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展覧会レビュー:和食展(国立科学博物館) その①

──酎 愛零が展覧会「和食」を鑑賞してレビューする話──


 ごきげんいかがでしょうか、お嬢様修行中の私わたくしです。


 今回は、東京都は台東区、上野恩賜公園内にある国立科学博物館におもむき、展覧会「和食」を鑑賞してまいりました。これで一月は毎週上野に通っていたことになります。

 知っているようで、がっつり根本から学んだことがないような、我が国の和食文化。ユネスコの無形文化遺産にも「自然を尊ぶという日本人の気質に基づいた食に関する習わし」を「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して登録されている和食のなんたるかを、この機会にたっぷり学んでまいりましょう。




一般2,000円の入場券。物価高以前に、コロナ禍以降に跳ね上がった印象がございます

 実は、この和食展に来るのは2回目。前回は1月20日の土曜日に来館したのですけど、恐ろしい混みようで、わたくしは人の頭しか見えませんでしたわ。並んで見ようにも、それはそれで一ヶ所でとどまってのメモ書きとか撮影とかも難しくなったので、残念ながら断腸の思いでサッと見るだけにしておきました。リベンジ来館時にどこを集中的に見るかを目に焼き付けつつ……

ちなみにその時の客層は子供を含む家族連れが最も多く、あとは老若男女問わず、カップル、グループ、ぼっち、外国人、実に様々な人々でした。聞くとはなしにお話を聞いていると、みなさん勉強熱心なこと……外国の方たちも意外なほど見入っていて、関心の高さがうかがえました。



ストレートな疑問

 訪日外国人の楽しみのひとつは、わたくしたちが外国へ行った時にそうであるように、この国独自の食事、食文化でございましょう。観光案内所で働き、外国人の案内をすることもあったわたくしも、近隣あるいは移動先で和食の性質が際立っている飲食店をご紹介したことが何度もございます。しかしその時にしばしば(これは和食と呼べるのでしょうか……)(外国人が想像する和食ってどんなのでしょう……)という疑問を抱いておりました。すなわち、わたくし自身、和食の定義というものをよくわかっていなかったのです。今思えば汗顔の至りなのですけれど、どうやら和食を知るためには、この日本という島国の成り立ち、自然風土、植生、海産物の分布、農業の発展、それらを含めた歴史すべてを俯瞰して見る必要があるようですわ。

 これは歯ごたえがありそうですわね……!



世界の主食とおかず的な図

 まずは、世界の食と日本の食とを比べてみるコーナーですわ。自分を客観的に見るためには、他と比べて見るのが手っ取り早いですからね。



アフリカ~ヨーロッパ。照明の関係で暗くなってしまっているのはご容赦を

 まずはアフリカ大陸とヨーロッパ。ヨーロッパはムギ類が来ると思いきや、ジャガイモの方が主食としては多いのでしょうか。イギリスなど島国や海に面している国は魚、それ以外の内陸部は家畜。フィッシュ&チップス、マッシュポテトなどがわかりやすいですね。
 アフリカの一画に、狩猟採集または無人、とされている所がありますわね……地図で言うとナミビア──カラハリ砂漠、ナミブ砂漠のあたりでしょうか。狩猟採集または無人、さもありなん。


ユーラシア北部、中央アジア、南アジア

 ユーラシア北部のトナカイと、中央アジアのヤクが目を引きます。ヤクは、日本人には馴染みがないかもしれませんわね。言ってみれば長い毛のウシです。食肉はもちろん、乳も重要な生産品となり、乗用や荷役用、毛皮用にもなります。わたくしはこのヤクの乳から採れるバターを使ったバター茶なるものをいつか試してみたいですわ!
 南アジアで豆というと、すぐに豆のカレーが思い浮かびます。南インド料理屋さんに行って豆カレーをいただきますとすぐにお腹いっぱいになってしまいますので、厚みがあってふかふかのナンよりも、薄くてさっくり食べられるドーサの方が合うのは道理ですわね。


ユーラシア北部、東アジア、東南アジア、オーストラリア

 中国では「北麺南飯」という言葉があり、日本でも北部に行くほど雑穀が増えます。お米栽培の北限ということですね。赤道に近くなると、タロイモの分布が増えます。タロイモとは、サトイモ科の植物、その根茎のこと。ちなみにアフリカ編で出てきたヤムイモも似たような印象を受けますけども、あちらはヤマノイモ科。双方ともに粘りとつるつる感があるのが共通しております。
 基本的に極地と砂漠では作物が育たないため、狩猟採集または無人、になるのですね。


北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカ

 アメリカ大陸です。ムギ類、トウモロコシ、ジャガイモ、そしてキャッサバという、バラエティに富んだ主食ですね。タピオカの原料として知られるキャッサバは、ヤムやタロと違っていささか覚えにくい「キントラノオ目・トウダイグサ科・イモノキ属」という分類です。そのままでは有毒なため、さまざまな方法で毒抜きしてから食べられておりますわね。
 リャマとは、ラクダ科の動物で、別名をアメリカラクダと呼ぶそう。 




 さて、あらゆる日本の食文化の基本は水と言っても過言ではありません。和食の決め手となる出汁だしには、必ず水を用いるからです。この展覧会の先手さきてもやはり水。
 軟水、硬水などと呼ばれるように、水はミネラルの含有率により性質が異なっております。水の硬度は、含まれるカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)の含有率で決まり、少ないものが軟水、多いものが硬水と呼ばれていますね。
 いわば蒸留水である雨水の硬度はほぼゼロ。降った場所の地形や地質の影響を受けて、水の硬度は変わってきます。


日本全国の湧き水の硬度分布図。赤いほど硬度が高い


市販されているペットボトルの水でもこれほどの違いがある。最もやわやわなのは埼玉県秩父市の4.5か


硬度176.1の、沖縄県大宜味村の湧き水。


比較として置いてあったヨーロッパの硬水、エビアンとコントレックス。両方とも飲んだことはあるが、エビアンはともかくコントレックスは目を白黒させるほどのウルトラスーパー硬水


硬度を上げる要因のひとつ、石灰岩


密に見える岩石の中を通り抜けてくるというのか……


関東1都3県の水の硬度を上げている一番の要因、関東ローム。岩石よりも水に溶けやすい


硬度を上げにくい地質のひとつ、花崗岩


墓石などによく使われる石。硬度を上げやすいか上げにくいかは、水に溶けやすいか溶けにくいかもひとつの要因となる


 以前、水の硬度によって紅茶の味が変わるのか、何種類か試したことがあるのですけど、結果は「あきらかに違う」でした。とするなら、和食は自然と軟水に合った味の出し方になっているはず。ヨーロッパの硬水はシチューなどの煮込み料理に適する、とキャプションに書かれていましたので、今度はシチューで味比べをしてみようと思いますわ。




 日本列島は南北に約3,000km。地球全体から見ればごく小さく見えますけども、地球の一周距離が約40,000kmであることを考えると、それほど極小というわけでもありません。「南北に約3,000km」ということと「7割以上が山地であり複雑な地形」ということが大きく作用し、気候は冷温帯から亜熱帯気候まで多様性に富んでいることが最大の特徴となっておりますわ。
 この、多様な気候や地形がもたらすものが、豊かな植生です。日本には約7,500種の陸上植物が分布しておりますけども、うち約2,700種が固有種とされています。この固有性の高さもまた日本の植生の特徴で、日本列島は世界で36ある生物多様性ホットスポット (貴重な固有種が集中的に分布しながらも生態系が危機に瀕している地域)のひとつに選定されているそうですの。


日本列島の植生図。南の方であっても標高の高い所は植生が北方に準じたものになる


 ここでまずキノコから入るのが科博らしいですわね。世界に約20,000種知られているキノコ類ですけども、日本に分布するキノコは3,000種を超えるそうですわ。
 キノコの多様性は想像をはるかに越えます。多くが特定の樹木と共生するため、植生が豊かだとキノコの種数も比例して多くなるからですね。


シイタケ。肉厚で、カサがお椀状になっているものにバターかオリーブオイルを塗り、ネギだれをたっぷり詰めて蒸し焼きにし、アツアツの鍋肌に醤油を垂らして香り付けすると極上の味。


生まれてこのかた見たことがないキノコ。ほぼ栃木県民だけが食べているらしい。wikipediaによると、毎年のシーズンになるとこのキノコを目当てに山林に分け入り、遭難し死傷する者が後を絶たないほどの人気があったとか。栃木県民noterがいれば真偽の程を確かめたい


ネズミタケ、カブタケとも。全高15cm、直径15cmにも達するという。近縁のハナホウキタケ、キホウキタケは有毒。でありながら本種は香り、味、歯切れの良さなどから高級食用キノコであるという、まるでトラップのようなキノコ


フスベとはふすべ、すなわちこぶいぼの意。
オニフスベが食べられるのは、中まで真っ白な若い個体に限られる。スライスするとモッツァレラチーズみたいな見た目になるのでトマトと挟みたくなるが……オーソドックスにバター焼きで醤油か?


日本人なら知らぬ者なし、マツタケ。香り高い高級キノコとして珍重される。しかし日本以外では不快な臭いとしてとられることも多い。貧栄養状態の土壌を好み、逆に土壌の栄養が豊かになると衰退するという性質を持つ


 マツタケの香りが外国人に好まれないということはなんとなく見聞きした覚えがありますわ。まあ、わたくしもトリュフの匂いをカビ臭いと思っているので、これは国民性と言いますか民族的な違いでしかなく、あまり突き詰めると新たな紛争の火種になる気がいたしますわね(⁠;⁠^⁠ω⁠^⁠)

 さあ、続いては毒キノコのコーナーですわ!


まずもってなぜシイタケとよく間違われるのかが謎。むしって横置きにすればワンチャン……ないか。
それにしても夜光るキノコを食べようとはなかなか思えないが……


桜色のきれいなキノコ。なんかちいさくてかわいいやつ。しかし匂いは大根とな……?公益社団法人「農林水産・食品産業技術振興協会」によると分布は世界的で、毒の成分はかの有名なベニテングタケと同じとのこと。
なんかちいさくてやばいやつ


なぜコってつけましたか?


潜伏期間が長く、症状は1ヶ月以上も続き、死亡例もある暗殺向けの毒キノコ。風土病や神の祟りを装うことができる。
 wikipediaによると「主要な症状として、目の異物感や軽い吐き気、あるいは皮膚の知覚亢進などを経て、四肢の末端(指先)・鼻端・陰茎など、身体の末梢部分が発赤するとともに火傷を起こしたように腫れ上がり、その部分に赤焼した鉄片を押し当てられるような激痛が生じ」「ときには患部に水泡を生じ、重症の場合は末梢部の壊死・脱落をきたす場合がある」という恐ろしいキノコ


猛毒種。1本食べるだけでヒトを死に至らしめる。白く美しい姿とその強毒性から、ヨーロッパでは「Death Angel(死の天使)」「Destroying Angel(破壊の天使)」などとも呼ばれる。人里近くの雑木林などにも普通に生えてそっとあなたを見つめている、身近なキラー・エンジェル


 恐ろしい!(;´Д`)

 探索者たるわたくしもさすがに生えているキノコを採って食べようとは思いませんけれども、危険性を知っているのと知らないのとでは心がまえが違ってきますからね。知っておくにこしたことはないですわ。

 さて、最後はおいしいキノコの登場です!



なめこ。お味噌汁の具にするのが個人的な好み


えのき……?

 なめこはともかく、えのきがわたくしの知っているえのきとはまったく違いますわ……!いつもスーパーでお安く買えるあれは、日光の当たらない所で栽培しているというのはなんとなく知っておりましたけども、こんなに大きくなるものだとは!

 なめことえのきは、ともにぬめりが特徴のキノコですわね。このぬめりというものが、諸外国の方々には受け入れがたいものなのだとか。そう言われてみれば、日本人はぬめりのあるもの(刻み昆布や刻みめかぶ、オクラ、長芋、里芋、納豆、つるむらさき等)が大好きですよね。食感として好きなのでしょうか。もちろん、わたくしも大好きですわ。3日に1回くらいは、納豆めかぶを食しております。




 次のコーナーは山菜と野菜です。
 山菜と野菜の違いは、野生種で食用になるものが山菜、人の手で栽培管理されているものが野菜、というところにございます。でもまあ、近年では山菜を栽培することも増えてきましたので、あくまでも基本的には……ということですけども。


山菜そばなどでおなじみの山菜、わらび。呼び名のバリエーションの中にはワラビという音とほど遠いものが多い。いったいどんな文化習俗と結び付いたのだろう


 驚くべきことに、現在、日本で食されている野菜のほとんどが有史以前から今日にいたるまで、外国から日本に持ち込まれたものであるそうです。まあ、お米からしてすでに渡来植物ですから、それほど驚くことでもないのかもしれませんけどね。
 ちなみに日本の固有種はウド、ヤマノイモ(自然薯)、セリ、フキ、ミツバ、ミョウガ、ワサビなど20種類ほどしかないそうですわ。野菜というより山菜ですわね。


野菜の渡来時期の一覧。意外なものが意外な所から来ている


弥生以前~古墳以前~飛鳥・奈良~平安・鎌倉。ダイコンはともかく、コンニャクがこんな昔から伝来していたことにびっくり。てっきり精進料理の具材として遣唐使あたりが持ちかえって来たものだとばかり思っていた


室町~安土桃山~江戸。安土桃山時代にジャガイモとセロリが伝来したことが目を引く。セリとよく似た名前だが、当時はどう呼んでいたのだろうか。(和名は「オランダミツバ」)
江戸時代は長く続いたので、どれがいつごろ伝来したのか気になるところ。


明治以降。ブロッコリーよりカリフラワーの方が先ということに少し驚き。同じような形をしていて同じような部位を食べるのに、どうして開きがついたのか。単に輸入時期の差なのだろうか


 では、古くから持ち込まれた大根の多様性を見ていきましょう。


沖縄在来種、沖縄島大根。こんなに大きなダイコンだと童話「おおきな かぶ」の世界。どのように食べているのかのサンプルもほしいところ


その沖縄島大根よりも大きい桜島大根。キャプションとの大きさの違いにご注目。この大きさにもかかわらず大味にならないのは、栽培農家さんの努力のたまもの


地面から抜くのが大変そう。ちなみに種苗登録名は「スサノオ」、ブランド名が「出雲おろち大根」。ネーミングはヤマタノオロチの他に「おろして(おろちて)」食べることに由来。ダジャレ?


画像に収まらないほど長い守口大根。以前、祖父母がとぐろを巻いた長いたくわんみたいなものを旅行のお土産で買ってきてくれたが、あれが守口漬けだったのだろうか


水分が少なく濃厚な風味を持つ梓山ずさやま大根。昭和初期には生産農家が100軒以上あったが、高度経済成長期には1軒だけという事態にまで陥る。現在は10軒ほどあるもよう。
生でかじれば甘く、すりおろせば非常に辛い。漬け物に向く


花作はなつくり大根は、一般的に食べられている青首大根の1/3くらいしかない小さな大根。生育期間が長い上、収穫量が少なく、生産量が安定しないのが最大の難点。漬け物としての利用が主となり、塩漬けして苦味と辛味を抜いた後、塩抜きして味噌や粕に漬け直すという。




 そして、和食に欠かせない食材であるお米と大豆。現代ではパンや麺、オートミールなどムギ類を基本とした食品も日本人の食卓の多くを占めておりますけれども、やはりこの二大食材を抜きに和食のなんたるかを語ることはできないでしょう。
 深堀りしていくとはてしない物語になるので、ここではさらっと触れる程度にとどめておきますね。

米と大豆の密接なスクラムを表す図。これを網羅していれば和食を名乗れる気がする

 ちなみにわたくしの主食は朝がオートミールかパン、お昼はご飯か麺、夕がご飯という構成ですわ。そのご飯も白米1:玄米1:押し麦1という割合なので、お米のみという生活ではないですね。それでも、お米は産地によってもかなり味が違うと思いますので、それを含めて考えると、日本人のお米に対する並々ならぬ情熱が理解できると思います。




 いかがだったでしょうか?展示はこれで1/3ほどですけども、ここでいったん区切らせていただきます。

 南北に長い日本列島、7割が山地で複雑な地形、そこに降る雨はたいていが軟水となって、豊かな植生は食べられる野草、山菜を育み、はるか昔から渡来した野菜は全国に根付き、特色ある生産品となりました。和食の基礎を学ぶのは、我が国の姿を明瞭化することからまず始めるほうが良いのかもしれませんわね。

 次回は日本列島を取り巻く海と海産物、そして発酵についてレビューいたします。久しぶりに大当たりの展覧会ですので、数回に分けてお送りいたしますわー!✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧




 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 それでは、ごきげんよう。




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