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連載:ロジカルコミュニケーション入門【第9回】論理パズルを楽しもう!

2023年4月28日より、「noteNHK出版 本がひらく」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

●本連載では「ロジカルコミュニケーション」を推進する哲学者・高橋昌一郎が、まったくの初心者に論理的思考の基礎から応用まで、わかりやすく明快に解説します。

●「ロジカルコミュニケーション」は、論理的思考に基づくスムーズなコミュニケーションを意味します。固定観念や偏見に陥らず、多彩な論点を浮かび上がらせて、双方の価値観をクールに見極めるコミュニケーション・スタイルです。

●なぜかコミュニケーションが苦手、他者との距離の取り方が難しいなど、コミュニケーションに問題を抱えていたら、抜群の効果があります。「ロジカルコミュニケーション」で人生が劇的に好転します!

【第9回】目次

●論理的思考の意味
●ナイトとネイブのパズル1[問題]
●ナイトとネイブのパズル1[解答]
●ナイトとネイブのパズル2[問題]
●ナイトとネイブのパズル2[解答]
●真理の対応理論
●ナイトとネイブのパズル3[問題]
●ナイトとネイブのパズル3[解答]
●ナイトとネイブのパズル4[問題]
●ナイトとネイブのパズル4[解答]
●ナイトとネイブのパズル5[問題]
●ナイトとネイブのパズル5[解答]
●ロジカルコミュニケーションの第9歩は多種多彩な論理パズルを楽しむこと![第1歩~第8歩は、本連載第1回~第8回参照]

●論理的思考の意味

 本連載【第1回】「論理的思考で視野を広げよう!」では、「論理的思考」が「思考の筋道を整理して明らかにする」ことであると解説した。たとえば「男女の三角関係」のように複雑な問題であっても、思考の筋道を整理して明らかにしていく過程で、発想の幅が広がり、それまで気づかなかった新たな論点が見えてくる思考法である。
【第2回】「論理的思考で自分の価値観を見極めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」によって新たな論点を探し、反論にも公平に耳を傾け、最終的に自分がどの論点を重視しているのか、自分自身の価値観を見極めることの意義を説明した。
【第3回】「論点のすりかえは止めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」の大きな障害になる10の代表的な「論点のすりかえ」について具体的に紹介した。日常的にできる限り論点のすりかえを止めるだけでも、コミュニケーションはかなりスムーズで建設的になるはずである。
【第4回】「白黒論法に注意しよう!」では、とくに詐欺師がよく使う「白」か「黒」しか選択の余地がないと思わせる「白黒論法」を解説した。相手が「白黒論法」のような「二分法」を押し付けてきた場合、命題を整理すると実際の組み合わせは2通りではなく4通りであることが多いのに注意してほしい。
 【第5回】「『かつ』と『または』の用法に注意しよう!」では、日常言語では曖昧になりがちな「~ではない(否定)」と「かつ(連言)」と「または(選言)」の組み合わせについて、「論理的結合子」を用いて記号で処理すると、論理的に厳密に表現できることを解説した。
【第6回】「『ならば』の用法に注意しよう!」では、日常言語では曖昧になりがちな「ならば(条件)」および「逆・裏・対偶」が、「論理的結合子」を用いて記号で処理すると、論理的に厳密に表現できることを解説した。
【第7回】「明確に『論証』してみよう!」では、日常言語では曖昧になりがちな「話の正しい筋道」が、アリストテレス以来の「論証」という概念で論理的に厳密に表現できることを解説した。論証には、モダス・ポネンスやモダス・トレンスのように「妥当」なものと、後件肯定虚偽や前件否定虚偽のように「妥当ではない」ものがある点に注意してほしい。
【第8回】「多種多彩な『論証』を使ってみよう!」では、8つの「妥当」な論証形式「MP、MT、HS、DS、Add、Simp、Conj、CD」を確認した。記号化されているため、最初は戸惑う読者もいるかもしれないが、これらを自在に使いこなせるようになれば、日常の議論にも大いに役立つので、ぜひ頭に叩き込んでほしい!

●ナイトとネイブのパズル1[問題]

 今回は、論理パズルを楽しみながら、これまでに登場したさまざまな概念を再確認したい。

 ある島に、2種類の住人が居住している。「ナイト(Knight: 騎士)」は正直であり、彼の発言はすべて真である。「ネイブ(Knave: ならず者)」は嘘つきであり、彼の発言はすべて偽である。島のすべての住人は、ナイトかネイブのどちらかである。
 島の住人Xと出会ったとする。もしXが「日曜日の翌日は月曜日です」と言えば、彼はナイトであり、「日曜日の翌日は火曜日です」と言えば、彼はネイブである。「2は偶数です」と言えばナイトであり、「2は奇数です」と言えばネイブである。要するに、Xが真実を語ればナイトであり、嘘をつけばネイブである。
 ただし、Xの1回の発言だけから正体を見破ることができるとは限らない。たとえば、Xが「私はナイトである」と言ったとする。Xは、自分はナイトだと正直に言うナイトかもしれないが、自分はナイトだと嘘を言うネイブかもしれない。したがって、この発言だけからXの正体を決定することはできない。

 それでは、問題である。ナイトとネイブの島の住人Xが「私はネイブです」と言ったとしよう。Xの正体は何者だろうか。

●ナイトとネイブのパズル1[解答]

 もしXがナイトであれば、自分をネイブだと偽ることはないから、Xはナイトではない。一方、もしXがネイブであれば、自分はネイブだと正直に言うこともないから、Xはネイブでもない。したがって、ナイトとネイブの島の住人が「私はネイブである」と言うことは不可能である。
 このパズルは、トリッキーだと思われたかもしれない。島の住人Xが「私はネイブである」と言ったということ自体が不可能であるとか、この問題自体が成立しないとする解答も、もちろん正解である。
 ここで理解してほしいのは、①ナイトの発言はすべて真であり、②ネイブの発言はすべて偽であり、③すべての住人がそのどちらかである、という3つの前提に基づいて構成された島のシステムで、住人が「私はネイブである」と発言すること自体が、システムに対する矛盾となる点である。つまり、これはシステムから「飛び出た」発言なのである。
 島の内部では、いかなる真実もナイトが発言できるし、いかなる嘘もネイブが発言できる。それでは、一般の社会と同じように、何でも発言できるはずだと思われるかもしれないが、実は、そうではない。ナイトとネイブの島に、「私はネイブである」という発言は、永遠に存在しないのである。

●ナイトとネイブのパズル2[問題]

 ナイトとネイブの島において、「私はネイブである」という発言は不可能であることがわかった。これ以外に、ナイトとネイブにとって不可能な発言はあるだろうか。

●ナイトとネイブのパズル2[解答]

 不可能な発言は、無数にある。「私はネイブである」と同じ理由から、「私は嘘つきである」や「私はナイトではない」も発言できない。

 これらの論理的矛盾を生み出す「システムから飛び出た発言」に加えて、実は、ナイトとネイブは、日常会話の大部分も発言できない。たとえば、「あなたの名前は何ですか」や「なんて美しい花だろう」や「コーヒー頂戴」も、すべて不可能な発言である。

●真理の対応理論

 ナイトとネイブは、なぜ簡単な日常会話を発言できないのだろうか。ここで、再確認してほしいのは、ナイトの発言はすべて真であり、ネイブの発言はすべて偽だという定義である。
 ところが、「疑問文・感嘆文・命令文」などの発言は、真でも偽でもない。これらの文は、日常的なコミュニケーションにおいては有効だが、論理的には、真や偽の「真理値」を持たない語用とみなされる。だから、ナイトとネイブには発言できないのである。同じ理由から、「こんにちは」や「さようなら」の挨拶語でさえ、彼らは発言できない。
 それでは、何を基準に真と偽が定められているのだろうか。ここでは、発言が事実と一致すれば真であり、事実と一致しなければ偽であると考えている。この考え方が本連載第4回で説明した「真理の対応理論」である。
 ここで「事実」とは何か、「発言」と「事実」との対応関係をどのように認識するのか、といった疑問が生じるかもしれない。これらは当然の疑問なのだが、それより先は哲学的な議論となるので、とりあえず真理の対応理論を前提として話を進めてほしい。

 真か偽を決定できる事実が「命題」と呼ばれることも説明した。命題は、発言でも文でもなく、「事実」そのものであることに注意してほしい。
 たとえば、21世紀最初の元日は月曜日である、という事実がある。この事実は、カレンダーを見れば、真であることを検証できる。よって、「21世紀最初の元日は月曜日である」という事実は、命題を表している。ところが、この命題は、次のように言い換えることもできる。

(1) 2001年1月1日は、月曜日である。
(2) 2000年12月31日の翌日は、月曜日である。
(3) 2000年12月30日の翌々日は、月曜日である。
……

 このように、「21世紀最初の元日は月曜日である」という一つの事実を表現する発言は、無数にあることがわかる。さらに、この事実は、日本語以外の英語でもフランス語でも中国語でも、無数の言語で表現できる。
 そこで、論理学では、同じ命題を表現する無数の平叙文や言語の煩雑さを避けるために、命題を記号化するわけである。たとえば、「21世紀最初の元日は月曜日である」という事実を命題P、「21世紀最初の元日は火曜日である」という反事実を命題Qと定めるとする。このとき、命題Pは真であり、命題Qは偽である。

●ナイトとネイブのパズル3[問題]

 ナイトとネイブの島において、2人の住人XとYと出会った。するとXが「私はネイブであり、Yはナイトです」と発言した。XとYの正体はわかるだろうか?

●ナイトとネイブのパズル3[解答]

 ここで「Xはネイブである」という命題をP、「Yはナイトである」という命題をQとおく。するとXの発言は「P∧Q」と記号化できる。Xはナイトかネイブのどちらかでなければならないので、2つのケースに分けて考えてみよう。

 まず「P∧Q 」の真理表を作成する。

(1) Xはナイトであるとすると、Pは偽である。さらに彼は正直者なので彼の発言「P∧Q」は真でなければならない。ところが、真理表により、「P∧Q」が真になるのはPとQの両方が真の場合のみ(1行目)なので、Pは真であることになり矛盾する。よってXはナイトではない。

(2) Xはネイブである。よってPは真である。さらに彼は噓つきなので彼の発言「P∧Q」は偽でなければならない。真理表により、Pが真であると同時に「P∧Q」が偽になるのはQが偽の場合のみ(2行目)なので、Qは偽である。よってYはネイブである。

 以上の論証により、Xはネイブであり、Yもネイブである。

●ナイトとネイブのパズル4[問題]

 ナイトとネイブの島において、3人の住人XとYとZと出会った。するとXが「Yはナイトです」と発言し、Yは「もしXがナイトならば、Zもナイトです」と発言した。XとYとZの正体はわかるだろうか?

●ナイトとネイブのパズル4[解答]

 ここで「Xはナイトである」という命題をP、「Yはナイトである」という命題をQ、「Zはナイトである」という命題をRとおく。するとXの発言は「Q」、Yの発言は「P⇒R」と記号化できる。Xはナイトかネイブのどちらかでなければならないので、2つのケースに分けて考えてみよう。

 まず「P⇒R」の真理表を作成する。

(1) Xはネイブであるとすると、Pは偽である。さらに彼は嘘つきなので彼の発言「Q」は偽でなければならない。よってYもネイブであり、「P⇒R」も偽でなければならない。ところが、真理表により、「P」と「Q」と「P⇒R」のすべてを偽にする組み合わせはないので矛盾する。よってXはネイブではない。

(2) Xはナイトである。よってPは真である。さらに彼は正直者なので彼の発言「Q」は真でなければならない。よってYもナイトである。真理表により、「P」と「Q」と「P⇒R」のすべてを真にする組み合わせはRが真の場合のみ(1行目)なので、Zはナイトである。

 以上の論証により、Xはナイト、Yはナイト、Zもナイトである。

●ナイトとネイブのパズル5[問題]

 ナイトとネイブの島において、住人Xと出会った。すると彼は「私はアリスを愛しています」と発言し、さらに「もし私がアリスを愛していたら、私はベルも愛しています」と発言した。Xの正体はわかるだろうか? また彼が誰を愛しているかわかるだろうか?

●ナイトとネイブのパズル5[解答]

 ここで「Xはアリスを愛している」という命題をP、「Xはベルを愛している」という命題をQとおく。するとXの発言は「P」と「P⇒Q」と記号化できる。Xはナイトかネイブのどちらかでなければならないので、2つのケースに分けて考えてみよう。

 まず「P⇒Q」の真理表を作成する。

(1) Xはネイブであるとすると、彼は嘘つきなので彼の発言「P」と「P⇒Q」は偽でなければならない。ところが、真理表により、「P」と「P⇒Q」の両方を偽にする組み合わせはないので矛盾する。よってXはネイブではない。

(2) Xはナイトである。彼は正直者なので彼の発言「P」と「P⇒Q」は真である。真理表により、「P」と「P⇒Q」を真にする組み合わせはQが真の場合のみ(1行目)である。

 以上の論証により、Xはナイトであり、彼はアリスもベルも愛している。

●ロジカルコミュニケーションの第9歩は多種多彩な論理パズルを楽しむこと![第1歩~第8歩は、本連載第1回~第8回参照]

 このように多種多彩な「論理パズル」を楽しむことによって、論理的思考力が鍛えられる。今回は、その入り口を示しただけだが、これまで学んできた記号を使用することによって、スムーズに正解が見えてきたはずである。以下に課題を挙げておくので、自力で解いて楽しんでほしい!

●[課題1]ナイトとネイブの島において、住人Xと出会った。すると彼は「私はアリスを愛しています」と発言し、さらに「もし私がアリスを愛していたら、私はベルを愛していません」と発言し、さらに「私はアリスかベルのどちらかを愛しています」と発言した。Xの正体はわかるだろうか? また彼が誰を愛しているかわかるだろうか?

●[課題2]ナイトとネイブの島において、住人Xと住人Yと出会った。以下の状況で、XとYの正体はわかるだろうか?

(1) Xは「私はネイブであるか、Yはナイトであるかのどちらかです」と発言した。
(2) Xは「私たち2人のうち、少なくとも1人はネイブです」と発言した。
(3) Xは「もし私がナイトならば、Yはネイブです」と発言した。
(4) Xは「もしYがナイトならば、私はネイブです」と発言した。
(5) Xは「私がナイトであるときに限ってYはネイブです」と発言した。

●[課題3]ナイトとネイブの島において、住人Xと住人Yと住人Zと出会った。以下の状況で、XとYとZの正体はわかるだろうか?

(1) Xは「私たち全員がネイブです」と発言した。
Yは「私たちのうち1人だけがナイトです」と発言した。
(2) Xは「私がナイトであるときに限って、YとZはどちらもナイトです」と発言した。
Yは「もし私がナイトであれば、Xはネイブです」と発言した。
(3) Xは「私とZのどちらかがナイトです」と発言した。
Yは「私とXのどちらかがネイブです」と発言した。
(4) Xは「私たち全員がネイブです」と発言した。
Yは「私たちのうち1人だけがネイブです」と発言した。
(5) Xは「私たちのうち1人だけがナイトです」と発言した。
Yは「私たちのうち1人だけがネイブです」と発言した。

参考文献
高橋昌一郎(著)『東大生の論理』筑摩書房(ちくま新書)、2010年
高橋昌一郎(著)『20世紀論争史』光文社(光文社新書)、2021年
高橋昌一郎(監修・著)/山﨑紗紀子(著)『楽しみながら身につく論理的思考』ニュートンプレス、2022年
スマリヤン(著)/高橋昌一郎(監訳)/川辺治之(訳)『記号論理学』丸善、2013年

連載のオンライン講座!

本連載は情報文化研究所主催のオンライン講座「ロジカルコミュニケーション入門――はじめての論理的思考」と連動しています。どなたでも情報文化研究所に会員登録(一般会員・学生会員)すれば、毎月第2日曜日11時より開催中のライブ講座を受講できます。ぜひご参加ください!

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本連載に関するご意見やご質問には次のページで高橋昌一郎および情報文化研究所研究員が直接お答えします。ぜひこちらもご活用ください!

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