50周年

著者が語る:シンポジウム「限界を超えて」開幕!

講談社現代新書50周年記念小冊子

2014年7月、「講談社現代新書50周年」を記念して『社会、出版、そして講談社現代新書の50年1964~2013』という新書判160ページの小冊子[非売品]が発行された。その内容は、次のようになっている。

【目次】

第1部 社会、出版、そして講談社現代新書の50年

 1964~73年/1974~83年/1984~93年/1994~2003年/2004~13年

 第2部 特別エッセイ──自著を語る

 『タテ社会の人間関係』によせて/中根千枝   『知的生活の方法』の憶い出/渡部昇一   そこに何があったのか──『働くということ』/黒井千次   『「知」のソフトウェア』について/立花隆   『はじめての構造主義』のころ/橋爪大三郎   『「欲望」と資本主義』に寄せて/佐伯啓思   「オンリー・ワン」の強迫から逃れるために──『じぶん・この不思議な存在』/鷲田清一   巨大な壁に小さな穴を穿つ──『演劇入門』/平田オリザ   『〈意識〉とは何だろうか』~その後/下條信輔   『動物化するポストモダン』のころ/東浩紀   「先達はあらまほしきことなり」/池上彰   風間くんの「質問=批判」と『私・今・そして神』/永井均   『生物と無生物のあいだ』と終わらない認識の旅/福岡伸一   シンポジウム「限界を超えて」開幕/高橋昌一郎   『野心のすすめ』と新書の魅力/林真理子

第3部 50周年50冊リスト

さて、第2部の「特別エッセイーー自著を語る」に掲載するため、自著に関わる内容であれば何でも自由に書いてよいという依頼を受けたので、思い浮かぶままに空想の話を書いた。この小冊子は、今では入手困難になっているので、以下に、その全文を引用しておきたい。

人類はどこへ向かうのか?

司会者 それでは、ただいまから「限界を超えて」をテーマとするシンポジウムを開催させていただきます。これまで私たちは、人類が直面している「限界」について、多種多様な観点から議論を深めてきました。     

本日は、はたして人類はそれらの限界を超えることができるのか、できるとすれば、その先には何があるのか、人類はいったいどこに向かっていくのかについて、自由闊達に議論していただきたいと思います。

異端者 ついにシンポジウムが再開された! このチャンスをずっと待っていたんだ……。ぜひ私の大発見について、発言させてください!

司会者 その「大発見」の内容は、本日のテーマに関係があるのでしょうか?

異端者 もちろんです。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」、私は50年間、ヒマラヤ山中に籠って修行した結果、そのすべてに対する解答を発見したのです!

美術評論家 ゴーギャンの絵の題名ですね? あの絵は、パリに絶望したゴーギャンがポリネシアのタヒチに渡って、自殺を覚悟し、遺書代わりに書いた畢竟の大作です。

現在はボストン美術館に所蔵されていますが、絵の右側に描かれた赤ん坊が人生の始まりを示し、三人の人物像の青年期から壮年期が右から左へと描かれ、左端には死を待つ老婆の姿があります。

この老婆の足元には白い鳥が佇んでいるのですが、これは「言葉がいかに無力なものであるかという象徴」だと、後にゴーギャン自身が述べていまして……。

会社員 ゴーギャンは、あの有名な絵を描き終えてから、自殺したんですか?

美術評論家 いえいえ、自殺は未遂に終わりましてね。そこでゴーギャンは、さらに辺鄙な環境を求めてマルキーズ諸島に渡ったのですが……。

司会者 そのお話は、また別の機会にお願いします。あなたは、本当に「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という疑問の「すべてに対する解答」を発見したとおっしゃるのでしょうか?

異端者 そうです。しかも、やはり思ったとおりだ! ゴーギャンの絵の題名から、ボストン美術館の原画の描写、そして解説の話になったでしょう? 皆さんは、以前のシンポジウムでも同じような話の流れになったことを覚えていらっしゃいませんか?

会社員 そう言われてみると、たしかにまったく同じ場面を経験した覚えがありますね! これが「デジャブ」というものなのかな……。

異端者 いや、違います! いいですか、私たちは、というか、私たちもシンポジウムも何もかも、すべては一人の人間の頭の中から生み出されているんです! 

だから、同じ話題が出てくると、同じような内容の話が繰り返されるんですよ。

おそらく私たちの世界の作者は、ボストン美術館でゴーギャンの絵に感動した経験があるに違いない。だからこそ、この話題が出てくると同じ内容が繰り返されるんだ……。

運動選手 「私たちの世界の作者」? ということは、その作者が私たちの「創造主」というか、「神」だということでしょうか?

異端者 「神」だって? とんでもない。我々を創造したのは単なる作者で、彼の頭の中に渦巻いているのは、雑多な知識やくだらない夢想ばかりにすぎませんよ。

その彼にインスピレーションを与えたのが、「コウダンシャゲンダイシンショ」という「神」なのです!

大学生A つまり、「神」が「作者」にインスピレーションを与えて、その結果として私たちの世界が生まれた、そういう「神話」があるというお話ですね?

異端者 これは「神話」ではなくて「事実」なんですよ、お嬢さん。

皆さんは、アロウの不可能性定理とハイゼンベルクの不確定性原理とゲーデルの不完全性定理をテーマとするシンポジウムを開催して、その記録が『理性の限界──不可能性・不確定性・不完全性』として出版されたことを覚えているでしょう?

そもそも「コウダンシャゲンダイシンショ」は、「講壇からの天下りでもなく、単なる解説書でもない、もっぱら万人の魂に生ずる初発的かつ根本的な問題をとらえ、掘り起こし、手引きし、しかも最新の知識への展望を万人に確立させる書物を、新しく世の中に送り出したい」という「念願」によって誕生した「神」なのです。

続いて、皆さんは『知性の限界──不可測性・不確実性・不可知性』と『感性の限界──不合理性・不自由性・不条理性』について議論し、その記録も出版されましたが、これらもすべて「コウダンシャゲンダイシンショ」の望みを叶えるためだった。

つまり、私たちはすべて「神」の念願を叶えるための「作者」の空想上の産物にすぎないのです!

カント主義者 実にバカげた観念論だ……。そもそも君の言うことが真実だという証拠はどこにあるのかね? 白日夢でも見たんじゃないかね?

異端者 いえいえ、夢じゃありません。それに証拠もあります。それは「コウダンシャゲンダイシンショ」という言葉です。私は、この言葉を「神」から授けられたんだ!

精神分析学者 必ずしもそうとは限りませんよ。あなたの超自我が、どこかで聞いた言葉を潜在意識で組み立てたのかもしれない。最近、心に強く負担のかかるような出来事はありませんでしたか? たとえば、奥様と大喧嘩なさったとか……。

異端者 そんな出来事はありません! とにかく私は、すべての存在理由を明らかにしたんだ。皆さんには、これが大発見だということが、おわかりにならないのですか?

司会者 そのお話は、また別の機会にお願いします!

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