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小説「オレンジ色のガーベラ」第4話


全話収録しています。3話までお読みでない方はこちらからどうぞ。


第4話


 ちひろは軽いため息をついた。
 新しいクライアントさんと話した後は、身体のどこかに凝りを感じる。今日は肩甲骨が固まった氣がする。
 肩をぐるぐる回しながら、先程まで書いていたメモを眺める。

 クライアントさんと話しているときは、パソコンを開かない。時折メモする程度だ。
 精神的に落ち着いていない人でも、なるべくリラックスできるように、電磁波の少ない環境を作るようにしている。
 パソコンをつかないときは、WiFiも切っている。それはクライアントさんだけではなく、ちひろ自身を守るための手段でもある。

「さてと。今日の親子は今までにないタイプだったわねぇ」
 そう独りごちた。

 鈴木真也 15歳
 お母さんの正子と共にやってきた。

 真也は子供の頃から落ち着かず、時折空中を見つめてブツブツ話していたらしい。

 あまりに心配した母正子は心療内科に連れて行った。そして、向精神薬を飲み始めた。

 薬のお陰で落ち着いたように見えるが、大人しくなりすぎたようにも感じる。

 正子は薬を飲ませ続けていいのだろうか?と心配になり、真也を連れてこのオフィスへとやってきたのだ。

 しかし、ちひろはその話しに違和感を感じていた。

 真也は薬を飲んでいない。

 もしかしたら最初は言われるがままに飲んでいたかもしれない。しかし途中で氣がついたのだろう。これを飲み続けたらやばい、ということに。

 それから真也は飲んでいるふりを演じていたのではないか?

 真也はある程度強い薬を飲んだのか?

 強い薬で性格まで変わったのか?と正子は不安になったのかもしれない。
母親は一度強烈な印象を植え付けられた。
 しかし、あまりにもインパクトが強すぎて後の変化に氣が付かない可能性もある。

 薬はエビリファイあたりか?
 お薬手帳は持ってきておらず、薬の名前も覚えていないと言っていた。真也はもう飲んでいない薬には興味ないのだろう。だから、忘れてしまった可能性がある。

 正子のほうが緊張のあまり、取り乱していた印象だった。落ち着かせるために、ハーブティーを淹れた。

「わたし、この子のためならなんでもしてあげたいんです」
 正子はそう言っていた。

 その愛情はいいが、そもそも大事な息子を本当に信頼できるかどうか分からない病院に連れて行くのか?
 とことん調べて、息子が幸せになると思って連れていったのだろうか?今の世間一般の母親は、ちょっと常識外れな行動をする自分の子供をすぐに病院に連れて行きたがる。

 世の中の仕組みが巧妙に作られているから、その罠にまんまと嵌ってしまうのだ。
 それはそれで仕方ないことなのだろう。
 しかし、そのお陰でどれだけ犠牲になっている子供たちの多いことか。無知な親を持った悲劇である。

 正子は、自分の親に愛されて来なかったことが、すぐに見て取れた。だから、自分も息子の愛し方が分からない。
 世の中そういう人達でいっぱいだから、皆苦しんでいるのかもしれない。なにしろ、わたしもそうだったから。

 ちひろはそう思い返しながら、パソコンを立ち上げた。

 真也は心配ない。
 ただ、正子のほうの心の状態を変えないと、真也の負担はしんどくなるばかりだろう。
 さて、今後どのようにカウセリングしていくか?
 その計画を立てるべく、まっさらなフォーマットに情報を入力し始める。

「あれ?そういえば、雰囲気が最近知った誰かと似ている氣がする。そうか、みずほとどことなく似ているんだ……」

 知性があるがそれを表にださず、周りに氣遣いができる。物腰が柔らかいが、芯がしっかりある感じ。

 帰り際、正子は
「あ、ありがとうございます。こ、これからよろしくお願いいたします」とバタバタと頭を下げつつ出口へと向かった。

 一方、真也はソファから立ち上がると、一度わたしの目をまっすぐに見て
「ありがとうございました。これからお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
と丁寧に頭を下げた。

 正子とどちらが親なのだろう、などど思いついたことに笑みの浮かべながら、ちひろはキーボードを打ち続けた。

(第4話1,651文字 トータル8,350文字)

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