこに何があるのか把握できるようになる。闇に順応した眼で柔らかく熱い塊を撫でると、それは「ニャー。」と鳴いたあとに、私の手を甘噛みした。まるで、「寝てるんやから触らんといて。」と、言われているようで、私は「ごめん。」と言ってから手を引っ込めた。そうしたら、外からオス猫が「タロ〜ン、タロ〜ン。」と、独特な鳴き方でメ

元気?幸せ?

友人のミキちゃんから来たラインの返事をまだしてないことに気づき、返す。 ラインは、子どものクラスがオンライン授業になって大変など近況を伝えた最後に「バジルちゃんは元気?」で終わっていた。近況を教えてくれたのは、先に私がラインで「ミキちゃん元気にしてる?」と聞いたからで、それに対しての返信、プラス同じことを聞かれた、という流れ。 普通に「元気だよ」と返せばいいところを、今日は返せなかった。 「うーん、どうなんだろ(^_^;)」 と送った後 「表面上は元気だけど中身はズタズター

『やさしさ』を絶やさぬ世界であってほしい

やさしいね、と言われることが嫌だった時期があった。 正確には今も少しそうかもしれない。 もちろん「やさしい」は褒め言葉だと思っているし、言われると素直に嬉しい。でも、98%が嬉しい気持ちだとしたら、残りの2%くらいは、心の奥がちくりと疼くような複雑な気持ちになる。 「やさしそう」「やさしいね」そう言われる度に、本当はそんなことないんだよ、私多分あなたが思っているほどやさしくないよ、と心のどこかで卑屈になってしまう。自分だけが知っている自分の黒さやずるさを抱えて、「やさし

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足場に寄せて

ただの巡り合わせではあるが、いわゆる観光名所といわれる場所に行った時、その場のシンボル的な建造物(旅行雑誌の表紙に載るような場所)が、改装工事中や修復中であることがなんだか多い気がする。 私は街ぶらや散歩目的で出かけることが多く、観光名所的なものにはあまり執着心がない。 なので、そういった場所にはついでに立ち寄る場合がほとんどで、見られなかったからとて「せっかく来たのに」と、ダメージを負うことはない。 むしろ、修復をするために組まれた足場が本当に立派で、そのデカさに圧倒さ

気付けば、珈琲を飲めていた。

鼻孔をくすぐる、芳醇な香り。 深くその香りを吸い込み、ほうっと息を吐き出した時、身体のどこか深いところが、穏やかに波打つのを感じた。 金で縁取られた華奢なティーカップにそうっと口をつけ、一口すする。 ああ、味わい深いなあ、なんて思う。 珈琲初心者なわたしは、この風味を言い表す語彙なんて持ち合わせていないから、 メニュー表に記された文章を横目で追い、答え合わせをする。 だ、そうだ。 そう言われてみれば、珈琲の柔らかな苦みの中に爽やかな甘みも含まれているような気がする。

趣味は暮らし うるわしき内に棲まう  暮らしの光

趣味は暮らし うるわしき内に棲まう -7- 暮らしの光 若い頃写真作家を目指していた私は今も光と影に目が行きます 夜なら照明器具でどうライティングするかですが 日中は陽射しのコントロールが必要になります その方法はブラインドやカーテンが一般的であるが 人工的に物差しを当てて切った様なラインだけでは満足出来ません そこで植物に日陰を作ってもらい、木洩れ陽を室内に取り入れるのです ルノワールがあのムーラン ド ラ ギャレットで描いた 丸くポコポコしたその光が風に揺

雪が好きになったのは、息子のジングルが聴こえたから。

子どもに気付かされることって、本当に多い。 なんだろう。 子どもって本当にすごい。 つくづくそう感じる、ここ最近。 「雪」が降ると、少しイヤな気持ちになる。 「雨」よりはマシだけど、 「きれいだなぁ」と感動する瞬間もあるんだけど。 やっぱりちょっとイヤだ。 「明日、路面が凍っていたら厄介だな」 「いつもより早く家を出ないと、仕事に遅刻するな」 「仕事で高速道路を使う日、雪で通行止めになってないかな」 そんな心配ばかりが、頭をよぎる。 とある日 仕事が休みの日、