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コーヒーの感触(子育ての話)

娘が小学校に入学したばかりの頃、学校になかなか行けませんでした。

近所の保育所に入れなかったので、友達も顔見知りもいません。

朝になると学校に行くのがしんどくて、頑張って玄関を出ても、すぐに足が止まって、涙が零れてしまいます。

親の心情としては複雑です。

環境が変わり、不安な娘の気持ちもわかります。

学校に馴れるまでは、休んでいいよと声をかけるべきか。
それは単に甘やかしているだけではないか。
優しく励ましながらも、時には厳しく言った方がいいのではないか。
それに仕事のこともあります。娘次第でいつ出社できるかわからず、会社への遅刻も一回や二回ではありません。

そんな中で、ついキツイ言い方をした時もあります。(今、思い返しても後悔してます。不安に恐怖を足して良いことはありません。どうして当時は気づけなかったのだろう。僕に余裕がなかったんだと思います)

仕事をしない時間のプレゼント

その日は僕自身、気持ちに少しだけ余裕があったのだと思います。
娘から『仕事をしない時間をプレゼントしてもらった』ことにしようと、思ったのです。

それならいっそのこと、ゆっくりと。

二人でのんびりとソファーに座り、ゆったりとした音楽を流して、娘の好きなことについてお話して。まるでカフェにいるみたいで、コーヒーが欲しくなりました。

いつもは電動ミルで挽いたり、ドリップにするのですが(妻がです。いつもありがとう)

その日は、娘と一緒に手動ミルでコーヒー豆を挽くことにしました。

「豆をつぶす感触ってゴリゴリするね」「ガリガリって感じじゃない?」「手が疲れてきたから交替しよ」「音がしなくなってするする回る」「全部できたみたい」と、おしゃべりしながら。

コーヒーを詰めたフィルターに、ゆっくりとお湯を注ぐと、ふんわりと浮き上がる白い泡、漂う香り。朝の緊張で強張った表情が消え、柔らかい表情でその様子を眺めていました。
(飲む?と聞くと、「苦そう」と首を横に振っていましたが)

僕はコーヒーを、娘はカルピスを、ゆっくりと飲み終えました。

「学校、行ってみる?」

娘は心配そうな表情を浮かべつつも「うん」とうなずきました。

自転車の後ろに娘を乗せて、えっちらほっちらと「今日の風は気持ちいいね」と言いながら学校に行けました。

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