こだわりのタイム ~始まりの走り 未来の私たちへ~
※長い間ありがとうございました。最終回です。
「最後になりましたが、石館中学校の今後のご発展と、皆様のご健康を心からお祈りし、卒業生を代表として答辞とさせて頂きます。卒業生代表……」
館内に拍手がこだまする。私たちの卒業式。いろいろな思い出を胸に今日という日を迎えた。
(これで卒業か……)
後輩たちからの粋な演出の曲は、退場する時にはグッときて涙するには十分だった。
「志保ー! 楽しかったよー」
「また会おうね!」
「高校でも陸上頑張ってね!」
三羽烏で人気のあった私は、最後の最後まで友達やクラスメイトとの別れを惜しんだ。陸上に明け暮れた3年間。陸上部で走ることに魅了され、仲間と競い、励まし合い、時に大会ではライバルに挑戦していった。
「クラスのみんなで写真撮ろうよ! ほらっ! 志保も」
順調に行けば、もしかしたら全国大会への扉も開かれたのかもしれない。
「はいっ! チーズ!!」
人生でもおそらく1番になるであろう生死を分けた交通事故。それでも肩と小指と、右膝だけで済んだのは奇跡だったのかもしれない。
「ねぇー、ほらっ! 最後だから志保が男子とも写真撮って良いよって」
「そんなこと言ってないでしょ!」
中学ではもう走れないと言われても、私は懸命にリハビリを頑張った。
「ねぇねぇ、奈織や野乃花とも一緒に撮りたいんだけど」
「んもぅ。しょうがないな。呼んできてよ」
最後の最後で都大会には間に合った。しかし、結果は目に見えていた。
「おーーい! 出木ー。最後に角先生が呼んでるぞー」
それでも、今日まで頑張れたことは誇っても良いのかもしれない。
「ごめん! ちょっと陸上部の方に行ってくる」
私は、この春から総武学園高校へ進学する。奈織も努力が実り、武蔵女子学院高校に合格した。野乃花も地元の石館高校を合格して三羽烏はこれから別々の道を歩む。
「助かった~。もぅ、クラスメイトが離してくれなくて」
最後に陸上部の方へ顔を出す。後輩はこれからいつも通り練習だ。
「だろだろ!」
「最後まで俺たちの活躍を見せつけないとな」
「そうそう!」
「いい役だったよな、俺たち」
男子の近藤、村田、田村、平井。陸上部の仲間ともこれでお別れだ。
「んもぅ! あとでやる陸上部の打ち上げにちゃんと来なさいよ!」
「せっかく奈織と野乃花が企画したんだから」
「最後の最後でバックレはなしだからね」
山田さん。斉藤さん。佐藤さん。良い友達も出来た。
「あ~ん! 先輩たち~。絶対、高校行っても顔出してくださいよ~」
「私たちの最後の大会。見に来てくださいね!」
キャプテンの前野に副キャプテンの小木。2人とももう立派に役目を果たしている。2年生男子の阿部と園部も頑張っているようだ。
「志保。野乃花」
周りが騒いでいるのを横に、ふと奈織が呼び止める。少し空を見上げて奈織がつぶやく。
「これからは……。ライバルだね」
三羽烏はずっと3人一緒だった。ケンカもした。切磋琢磨しながら競い合った。意見交換もたくさんした。そして、3人でたくさん遊んだ。
「……うん」
「……そうだね」
正直、今もこのまま高校で一緒に陸上をやる感覚がある。朝も一緒に登校して、おはようと挨拶して、授業を受けて、放課後は練習して。
「ねぇ、奈織。野乃花」
私は2人に言う。
「私、負けないよ。足は言い訳にしないよ。高校では今度こそ、インターハイへ行くよ。そして、全国で1番になるよ」
自分でもわかるぐらい、晴れやかな顔で2人を見渡す。
「志保。それはね!」
「私たちも同じだよ!」
奈織も野乃花も笑う。自然と拳を合わせ合う。
「ねぇー! 志保ー。奈織や野乃花と一緒に写真撮ろうよ~」
「あっ! みんな! 陸上部全員集まっているよ!」
「本当だ! ねぇねぇ、せっかくだからみんなで撮ろうよ」
いつの間にか、大勢に囲まれてしまった。私と奈織と野乃花は引っ張りだこになり写真を撮られまくる。
「あーん! もぅ。わかった。わかった。撮るから」
「ちょっと。引っ張んないでよ! 1人ずつね」
みんなの笑い声が聞こえる。最後の最後まで三羽烏は大人気だった。
「あー! もぅ!! 奈織ーー!!! 志保ーー!!!」
野乃花が空に向かって叫ぶ。
「ゴールに向かってー! ヨーーイ!! ドン!!!」
野乃花が走り、次いで奈織も走る。
「あっ!! ずるい!!!」
私は遅れてスタートする。桜が舞い上がり私たちを祝福する。風の音は優しく私たちを包む。慣れ親しんだグラウンドはいつもと変わらない。明日へ向かって、私たちは走り出す。
(了)
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