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[短編小説]リアルライフゲーム 【後編】

LIFE 10 スカウト

夏と秋があっという間に過ぎ去り、少し肌寒くなり始めた10月半ば頃。
とても珍しい人からメッセージが届いた。
母校の恩師の大杉先生だ。

『成美さん、久しぶり!元気に活躍してますか?少し相談があって連絡しました。近いうちに学校に顔出せるか?』

相談…?
大杉先生から呼び出しだなんて珍しい。。
私は専門学校を卒業して社会人になったんだけど、たまに『在校生に現場の話を聞かせてやって欲しい』と連絡が来ることがあった。
OBOGは業界の人ということで、夢を叶えるために彼らの背中を押す部隊としてよく卒業後などは召集されていたのだった。

でも、そういうわけじゃないっぽい…?
とりあえず久々に顔出しにでも行くかと思い、
『今週末なら空いてますよ』と返信した。

何年ぶりだろう?10年ぶりくらいだろうか。
新校舎になっていて面影がないほど綺麗な学校に着いた途端に、

「頼む!お前しかいないんだ!!!」
「わたし!?」

目の前で拝みながら、深々と頭を下げてくる大杉先生。
180cmを超える長身が半分に折れているお布団のように見える。

学校の先生にスカウトされてしまった…!
まさかの展開すぎる。
目の前で起こることが、予想の斜めを上を行き過ぎてない?

「今な、先生が足りんのよ。新規事業拡大したくて稟議あげてんだけどなかなかなぁ〜…
あ、業務内容はマネージメント業務がベースなんだけどうちの学校を知ってる人じゃないと厳しいよなぁ…って人探してたらさ。あ、成美いるじゃーんって思い浮かんでな」
ワハハと笑っているが、そんなテキトーな感じで声かけたんすか??
本当になんでも即決スタイルなの学生時代から変わらないなぁ。

でも、マネジメント業務だなんてスキルアップにはもってこいだ。
もしかしたらいい話かもしれない。

「え~と、私なんかで大丈夫ですか?学生時代超絶できない子代表だったじゃないですか…」
「いや、いける!お前面倒見いいからさ!」

そこ…?と心の中で呟いた。
でも本当に困っている様子が伺えるくらい必死ではある。

「ん~ちょうど今の会社辞めようとして次何しようか考えてたんですよねぇ。このお話、めちゃくちゃタイミングよくないですか?」
「おお!本当か!!!ナイスタイミング俺!!
 そしたらいつ来れる???」

強引に進路を決めようとしてくる。。さすがだな、大杉さん。
生徒指導ベテランすぎる。
学生時代から決められねぇなら俺が決める系兄貴肌でしたよね。
そして、わたしゴリ推し苦手なの知ってるからってずるいぜ。

「ん~…今なら年末くらいで辞めるならいけそうですかねぇ…」
「おっけい!!!面接終了!!!」
5分で終わった。というかこれ面接だったの???

ものすごい勢いで会社を辞めるきっかけがズドーンと突然降ってきた。
展開が早すぎて真面目についていけなくなってきたな…。
まだ、やるとは決めきってはないけど。

「お前ものづくり好きだろ?次作るのは学生さんの人生そのものだ。でも難しく考えるな。物づくりも人づくりも一緒だから。根本となる意識改革と骨格となる土台を作って、あとは本人が肉づけできるようサポートしてやってくれ。お前のやる気と愛さえあれば伝わるからな!心配すんな」
と、めちゃくちゃ抽象的だがしっくりくる言葉を私にくれた。

「じゃ、久々に会う先生たちに挨拶でもして、ゆっくりしてってな」
私の肩をポンと叩いて、秒単位で仕事している大杉先生は次のミッションへ旅立っていった。

はぁ~…
ため息のようななんともいい難い気持ちを吐き出す。

いきなり求めてることが叶う瞬間ってあるんだなぁ…。
でもこんなにイキナリ決めてしまっていいんだろうか?という自分に対する『即決する不安』だけが残った。

猛烈な嵐なんだけど的確なこという人と久々に会ったわぁと感心しながら、ふっと笑いがこみあげてきた。
その人の誘いに乗ろうとしている私も私だけどさ。

こうやって転機って訪れるのね。
でもこれってみんながよくいう引き寄せってやつかもしれない。

怒涛の面接から家に帰りついて、みーちゃんを撫でながらぼんやりと今後に考えてみる。

こんなものすごいタイミングで目の前に止まった列車に飛び乗ることなんて、初めての体験だったけど何故かあまり先のことに関しては不安はなかった。
仲田くんにも相談兼ねて報告したら、
「おー!いい流れじゃない?行ってみたら?ダメでもデザイナーなら戻ってこれるしね」
とお医者様的な返答でポンと背中を押してくれた。

私も相当単純な思考回路の持ち主なので、この展開含めて面白そうだからやってみることにしようかな!と思い始めてかなり楽観的に先生業をやると決めてしまった。

きっと今までと違う景色が見えるんだろうなぁ、と。
ワクワクしてきてしまったから。

なるべくしてなるような、そんな感覚。
不思議な体験は最近多かったけど、これはパズルが嵌るような感覚に近い。
人生何が起こるかなんて予想できないものだけど、最初から決まってたことなんじゃないだろうか?なんて思ってしまうほどに自然な気がする。

わたしは暗い深い海の底から浮かんで、外の空気が吸えるのだろうか。
泳ぎ疲れて海の底を漂うことしかできなかった私。

やっと少しだけ、心に淡い期待の燈が灯った。
えいやと飛び込む勇気さえあれば、きっとどんなところへも行けるんだろう。

そして、私はその年の終わりにデザイナーの幕を下ろした。
新時代の幕開けを心待ちにしながら。

デザイナーに未練があるかと思ったけど、作ることには変わらないからと恩師に教えてもらったことで、私の心は軽やかだった。

「次の新境地では、先生となって学生の人生をつくるお手伝いをします!」
そう人事に告げた私の顔は、満面の笑みだった。


LIFE 11  Transfer later…

私がバタバタと乗り換え列車に乗り込んでいた年末までの間にも、周りの環境にも色々と変化があった。

先ず、オトメン部長の橘さん。
この人は他の子にも悪事を働いていて愛人関係を迫っていたらしく、その被害に遭った子が会社へ通報した。
その結果、私よりも先に退職するという事態が起こり、呆気なく生き急いだ打ち上げ花火のように散っていった。
因果応報ってこういうことを言うのだろう。
やっぱり、神様は見てるんだなぁとひしひしと痛感してしまった。

次は、ワンコの早川くん。
グレーな関係になって3ヶ月が過ぎた頃、いろいろとデートには行くけど私がそれ以上踏み込めない態度でいたのが嫌だったのか、いきなり本性を現してきた。
とある土曜日の夜、飲んだ帰りに執拗に彼の家に誘われて渋々ついていったのだが、家に来た途端ニコニコしながら「もうそろそろいいでしょ?」と言いながら強引に関係を進めようとした。

その時ちょうど自分のこれからについて悩んでいたし、仲田くんへの気持ちが残っていて固まってない状態だったから、丁重にお断りした途端に態度が一変したのであった。
「俺に抱かれたい女なんてたくさんいるのに、なんでだよ。」と怒っていた。

やれないとわかった途端にこうも態度が変わるもんなんだなぁとショックを受けたけど、あっちの気持ちを考えるといつまで経っても自分に向いてくれなかったことが嫌だったんだろうなと思う。
彼のプライドの問題なのか…なんなのか。
すぐに落ちると思われていたのかな、私。それも悲しい。
でも、そういえば最初デートに誘われた頃も別人になったなぁと感じたような感覚と似ていた。

身体の関係がないままではないかもしれなかったのに、タイミングが悪かったなぁと思うしかなく、私たちのグレーの関係は悲しいけどグレーなまま終わってしまった。

この話をあゆみにすると、私が怒れない分ワンコを罵ってくれたからやり切れない気持ちが少し溶けていくようでスッキリした。

「所詮、あいつもただの動物で犬だったってことね。ご褒美がないと懐かないのよ、犬だから」
だいぶ犬を強調してきて笑ってしまった。
賢いお犬様もいるけどね。飼い主との主従関係ができてるのは続かないのかなと思った。

「莉緒のこと心の底から大切に思ってくれる人が絶対現れるから、それまで自分レベル上げて待ってな〜!磨きまくって光ってりゃ誰かが見つけてくれるでしょ。」
なんて、笑って励ましてくれた。

ありがとね。あゆみ。
本当に仲田くんより性欲はあったよ…!

そんな仲田くんとは、良いお友達の関係が続いていた。
親友と言えるような。
男女の関係よりも、もしかしたこの方が長く続くかもしれないと思った。
縁側でのんびりお茶するような老後のイメージが湧いてきて、ふふっと笑ってしまった。それもまた一興。

そんな感じで、私の周りの一瞬昂った男たちはみんな去っていったのだった。
面白いものでいきなりステージが変わると、それまでの繋がりが一掃されるんだとこの時に学んだ。


縁って不思議よね。
繋がる縁と、切れる縁。
そして大体キレて終わるんだな、と。
別にかけたつもりはないんだけど、うまいこと言ったな自分。

全てはタイミングなんだろうね。

あと、あの不思議体験がまだ続いていたんだよね。

先生職を決めた後、SNSを見ると8888が並んでいた。
それも1日に3回も!
パチパチパチ…拍手?
あはは、そういう偶然ってあるんだねぇ。

それと、その後の校長先生との面接の帰りに青い蝶々を見た。
夏によく飛んではいるけど10月終わり頃によ?
なんだかお祝いしてくれているようにふわふわと飛んでいった。

あと、会社を辞めますと退職届を人事に提出した後に、忙しくなるだろうからと通う学校の近くへ引越しをした。
海沿いの少し築年数の経ったマンションで見晴らしがとても良かった。
そこからの眺望に惚れ込んでここに決めようと思った瞬間に、白鷺シロサギが上に向かって飛んでいるのを見てちょっと驚いた。
ええ?鳥??????
しかも結構大きい…!

ここ一応、都会なんですわよ…?と不思議に思ったけど、なんか良いことがあるのかも?とニマニマしてしまった。

毎日が楽しくなる予兆だったと、今なら思う。
幸先良さそうな予感に笑みが溢れた。


LIFE 12   先生にも教えてください

年明け早々、私は新境地に立っていた。
まさかの学校の担任の先生として生まれ変わるとは思わなんだ。
何十年ぶりの学校生活か…!学生じゃないんだけどね。

そして母校とはいえ、勝手も何もわからないままの超弩級の新人を謳歌していた…が!
教育現場は毛色が全く違っていた。
ここまでボールが飛んできたぞーという時に、1人でレシーブして拾って、トスあげて、アタックまでして1点を入れていくというリベロスタイルだった。
担任業、舐めてたかもしれん。

デザイン業界も体育界系な方だが、先ず一番違うことは、毎日毎日学校の校舎を走りまわっていたことだった。
学生の様子を監視するのがデイリー業務のため、授業の欠席があるとすぐ電話して生存確認をしていた。
エレベーターは授業開始前後はパンパンになってしまうから、ほぼ階段移動。
1ヶ月この生活をしていたら、勝手に2キロ痩せていた。
というか、お前らちゃんと起きて学校来い??????
社会人は遅刻したらお金引かれるぞ?????
チャイムが鳴ってもダッシュしない学生の尻叩き係をやりながら、日々が過ぎていった。

デザインの授業をお任せするのは教科を担当しているベテラン先生。
私が一体何をしているかというと、簡単に言えば学生たちのお世話をしていた。
ちゃんと授業に顔出してるかどうかとか進路の話に始まり、メンタルケアや雑談などの話し相手もするマルチタスクの極みのような仕事だった。
デザイン業とは全く違うけど、話すのは好きだから思ったよりも楽しく過ごせていた。

更に一から覚えることが山のようにあり、それに加えて学生たちの全ての特徴を覚えながらこれからの年単位で必要なカリキュラムを組む。
事務作業をあまり実践でやっていなかったのが、非常に痛い。
爆速でタイピングをしながら、学生たちの様子などを日誌に記載して一日が終わる。
1日が終わり、帰りの電車では抜け殻になっていた。

ただ言えることは、爆裂に忙しいがとても充実した毎日だった。
学生たちのことで悩むことはあっても、自分のことで悩む暇がない。
素晴らしいことだ。

「成海せんせー!あのさぁ、俺わかんないことあるんだけど聞いていい??」
元気いっぱいの長谷が教務室の前で私を呼んでいた。
今年の一年生は、とても素直で良い子が多いと大杉先生が言っていたんだけど、その通りだった。

「はいはい〜どした?」
私は彼の質問を聞いて答えた。
長谷の顔がパァっと明るくなって「ありがとせんせー!スッキリしたぁ!帰って課題やらなきゃ。」と颯爽と帰っていった。
わからないところをすぐ聞くスタイルは、とてもいいことだと思う。
キャラクターとコミュニケーション能力は自分の武器になるほど大事だから。
なんにも考えないで全部聞くのは、考える能力が育たないからいけないことだけど。

それに、一つ悩みを解消してあげるとお礼を言われるなんて、とても嬉しい気持ちになる。人に必要とされることがこんなにも自分が潤うことだったなんて知らなかった。
いや、忘れていたんだと思う。
社会という戦場の中で、いつもらないとられるような味方も信じられないような環境にいたから。

だいぶ歪んだ環境に居たんだな…と思い知らされた。
この始まりの土地に還って来れて、私は幸せなのかもしれない。

入学式で初めて会った時に感じたこと。
透明感があるキラっキラな目をしている。
私にはやりたいことがあるんです!というオーラに溢れていのだ。
すごい。私は社会に出て汚れてしまったんだなぁ…と心をギュッと掴まれるような気持ちになった。
でも、こんなみんなの気持ちがまっすぐなことにとても心を打たれてしまった。
そんなまっすぐな瞳と志を持つみんなの背中を押して、応援していと思ってしまった。
このまっすぐな気持ちは、大人になるとみんな持っていると邪魔になることが多かったのだ。
そんな夢みたいなこと言ってる人のことを蔑む人も多かったから。
自分が綺麗な気持ちを持てなかった悔しさなのか…馬鹿にする人も多く悲しいな、とずっと思っていた。
私はいつでもまっすぐな想いを伝えたいと思っていたし、そうじゃなかったら自分の存在意義とはなんぞや?のループに陥るから、そういう人たちからは距離を置いていることがほとんどだった。


そんな心の綺麗な彼らに私ができること。
それは「倒れそうになる背中をゆっくりと支えて、時には寄り添って一緒に歩いてあげること」だった。

自分も学生の頃、どうしても壁にぶつかって登ることもできなくて呆然としていたときがあった。他の子はどんどんできるようになってく焦りと不安に苛まれてしまったからだ。
デザイン系の専門学校は1年で基礎を詰め込み、そのあとはもう実践のオンパレードだ。ひとつ躓くとどんどんと遅れをとってしまう。
他と比べた途端に心のバランスが崩れるのだ。
だから不安になりそうになる子には、直様すぐさま伝えた。
「他は気にしないで、自分のペースで一つ一つやっていこうね」

授業は平均的なものをやるので、飲み込むスピードの個人差がものすごくあって遅れをとってしまう子も多い。
だが、授業の課題も重要だけどものづくりをする心だけは折れないようにするのが最重要だった。

作ることが嫌いになった途端、その人の道はなくなってしまうから。
しかし、好きな気持ちが根底にない場合は続かないのが目に見えていたから、向いてない子には早々に面談をするなどで対応をしていた。

センスは磨けるからやはり継続は力なり、と個人的には感じていた。
私自身がツールなどを覚えるのが超絶苦手な子だったが、作ることが好きなことで伸びた遅咲きデザイナーの1人だったから説得力には定評があった。

また、産みの苦しみの先にあるものを見るまでは、どんなにだめでもやりきって欲しいとも伝えていた。
言われて作るのはプロになってから死ぬほどできるから、今できることは「自分が何を作りたいか?」を問いかけて作ることができる素晴らしい時間なんだよ、とHRなどでも伝えていた。

学生のうちにしかできない魔法みたいな瞬間だと、今でも思っている。

「はーい、みんな座って〜ホームルームやるよー!」

春の出会いから1年後の別れまでがあっという間に過ぎていった。

こんなにも人のためを思って働いている時間はなかったから、毎日が潤っていた。

嗚呼、私が本当にやりたかったことは…もしかしたら…
笑顔でみんなを応援していくことだったのかもしれない。

そう気づいた瞬間に心の奥底がほわっとあったかくなった。
デザイナーは適職で、天職は先生なんじゃないかしら。

あの時来た列車に飛び乗ってよかったなぁ…!

結婚して子供が欲しい普通の女子だったけど、このまま学生たちを育てていけるならそれもまた良い人生なのかもなぁと、ふと思ってしまった。

結婚したいって思ってたと思ったけど…
興味があるものが変わったのか、なんなのか…
充実してるから他に欲しいと思わなくなってしまった気がする。

前みたいな不思議な体験はなく多忙な毎日を送っていた。
私が先生になってから、3年の月日が経った。

澄み切った空から見える眩しすぎる陽の光。
最初の教え子たちの卒業式だ。

あんなに曇りなき目が輝いて少し不安げな感じで入学してきたあいつらも、一回り凛々しく立派になった。
入学式の時の目と、また一味違うのだ。
これから先の野望を叶えるためにちょっとギラついていたりするけど、楽しく過ごせたという満足感に満ちていて、この学生生活が終わることが寂しく、その気持ちの裏側には1人で巣立つ不安をを抱えている。

でも、晴れ姿が見れて本当に嬉しい。
この日を迎えられてよかった。
これからの希望に満ち溢れた毎日を思う存分謳歌して欲しい!
そう切に願うばかり。

「成海先生、どうぞ」
名前を呼ばれて壇上へ上がる。
最後の担任からの一言。

「今日がこんなにも早く来るなんて……先生は本当に驚いています。入学式がつい昨日のことのように思い出されます。
でもね、こんなに立派な姿を見ることができて、先生は心から嬉しい気持ちでいっぱいです。明日から寂しくなるけどね。
入学式にみんなに伝えた言葉覚えてる?忘れて欲しくないから、もう一度伝えておきます」

みんなの顔を見渡すと、啜り泣く声が聞こえてくる。
私自身も涙を流しながら最後の一言を絞り出した。

「あなたがやりたいことは何ですか?自分自身がワクワクすることは何ですか?
クリエイターの本質は伝えることです。あなた自身が楽しまないでより良いものは伝えられません。技術ばかり上手くなっても、伝えたいものが何もない空っぽなものならば相手には届きません。
自分の気持ちを大切に育てていってね。そうすればきっと、いいものが作り出せるから。これからも思いっきり楽しんでデザイナーとして作り続けてね!
先生はいつまでもあなたたちの味方で、応援してるから。あなたは決して1人じゃないから。躓いた時はこの言葉を思い出してくださいね」

3年間が走馬灯の様に思い出される。
涙が止まらない私も、今日で先生になって丸3年が経つ。

いろいろな思い出が巡る中、私も少しは成長しただろうか。
私は学生たちみんなから、たくさんのことを教えてもらったなぁと感謝の気持ちで胸が熱くなった。

今まで一緒に居てくれてありがとう。
あなたたちと出会えてとても幸せだったよ。

彼らのこれから行く先が、明るい光で満ち溢れますように。


LIFE 13   大丈夫

「…これ、本当に成海先生が主人公なんですか?」
担当の山岸さんが、ズビっと鼻を啜りながら問いかけてくる。
「ええ、そうですよ。だいぶ昔の話になるけど」
タイピングしながら返答をする。
書き直したいところがあるから、打ち合わせしながら修正をしている。

「ちょっと頑張り過ぎちゃって、体調崩して強制リタイアすることになっちゃったのよね。だから今こうやって自分がその時にやりたかったことを供養してるってところかな」
「なるほど…。そういうことってあるんですね。でもそれがいま活かされているのはちょっと感慨深いですね」
山岸さんは、頷きながら話をしてくれる本当にいい編集さんだ。
いろいろと私は恵まれているなぁとつくづく思う。

「まさか自分を題材にして話を書くなんて思わないじゃないですか。作家さんの中でも今回みたいなのはレアですよ」
「あはは、私もそう思います!」
カチャカチャッターンとキーを打ちながら軽快に答えた。

「体験談なだけあってリアリティ感じますね」
「そうすかね?それならいいんですけど。あ、もう少し学校の話は膨らませられるので、エピソード足りなかったら言ってください」

今、私は自分が体験したパラレルワールドを経て自分がやりたいことをできているという話を書いている。
こんな風にやりたいことが見つけられなくて、自分自身の中身がなくてからっぽな私でも変わろうと思えば変わるんだということをみんなに伝えたかったからだ。

40歳になった私は結婚して息子が1人。息子は今年3歳になる。
旦那とは、先生を辞めた後程なくして出会った私の最高の理解者だ。
環境を変えた途端に出会うなんて出来過ぎだよな〜って思っている私。

え?
なんで今作家業などをしているのかって?
それも流れでこうなっているだよね。
どうやら止められない流れなようで。

それってどういうこと???って質問だらけになると思うんだけどね。
私にもどうしてこうなってるのか、わからないんだ。
私は『自分でそうなるように決めて生まれてきた』らしい。

またまた頭の中が???ってなるようなことしか言えてないか。
ごめんなさい。
大丈夫!私もそうだから。

説明するの難しいんだけど、あのビジョンがなんだったのかとかを解明したくて知り合った『私の守護霊さまが視える方』にいろいろと教えてもらいながら今は執筆業に勤しんでいるだよね。
私には霊感がないから、聞いてもそうなんだ~というしかないのだけど、目の前で起こってる事象に説得力が増すということだけがわかっている感じ。

不思議な事という感覚がはじめは強かったけど、今は自然になりつつある。

「成海先生って、いろんなジャンルの話書かれてますけど、なんか生き様とか先生自身の本音とか他のことも知りたくなりましたよ」
「うふふ、ありがとうございます。いつでも語りますよ♡」


***


生きていれば一度くらいは、生まれてきた意味を知りたい瞬間や絶望の淵に立つことがあると思う。

私ね、わかったんだ。
何でそういうことがあるのか。

それはね、いいことも悪いことも体験して学ぶために生まれてきてるんだってこと。
そのために幸せだったり辛いことが交互にあるんだと思う。

何で私ばっかりこんな辛い目に遭うの?と心が粉々になりそうでも、底辺を肌で感じてそこから歯を食いしばって這い上がって行けば、その先に見えるものはたくさんある。後から伏線回収されるようなこともね。

言い換えれば、そうしないと見えてこないように自分自身で設定しているってことなんだよね。

自分自身の成長のために。

よく悩んでるときに目上の人から聞かない?
乗り越えられないことは起こらないって。
それを乗り越えて自分が本当に心の底から望むことさえ見つかれば、自分自身は最高で最上の未来を掴むことができるんだよ。

だからね、みんなも試して欲しいの。
この人生ゲームを。
失敗なんてないから。
ルーレットを回すのは自分。
次を決めて、進むのも自分自身なんだよ!

誰かに決められたレールを歩くだけなんて、本当は意味ないと思うんだ。
自分で望んだことじゃないからね。

自分の本当の気持ちに気づいてその声を大切にしていれば、絶対に目の前のことは良くなっていくから。
エゴが邪魔してくることがあると思う。
でも、それは自分を護るためにあるものだから。
自分の弱いところや嫌なところも全部受け入れて、自分を少しずつでも好きになって赦していけたなら、必ず目の前に見えるものは変わっていくから。

ブレない自分軸さえ確立できれば、もう大丈夫だから。

自分の心に正直に。
そして、自分と周りのみんなに優しく。
辛いことも苦しいこともあると思うけど
笑顔でいれば、絶対にいいことあるからね!

人生楽しんだもん勝ちよ?


* エピローグ


「…やっと気づいてくれましたぁぁ…!!!本当に骨が折れましたよ。」
「ほっほっほっ。よかったじゃないですか。無事に使命を遂行できてますね。」
柔らかい光を放つあたたかな笑い声と、口から魂を出しながら心の底から疲弊している声。

その2人がいる場所は、地球では、ない。

「はい、これでやっと私の肩の荷が降ります…!守護は引き続き継続しますが。」
「覚醒してくれたなら、もうあとは大丈夫ですよ。これからも期待していますよ。また何かあれば報告くださいね。」
「はっ!」
大きな柔らかな光はスゥっと高次元の彼方へ緩やかに消えていった。


「はぁぁ〜…!上にちゃんと良い報告ができて本当に良かった!!いろんな手段を使って気づかせようとしたけど…気づかないまま3年も経ってしまって…もう使命全うできなくなっちゃうんじゃないかと思ってたけど、諦めないでよかったぁぁぁぁぁ…!」

何やら今までの苦労話を吐露しているようなんだけど、疲れきった後ろ姿はまるで帰り際のサラリーマンのよう。。。
あ、わたしのせいか。ごめんなさい。

この方は、私の守護霊様だ。
私が人生設計図ブループリント通りの生き方ができるように、必死に私を護ってくれている。
この方のおかげで何度助けられたかわからない。
本当に本当にありがとうございます…!

あ〜……達成感からか泣いてるぅぅ!
本当に天然ボケ且つ鈍感な子ですみません…!
私気づいてなかったんですかね…?
あ、先生時代かな?忙しすぎて見えてなかった気がするな…。

でもね、私の生きる意味がわかったから、もう大丈夫ですからね!!

これからも作り続けますから。
キラキラした光のような気持ちを届けるのが私の使命だから。
自分がワクワクすることをこれからも続けていきますね。

「ママ〜早く次のおはなし読んで~?」
「はーい」
にっこりと笑って、息子に自分で作った絵本を読んであげる。

この小さな光の子も、ちゃんと真っ直ぐ歩いていけるように手を引いてあげなきゃね。

穏やかな木漏れ日が窓から差し込む静かな昼下がり。
シャランシャラン…と清い鈴の音が聞こえたような気がした。


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