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繊細なヤケクソ(後) 『PIECE OF MY SOUL』(1995年 CD/4thアルバム) WANDS

さて、後編である。(前編をお読みくださった皆様、まことにありがとうございました!アルバム内容の感想としては、こちらがメインかと思います。お騒がせしました笑)

開けてびっくり宝石箱。そういう印象が強い、ボーカル・上杉昇、ギター・柴崎浩、キーボード・木村真也(敬称略で失礼)で構成されたWANDSの最後のアルバム『PIECE OF MY SOUL』。制作の軸としては、特に上杉さんが本来やりたかったロック色の強いバンドという姿にシフトすべく、シングルでリリースされたもの以外はメンバーが作詞・作曲を手がけたものとなり、上杉さんが歌ってかっこいい作品にする、という意識でまとまったようだ。

例えメインストリームから外れたとしても、ご本人が本当にやりたかったことを追求したい、と傷だらけになって挑まれたのが、それこそロックというところに結実して凄味のある作品となったんだろうな…と感じている。

ジャケットからして秀逸だった。このアルバムのイメージは確かに青。そうなのである!筆者には、全体的な雰囲気として青い薄闇が霧のようにけぶる映像が浮かんでくる。そして、バンド名とタイトルには少し赤がかかっているのだが、これが血が滲んでいるような、あるいは燃えているような…そんなふうに見えるのだ。虚無の底に妖しく燻る炎。そのひんやりしているのに不思議と中てられるような熱感は、まさに彼らを象徴するかのようだった。

魂のかけらたちは、砕け散ったからこそ紛れもなくそれぞれに光っている。その、皮肉にも闇の中で時に鈍く時に鋭利に美しく輝く断面を、筆者なりに感じ取ってみたいと思う。
求道者感ハンパないとはいえ、結構ノリノリの曲もあってそこがまたおもしろく、構成もすばらしいですよ。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。

※歌詞の文言をそれとして引用させていただいている部分には、【】をつけて、筆者の文章と区別するよう記しております。クレジットは、作詞はすべて上杉昇さんなので省略させていただき、作曲者名だけ<>内に記します。

1. FLOWER

<作曲:柴崎浩>

のっけからかましてくれたな、と言うしかない。
あの入りはリスナーを確実に掴みにいこうとしている…というか半分ころす気できていると思われる。
この一曲でもうすでに、前作のアルバムとは印象が一変していることがわかるので、ある意味アナウンス的な役割もあるのかな…と。切り込み隊長曲。(確か、上杉さんWANDSを離れられてからも歌ってらっしゃると記憶しているが…)

【PUNK ROCKを聞いては Milkを飲む老婆】

いきなりそうくるか……そんな老婆になるのもいい気がしてくるわ!

記事タイトルにした、繊細なヤケクソ感が炸裂している。
間奏のうねるギターも最高。無事つかまれました。ただかっこいいの一言。

2. Love&Hate

<作曲:柴崎浩>

詞は内省的だが曲調が重くなく、それまでのWANDSの名残も感じられる。きらい、きらい、きらい……と言いながら、ぽつんとしている感じで、人間子どもじゃなくてもそういう気持ちの時ってあるよな、と苦笑してしまう。

3. 世界が終わるまでは…

<作曲:織田哲郎>

このアルバムの中で、最も現在でも言わずと世間に知れている名曲なのではないだろうか。

週刊少年ジャンプで連載されていたバスケットボール漫画『SLAM DUNK』がTVアニメ化された際に、エンディングとしてタイアップしており、シングルでの発売でもミリオンセラーとなっている。そんなわけで海外の人でもご存知のかたが多いと思う。
筆者は『SLAM DUNK』は読破しておらず、アニメもがっつりとは視聴していないため、WANDSの新曲としての認識が当時から強かったが。(バスケ漫画は月刊ジャンプのほうの『I'll』派なのであった。“CRAZY KOUZU”ね!)

ここまで舞台って広がるのか…という壮大な世界観を味わえる。
曲は、詞とともに現実を超えるかのように次第にスケールを拡げ、悲壮感に目が眩む。
確かに【カタストロフィー】を感じる一曲。
タイアップがなかったとしても、同じぐらい世に轟いてしかるべきかも?

4. DON'T TRY SO HARD

<作曲:柴崎浩>

まっすぐでどこか寂し気な、静かな歌声が堪能できる。
演奏はアコースティックギターが主か?
真夜中に、ソファーに沈み込んで洋酒を飲みながら落ち着いて聴きたいような、オトナな雰囲気の曲である。ムーディーまでいかないところが却ってよく、なんともいえない哀切を醸し出し、深く息がつける感じがする。音楽に酔って、そのまま眠ってしまいそうだが、それもいいと思えるような一曲。

5. Crazy Cat

<作曲:柴崎浩>

【君のために歌おう】

………罪作りである。
とにかく筆者はもうそれで十分である。(おい)
ていうか聴いた人全員倒そうと思って歌ってらっしゃるのか、ぜひ一度伺ってみたい。

曲はキャッチーで、お色気ボイスとお色気ギターに聴覚から痺れる…!

6. Secret Night ~It's My Treat~

<作曲:栗林誠一郎>

これぞドライアイス。
ぞっとするほどの凄艶さ。
筆者は最初、リアルタイムでシングル曲としてラジオから流れてきたのを偶然聴いたのだが、耳を疑ったぐらいだ。(視覚で言うところの二度見)
小娘になんということを!笑

原曲は栗林誠一郎氏の『It's My Treat』というもので、カバーだそう。なのでタイトル表記に入ってるんですね。

しかしこの上杉さんの声の艶めかしさは、わかりやすいムンムンな感じじゃなく、何というかここがどこかわからなくさせるような謎めいた世界なんだよな…
そしてあの歌声の背景として絶妙に溶け込む音が奏でられている、恐ろしい一曲。

7. Foolish OK

<作曲:柴崎浩>

特に若い世代の何かで苦しんでいる人たちに向けた、メッセージだろう。
押し付けがましくなさも、さりげない優しさが存分に感じられる。
曲調はロック色が強いが暗くなく、それがクールで絶妙なバランス。
大人としてでなく、あくまで仲間として振舞う心意気に惚れる、胸アツ曲。

8. PIECE OF MY SOUL

<作曲:柴崎浩、上杉昇>

アルバムタイトルに相応しい、象徴曲と言っていいと思う。
陰鬱なのに嘘臭さのなさにむしろ清々する、筆者も大好きな一曲。

【少しずつ消えるくらいなら ひと思いに散ればいい?】
【すべては自分次第 幸せはどこにでもある 誰かまた僕をそうだましてよ   やすらかな夢が見たい 刹那の夢を】

繊細な葛藤で深みにはまっていった先の爆発と鎮火が見事に表現されているからこそ、かもしれない。個人的には、こういう人間の内面を表出するのが本来芸術の役割の一端だと思っている。それこそが意図せず人を救うので。

9. Jumpin' Jack Boy (Album Version)

<作曲:栗林誠一郎>

このアルバムの中では異色ともいえる、ポップな疾走感。
先にシングルで出ていて、こちらではアレンジが多少ロック調になっていると思われる。このアルバムに違和感を覚えたかたでも、おそらくこれは抵抗なく聴けるのではないだろうか。ある意味、清涼剤のような存在。

10. MILLION MILES AWAY

<作曲:木村真也>

このアルバムで唯一、キーボードの木村さんが作曲されたもの。
個人的に、曲の美しさでいえばこれが筆頭なのではと感じる。その流麗さがラストの世界を厳かに際立たせ、胸が締めつけられる名曲。

歌に関しては、悪いことをしているわけではないのに加害者のような気がしてしまう感覚が繊細そのもので悲しくなるが、その傷を負っても自らの道を進もうとする諦念ゆえの決意も見えて、ある種の清々しさまで漂ってくる。

【粉々に砕けたガラスのようだ この心は】
【果てしないしがらみを一人行こう】
【だからもう 僕は一人きり行こう】

最後のロングトーンが、まさに以後の果てしない道…ひとり行く道を表しているかのように高らかに響き続け、思わず瞑目する凄さ。これほどラストに見合った曲を、なかなか聴けることはないだろう。

***

……最後までご覧くださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
あくまで筆者が今、感じていることがベースですが、秘境の旅・愛のガイドとして務まっておれば幸いです。
皆様なら、一体どんなふうに感じられるのでしょう。

しかし…書くのに知らず知らず莫大なカロリー消費した気がする…笑
作業中に雨も降るってもんだよ。
ちなみに、筆者は太陽も好きだが、雨も好きである。
どちらもあるのが自然であり、どちらも恵みを与える面があるからである。

それでは、またの機会にお会いできればうれしい限りです。ごきげんよう。


*余談*

えっ?al.ni.co???
好きに決まってるでしょ!笑
薄々お気づきかとは思いますが、上杉さんのファンなんですよ。
『TOY$!』聴いた時は、兄さん…なんつう声出してんの昏倒させる気か!!!と思いました。まあ、昏倒させる気でいらっしゃるんでしょうね←
とにかくソロになろうが何でもいいから、一生歌い続けてもらいたい。
お話しされてる時の声もこれがまたすてきなんですけど。天のギフトだな…

筆者は昔から無駄に耳がいいほうで、そのためか、根源的に、また自分にとって、魅力(魔力の場合も)ある声にセンサーが自動で反応する人種です。

そして、何を隠そう筆者はそもそも時間という概念が希薄な人間でして…。釈明しておくと、社会生活では最低限注意して生きているので、今のところ大きなトラブルを起こしたことはないですが。そのへんの意識がすっとんでいるところがあるため、逆に頭の中でどこにでも行けるのかもしれません。
おそらく気がついたら死んでいた、というタイプでしょう。(上の空すぎ)

妙なもん見たけどなんか元気になったわ…というスポットを目指しています