連載:「新書こそが教養!」【第2回】『小学校英語のジレンマ』
2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
今年から始まった「小学校英語」
2020年4月から日本全国の公立小学校で「英語」教育が始まった。これまで中学校でスタートした「教科」としての「英語」が小学校5年生から始まり、年間70コマの授業で成績が評価される。また、5・6年生が楽しんで英語に触れていた「外国語活動」は、3・4年次に実施されることになった。この英語教育方針の大幅な変更は、将来どんな結果をもたらすだろうか?
本書の著者・寺沢拓敬氏は、1982年生まれ。東京都立大学人文学部卒業後、東京大学大学院総合文化研究科修了。オックスフォード大学日本問題研究所客員研究員を経て、現在は関西学院大学社会学部准教授。専門は、言語社会学・応用言語学。著書に『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社)や『「日本人と英語」の社会学』(研究社)などがある。
さて、読者は英語が得意だろうか? 仮に得意でなくとも、好きだろうか? 日本人にとって「教養」の一部とみなされる「英語」は、何歳から学び始めるべきだろうか? なぜ英語が苦手な日本人が多いのだろうか?
本書の特徴は、「小学校英語」を一種の社会現象とみなして、社会学的な文脈で検証している点にある。著者の寺沢氏は、「小学校英語」に賛成・反対の主張を表明するわけではなく、その本質的・構造的な問題点を指摘する。そこで浮かび上がってくるのが、「小学校英語」の抱える大きなジレンマである。
2011年から始まった「聞く・話す」を中心とする「外国語活動」は、「英語嫌い」が増えないように、小学生の頃から英語を楽しんで触れることを目的に導入された。つまり「遊びのようにして英語に親しむ」わけだが、実際には「遊び」だけでは「読む・書く」英語力は向上しない。結局、「教科」としての「小学校英語」が導入されたわけだが、今後「教科」として成績を評価されるのが嫌だという「英語嫌い」が増えたら、本末転倒ではないか?
ここで問題になるのが、誰が「小学校英語」を教えるのかという点である。英語が不得意な小学校教員が教えるよりも、ネイティブ・スピーカーを雇う方がよいだろう。しかし、地方自治体には財政的余裕がない。そこで文科省に泣きついても、「有効性が立証されていない」という理由から、財務省が首を縦に振らない。だから英語が不得意な小学校教員が教える状況が続き、ますます「有効性」が出ずに「予算」も付かないというジレンマ状態が続く。
本書で最も驚かされたのは、公立中学生に対する2つの「ランダム化比較実験」の結果、1つのモデルでは「小学校英語」の経験者と非経験者の間に英語力の有意差が認められず、もう1つのモデルでは「微弱な有意差」が認められたものの、その差は偏差値1~2点程度に過ぎないという事実である!
「小学校英語」の導入には、教員の配置・研修や教材・カリキュラムの整備など、莫大なコストがかかる。ところが、そのコストに対して「小学校英語」の有効性は偏差値1~2点程度に過ぎないというのである。安倍政権下に官邸主導で強引に進められた「小学校英語」だが、ここでも結局、現場だけが疲弊するという、何度も見慣れた光景が繰り返されているように映る。
本書のハイライト
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Thank you very much for your understanding and cooperation !!!