もう一度握って(中)
※学生時代に書いた作品を一部改訂しました。漆記事を初見のクリエイターさんは是非上巻から読んでいただければ大変嬉しく思います。
入学して1か月が過ぎた。担任の琴音先生は剣道部の顧問だから絶対に私を誘うと思ったが、実際そんなことはなかった。高校生活に慣れてきた私はそれなりに友達と遊んだり上々の高校生活をスタートさせていた。
ただ1つペースを狂わされることがあった。
「それで、昨日も高橋先輩にボコボコ打たれちゃってさぁ、そんでもって宮本先輩が落ち込んだ私を慰めてくれてね…あっそうそう!5組の八神さんって人がね…」
入学してから月島光がなにかと剣道の話をふっかけてくる。友達としては良い奴なのかもしれないが、剣道の話をされると私としては話が弾まない。
「それで負けちゃったってわけ」
「……ねぇ」
「なに?」
私は限界だった。
「私に剣道の話するのもうやめてくれない」
半分切れかけて私は言った。「なにがそんなに楽しいのさ、あんなの」
そう言うとやはり気まずくなり席を立った。
〇
それからは月島光と話さなくなった。ゴールデンウィークも過ぎ、最初はよく遊んでいた人たちともあまり遊ばなくなった。別にハブかれているとかではなく、なんとなく面白みに欠けた。
(なんであんなに剣道のこと楽しく話せるのだろう)
桜も散り、外の風も暖かい。だが私は月島光と話さなくなってからは、なぜか体の中が空っぽになっている。
「じゃあ、次の問題を…雪代さんにやってもらおうか」琴音先生は私を指したが、私は聞いていなかった。
「ほら、響子」気づいてない私に、友達が小声とペンでつついてきた。
「えっ…あっ、っと、どこですか?」最近はこんな調子で授業にも集中できずにいた。そんな私に気遣って放課後、琴音先生が話かけてきた。
「雪代さん、最近元気ないわね」
「いや、そんなことは…」それだけ言うと沈黙が続き、気まずくなり私は立ち去ろうとした。
「石館中出身、雪代響子。中3のときに全中ベスト8」琴音先生がつぶやいた。
「すごいわね~、私が中学の時は全中なんて考えたこともなかったな」
「……知っていたんですか」
「もちろん。それに月島さんによく話を聞かされてたわ」
「………」私は黙って先生の言葉を待った。
「彼女はね、まだまだ粗削りだけど、高校では必ずインターハイに行くって張り切っているのよ」
月島光の笑っている顔を思い出した。
「他にも中学時代にあなたに負けたって言っていた、八神さん、日野さん、藤咲さんなんかも高校ではインターハイ行くって頑張っているわ」
その名前を聞いてハッとした。特に藤咲は中学都大会準決勝で当たって、その大会で唯一2本勝ちできず、3分の時間をギリギリ使って1本勝ちで苦戦した記憶が残っている。
「さて、私もこれから稽古に行くから、気をつけて帰りなさいね」
「………先生、なんで…」
そう言いかけた時、他の先生が琴音先生に声をかけ、そのまま行ってしまった。
下巻へ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?