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元教員インタビュー#1 何をするかより、誰とするか。教員時代に出会った人との繋がりが、今に活きている。

今回インタビューさせてもらったのは、兵庫県尼崎市にあるNPO法人サニーサイドの職員として働く北林和樹さん(以下、キタバくん)。

関西の公立小学校で1年間講師を勤め、その後、オランダでイエナプラン教育を学びました。教員時代は「先生という役割に溺れていた」と言うキタバくんは、現場を離れてから、どのようなキャリアを築いてきたのでしょうか。

プロフィール
北林和樹(きたばやし かずき)さん
イエナプラン教育専門資格(蘭.2019)
NPO法人サニーサイド 児童ホームつくし部長
小学校教員を1年勤め、「学び方」を学ぶことを大切にした学級経営を模索する。2019年冬に、一人ひとりのその子らしさを大切にするイエナプランの理念に心惹かれ、オランダへと飛び出す。現地では、学校と保護者と地域が一体になって、子どもの学びを支えている姿に感銘を受ける。2020年に、コミュニティスペースと併設している「児童ホームつくし」に勤め、余白から生まれる子どもの好奇心を拾いながら、人の違いを前提に共に過ごすことを実践している。双子で、弟は映画監督。
SNS:Twitter

先輩と友達と僕。3人のシェアハウス暮らし

ーー 現在はどんな暮らしをしていますか?

職場の先輩と同世代の友達と僕の3人で、シェアハウスに住んでいます。いつも一緒に朝ご飯を食べて、9時頃に自転車で5分くらいのところにある事務所に行って仕事を始めます。午前中は事務作業で、午後は学童保育。子ども「やりたい!」という気持ちを全力でサポートするような学童です。

サニーサイドでは、夜は同じ場所でコミュニティスペースを運営しています。この前は「マイナーな歴史」のイベントを開催しました。それぞれが5分くらいのプレゼンを用意して、発表するんです。

例えば、成人式を終えたばかりの人は成人の歴史についてプレゼンしたり、バナナが好きな人はバナナの歴史についてプレゼンしたり。夜やっているイベントは、自分自身も楽しみながら関わっています。

ーー 学童をしながら、コミュニティづくりもしているところなのでしょうか?

サニーサイドがまちづくりを進めていて、それに共感して僕も手伝ってるんです。障害のあるなしに関係なく、みんなが関わり合える日常をつくる。障害のある方って、毎日就労支援の施設と家の往復をするような生活になりがちで、街の人と偶発的に出会うことが少ないんですよね。

街から仲間外れにされちゃってる。学童保育だと障害のある子どもは利用しにくかったりしますが、ここでは関係ありません。コミュニティスペースにもいろんな人が来ますね。

「前習え!」を、本心から言えなかった

ーー なぜ教員を辞めようと思ったのでしょうか?

1年間小学校で働く中で、先生という役割に飲み込まれてしまった感じがありました。「前習え」とか、先生が子どもに対して使う言葉ってありますよね。そういう言葉を、僕は本心から言えなかったんです。でも、先生だったら先生としての役割を担わないといけない。

それ以外にも、学び方や学ぶ時間を統一しないといけないところには違和感がありました。同じ内容を学ぶのに1時間で終わる子もいれば、10時間かかる子もいる。さらに、「そもそもその内容は、その子が学びたい内容なのか?」と問う自分がいました。

そんなときに、友人がオランダのイエナプラン研修に1期生として参加していて、その話を聞きました。イエナプラン教育は一人ひとりの興味関心に合わせて学びをつくっていると知って、僕も学びたいと思いました。「とにかくオランダに行こう」とだけ決めて、3月に退職しました。

イベントで出会った人との繋がりで、次の仕事が決定

ーー 教員を退職してからは、すぐにオランダへ行ったのでしょうか?

オランダでの研修は9月から3ヶ月間だったので、4月から8月までの間は、オルタナティブスクール「箕面子どもの森学園」のスタッフとして働きました。そこではイエナプランの考え方をベースにしていたので、オランダにいく前に、日本でイエナプランを取り入れている現場を見ることができたのはよかったですね。

ーー オランダに帰ってきてからは、なぜサニーサイドで働くことにしたのでしょうか?

教員を辞めてからオランダに行くまでの期間で、いろんなイベントに参加しまくっていたんです。そこで出会った方がたまたまサニーサイドのスタッフでした。ちょうど学童保育をつくるタイミングで、どうやら教育関係の職歴があってコミュニティに関心がある人を探していたようです。

僕がオランダに行く前に、「オランダから帰ってきた後はどうするん?」と連絡がきました。僕が「お先真っ暗やねん」と返すと、「じゃあ、サニーサイド来たらええやん!」と返信が来て、採用に向けた面接をすることになりました。

ーー オランダに行く前に次の仕事が決まってしまったんですね…!サニーサイドで働くことは、自身がやりたいことと合っていたんでしょうか?

僕自身は、仕事の内容よりもどんな価値観を持った人と働くかを大事にしてるんです。自分が選ぶってことは、自分の選んだ道しか行けない。予想通りですよね。自分が予想しなかったところにどんどん行っちゃた方が面白い。

ーー 「こんなはずじゃなかった」と思うことはありませんか?

大切なのは、思ったことを率直に言い合える人間関係だと思うんです。やる内容自体に対して思うことはあまりないですね。その場その場で、自分が面白いと思えるような工夫をすると楽しいですよ。来たものをどう面白くしていくかを考えるんです。

ーー 教員時代を振り返ってみて、やってよかったと思うことはありますか?

自分が勤めている学校以外の先生とたくさん会ったことですね!学校から離れてしまうと、先生と出会う機会ってあまりないんですよね。

教員時代は毎月のように教育系のイベントや勉強会に行きました。Twitterもやって、2500人くらいの先生と繋がりましたね。そこから今のキャリアに繋がった部分は大きいと思います。

最初は、フィードバックを受け入れられなかった

ーー 教員を辞めてから変化したことはありますか?

フィードバックを受ける機会が増えて、それを受け入れられるようになりましたね。教員時代はフィードバックをもらう場面がほとんどなかったので、最初はすごく抵抗がありました。改善点を言われても、受け入れられなくて。自分ができていないことを認めたくなかったんです。

チームではなくて、1人でいいものをつくろうとしていたんだと思います。当時も「チームでやった方がいい」と頭では思っていましたが、自分の気持ちはそれを受け入れていませんでした。でもフィードバックをし合いながら改善していくと、1人でやるよりいいものがつくれるんですよね。

今はチームをマネジメントする立場にいますが、どう率直に言い合う文化をつくるかを特に大切にしています。

自分の情熱に目を向けてほしい

ーー 次のキャリアを考えている先生に対して、メッセージをお願いします。

自分を隠して生きている人って僕だけじゃないかもな、と思っています。大人も、子どもも、そうなってしまっているかも。振り返ってみて思うのは、「割となんとかなる」ということ。辞めても、なんとかなるんです。今までの生活水準よりも下がるってのは怖いとは思うけど。僕はその水準が元々低かったから出来たのかもしれません。

あとは、情熱は大切な気がします。転職する前に、自分がやり始めると時間を忘れてしまうくらい没頭できることに目を向けてみてほしいです。僕の場合は、それがイベントに行きまくって人と繋がることでした。

先生の役割に溺れて自分を見失っていたときは、土曜日の朝によくカフェに行っていました。自分がやりたいことをノートに書き出すんです。自分の中から出てくる言葉を見つめる時間をつくってみると、何か見えてくるかもしれません。

ーー 最後に、学校教育に対して思っていることを教えてください。

教育って、学校の先生が1人で担うことではないと思っています。学校の周りにある地域のパワーも影響しているし、いろんな人の力を借りながら教育を考えていけばいい。

教員時代の僕は「自分でやらないと」と思っていましたが、そうではないんですよね。今は、コミュニティづくりも教員も経験している僕だから伝えていけることを、発信していきたいと思っています。

ーー キタバくん、ありがとうございました!

編集後記

「先生の役割に溺れていた」

インタビューの中で繰り返しキタバくんが口にしていた言葉が印象的でした。

私が以前サニーサイドに遊びに行ったとき、キタバくんは決して「学童保育のスタッフ」としての役割に溺れた感じはなくて、キタバくんとして存在しているように見えました。

その状態に辿り着けたのは、きっといろんな人に会い、いろんな体験をし、自分を見つめてきたからだと思います。

そんなキタバくんが発信するメッセージには、正直で偽りがない。だからきっと、周りの人は安心してそこにいることができるのだと思います。



「元教員インタビュー」では、過去に教員を経験してきた方のキャリアにフォーカスを当ててお話を伺うインタビュー企画です。この企画がスタートした背景には、私自身が教員を辞めて、ずっとキャリアを模索してきた体験が影響しています。

教員はなかなか転職市場では評価されにくいけれど、教員を経験してきたからこそできることはきっとあるはずです。

今まさに次のキャリアを模索している先生へ、この記事が届くことで少しでも世界を広げるきっかけとなれば嬉しいです。


最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。