見出し画像

[短編小説]リアルライフゲーム 【前編】



あらすじ

とある多世界パラレルワールドが、わたしが今いる世界だった。

デザイン会社で働く成海莉緒なるみりお(33)は仕事も恋愛も宙ぶらりんで空っぽな毎日に飽き飽きしていた。
ある日、不思議な夢を見てから毎日不思議なこと起こり少しずつ退屈な日常が変わり始める。突然、強烈なビジョンが頭の中に閃いた莉緒はそれが自分のこれから起こる未来だと知る。パラレルシフトをしながら望む未来を掴むための人生ゲームが始まった。
莉緒の本当の願いやりたいこととは?
自分が心の底からやりたいことを見つけた時、彼女自身が大きく変わっていく。
変わる未来を選択し続けた先に見えるものは…?
パラレルワールドを飛び越えながら、莉緒が本当にやりたかった魂の願いを遂行していくリアルでファンタジーな世界の一つの人生譚ものがたり

* プロローグ


「公開されたぞ!」
「見に行こう!」

声の主たちが進む先は、大聖堂のような吹き抜けの大ホール。
これから始まる壮大なミッションが公開された瞬間だった。

そこの空間に浮かぶのは光の粒。
マスターと評議会が決定したミッション内容が、呼吸をするようにフワンフワンと光りながら打ち出されていた。


地球テラ…!


私はその瞬間、ドクンと鼓動が身体中に鳴り響いた。
そして鼓動が早くなっていき、心の奥底から湧いてくる力強い想いが溢れてくる感覚に陥り「ああ、これはもう行かなきゃだめだ!」と、いてもたってもいられなくなっていた。

大聖堂の中心におわす優しい温かな大きなエネルギー光を放つその方に向かって、私は声を振り絞って叫んでいた。

「私、XXXになります!そして地球のために…………!」




LIFE 1 空っぽの小宇宙コスモ

目をうっすら開けると、カーテンからもれる朝陽が眩しい…。
夢か…。ベッドで横になりながら背伸びをした。
私はあまり夢を見ない方なので、見た時の夢は鮮明に覚えてるタイプだった。

うぅ…なんだかとても魂が震えるような熱い感じだったなぁ…
でもあれは本当に私…?
そしてどこにいたんだろう?どこぞのファンタジー界かなんかかな。
それに、自分があんなに生き生きと自分のやりたいことを伝えていた相手は誰だったのだろう。
思い出そうとしても肝心なところがぼんやりと霞がかっていて、思い出そうとすればするほど遠のく記憶。結局、わからないままだった。

時計に目をやると6時47分。いつもよりも1時間早く起きてしまった。
もう少し寝るかと横を向いて寝ようとしたが、こんなに自分の感情が残る夢も久しく見ないから全然寝れなくなってしまった。

「うーん…起きよ」

ベットから出て、カーテンを開けてコーヒーを淹れる。
会社へ向かうのも惰性になりすぎていて、目が覚めてから仕事モードになるまで起動時間が恐ろしくかかる旧型PCのようだった。

もっとワクワクする仕事がしたいなぁ…。といつもながらに思っていた。
私はとても飽きやすくて、自分が好きでなったデザイン職もルーティン作業が多くなるとすぐ逃避してしまいがちでため息をつきながら毎日を過ごしていた。
私は生活のために働く戦士ソルジャーのように、とても重たい仮面と鎧を身に纏っていた。

「成海さーん、今日の夜って空いてる?」
声をかけて来たのは隣のチームの爽やかわんこ系プランナーくんだった。
「お、早川くん。お誘いなんて珍しいじゃん。どしたの」
「いやさ…例のアレがさ」と小声で鼻の高い白い小顔を近づけて来た。
近い…!
「あー…今の作業終わったら行けそうだけど」と、この至近距離は周りの女子がトイレで噂するやつだと察して少し距離を取りつつ返事した。
「おけ、そしたら終わったら連絡ちょうだい」とひらりと席に戻って行った。

チャットすればいいのになんなん?とも少し頭をよぎったが、イケメンの眼福を拝めたからまぁよしとしよう。
そして手早くデザインチェック用のデータを制作して会社を出た。

「で、あれから進展ないの?」
「そうなんすよ〜。詩織しおりさん、誘ってもさらりと断られちゃうんですよね」と早くも項垂うなだれるわんこ早川。
「あの手の女子は誘い多いとウザがるでしょ〜」と私はその後の展開を見透かしたかのようにビールを飲み干した。
「もう諦めようかな」
「押してダメなら引いてみな?」
「くっそぉ、夏始まらねーよぉぉ」

私はよくこうやって異性の恋愛相談にのることが多かった。
話しやすさと洞察力と何やら勘がめちゃくちゃ良くてこの2人付き合いそうだな~と思った人たちがこぞって結婚までしたりしていたから、巷では私にて相談するとうまくいくというジンクスさえあった。
まぁ飲めよと言わんばかりに次の注文をしてわんこをなだめた。
早川くんは高橋さんとか合いそうなのになぁ…と、ふと頭に浮かんだけど今日は言うのをやめておくことにした。

「じゃ、帰り気をつけてね〜」
またねと手を振って新宿三丁目で別れた。
終電ギリギリだったから私も少し駆け足で電車に飛び乗った。
わんこ早川、最後はちょっぴり元気そうに尻尾を振っていたように見えたなと窓越しの景色を見ながらぼんやり考えていた。
こうやって人のことを励ましたりするのは好きなんだけどなぁ…
昔から困ってたりする人を助けたくなってしまう性格で、笑顔を見るのが好きだった。
昔からそういう人のために仕事をすることが生きがいでもあった。

渋谷駅で乗り換えをしようと電車を降りた。
乗り換えの地下道はまるで迷路だ。終電近いこともあって人が多かったからサッカー選手みたいに人をすり抜けてホームまで辿り着いた。
いつもながらの電車のホームだと少しほっとするところもあったけど、気を引き締めてないと寝てしまいそうだったが、なんとか家に帰り着いた。

「今日もお疲れさまー」と言いながらベッドにダイブした。
帰るなり猛烈な睡魔に襲われてベットに吸い込まれた。
あ、これメイクも落とさず寝るやつだ…!
目の前がぐわんぐわんと回転しながら意識が遠のいていった。

気づいたら朝だった。
そして、昨日とは何かが変わってしまっていた。


LIFE 2 シフトチェンジ

「あっれー?メガネなんでないんだろ??」

通勤バックに入れていたメガネがない。
確か昨日から入れっぱなしだったと思ったんだけど…?
軽い二日酔いで出社したからなのか、うーん?
一体どこで失くしたのか、全然思い出せない。

家の中でもよくあるはずの物がないことはあったから慣れっこではあるけど、最近よくそういう不思議なことが起こっていた。

今週は締切がほぼないからちょっと遠くのお気に入りの店までランチしに行こうと仲良しのあゆみにチャットで声をかけするりと会社を抜け出した。

「え?莉緒りおいっしょに行ったじゃん〜覚えてないなんてひどい!」
「ええ?そ、そうだったけ???」
「そうだよ〜去年の秋ごろだったかな。記憶喪失すぎん?」

女子力の塊みたいなあゆみが洒落乙しゃれおつなランチをつつきながら呆れてる。
いや、待って。
そんなお店私行ったっけ??人違いじゃないとしたら忙しすぎたんかなぁ、とそろそろ私の記憶が本当にやばいと思い始めていた。

「まぁ、その話はいいとして。早川とどうよ?」
「ワンコ?あー昨日また恋愛相談されてたけどあいつ彼女できなそうよ。可哀想なイケメン…」
「はぁ??莉緒死ぬほど鈍感かよ〜」
「ん???」
「早川、あんたのこと好きなの気づいてないの?」
痛恨の一撃をくらったため、目玉とか色々飛び出した気がした。

「え?は???待て待て」
「昨日デートだったんでしょ?」
「デートっていうかただの相談飲みだったよ!」
「そんなん口実に決まってんだろが」とあゆみはニヤニヤしながらパスタを頬張った。

目の前がぐるぐる回っている。
ちょっと待って。
昨日そんな気配あった??
惚気とか聞かされてたし、全くと言っていいほどそんな感じなかったぞ???

「ま〜莉緒次第じゃん?早いとこ元彼のこと忘れてイケメンと付き合っちゃおうよ♡」
「あゆっ…むぐっ。。人ごとだと思ってぇぇ」
口に放り込んだふわっふわのハンバーグで何故か咽せてしまい、水を飲みながら落ち着こうとした。

おかしい…
何かが違う気がする。
茶化されてるとかじゃなくて、別人のような早川くんの態度に違和感が残るのだ。
理由がわからないけど…とりあえず世界変わってませんか?????としか言えなかった。

「まーだあのメガネひきずってんの?早川の方が絶対性欲あるよ、若いし」
「…あゆみゴリ押しやめて?」

私はまだ元彼を忘れられないでいた。
自分から振ったというのに。
結婚適齢期を過ぎたミドサー女子と、結婚願望の少ない仕事人間はお互いの先の未来が全くイメージできなかったのだ。
人としてはとても誠実で好きだったのに、付き合った途端いろいろと合わないことだらけで1ヶ月もしないうちに別れてしまった。
私から突き放してしまった。
自分でしたことだから仕方ないと思っていても、数少ない異性の友達を失ったことの方がショックだった。

今週は締切が少ないから定時で帰れたから、帰ってジムでも行ってリフレッシュしようっと。
新宿は西から東まで歩くと30分以上かかる。
早く帰れた日は西新宿のオフィスから新宿三丁目まで30分ほど歩くことにしている。デスクワークすぎるから2駅ほど歩くのはちょうどいい運動になるのだ。

あー会いたいなぁ。
不意にそう思ってしまった。
新宿でのデートが多かったからか、見る景色に当時の記憶まで思い出されるというデバフ効果がかかってしまい、不意に心がセンチメンタルになってしまっていた。
新宿南口の広い歩道を抜けて地下道へ入る。ダンジョン感がある地下道を競歩並のスピードで歩いて行った。なるべく周り見ないように足元を見ながら。
すると、すれ違いざま誰かに声をかけられた

「成海さん?」
声をかけてきたのは元彼だった。
「仲田くん…!あれ?帰り?」どきまぎしながらチラリと周りを見渡した。
「あー、うん機材見に行っててふらっと遠回りして帰ってたとこ」
「そっか、家逆方面だもんね」
「そそ。なんか俯きながらものすごいスピードで歩いてきてるからびっくりしたよ。なんかあったの?」

変わらないなぁ…。いつもと同じように優しく声をかけてくれる。

「え、そんな感じだった?」
「うん、誰かに追いかけられてるのかと思った」とちょっと笑いながら話しかけてくる姿に、会いたいと思った瞬間に願いが叶って目の前に現れるもんだから頭がパンクしかけてきていた。

「いや、そんなことあったら走って逃げてるって」
「だよね。あ、もうご飯食べた?」
「うぅん、ジム行こうかと思っててまだ」
「それなら軽く飲みでも行かない?」

突然の誘い。さすがフッ軽の仲田。
ただ、こんな偶然滅多にないから「行く♡」とバンザイしながら即答した。
別れてから連絡するのが気まずかったからしてなかったけど、会いたい気持ちが大きくなった瞬間に会えるなんて神様は見てくれてるんだなって思って2倍嬉しかった。

2人とも美味しいお酒とご飯に目がなかったから、行きつけだった三丁目にある全国の日本酒が飲めるお店に行ってしばらく会ってなかった間の話で盛り上がった。
お互い音楽が好きで仲田くんはサウンドのお仕事をしてるということもあって、部署は違ったけど会社のBBQとかでタメなのが発覚したりして一瞬で仲良くなった。
そんな馴れ初めもだいぶ昔に感じる。
友達期間が長かった私たちは、付き合ってた期間が逆に短かすぎた。

酔いもまわってきた頃、わたしから伝えたかった言葉を先に声に出した。
「連絡しなくってごめんね。なんて声かければいいかわからなかったんだ」
仲田くんは、眼鏡越しにフッと笑って呟いた。
「どうしてるかなって心配してたよ。元気そうで良かった」

わたしの方から言い出したのに…フラれても心配してくれてたなんて泣きそうになった。
仲田くんはとてもいい奴で紳士なので、どんなに飲んでもちゃんと終電前には帰してくれた。
そういう所が好きだった。多分今でも好きだ。
でも何故別れてしまったんだっけ?
酔ってるせいなのか、その理由がなぜか霞がかっていてわからなかった。

他愛もない話ができる間柄ってとても貴重な存在だ。
恋愛に発展するとその先に求めるものが多くなっていって、大事なものを見失ってしまう。

頭でっかちの考え方をするからいけないんだろう。
机上の空論や理想を掲げて目の前のことをちゃんと見つめないから失敗するんだろうな。
どんな人でもご縁があって繋がるのに、それを無駄にするような選択だけはしたくないと強く思った。

考え方ひとつで世界が変わるんだなぁ。
別れた直後にはなかった感覚だ。

仲田くんとはどんな関係であれ、話したい大切な人だった。
ヨリを戻したいとほのかに思ったけど、まだ心が迷っていた。

私のやるべきことを見つけないと先の選択ができない気がしていたからだ。
こんな中身の空っぽな状態の私のままでは、付き合ったとしてもまたダメになる予感しかなかった。

私は、一体どうしたいのだろうか。


LIFE 3 フィーバー?

最近、更に不思議な出来事が多い。
思ったことが叶うことが多くなったり、スマホ見れば11:11とか車のナンバーも777や、Twitterのイイネ数444などのゾロ目も多く見るようになった。
何故…!

今日も仕事が退屈だろうから早く帰って何をしようかと考えていた矢先、見た目は金髪オラオラ系、心は乙女上司に朝からニコニコと手招きされて席まで呼ばれてしまった。
「なるみん、お前これやってみる?」
見せられた資料は某人気アイドルグループ案件だった。

「わ、やりたいですー!美少女好きなんで!!」
とやる気いっぱいで即答した。
「おっけ~、かわいくしちゃって~」とオトメン上司の橘部長は嬉しそうにそう言うと肩をぽんと叩いてひらりとたばこを吸いに行ってしまった。

念願のディレクション関係の仕事。
しかも外注管理。デザインするのは好きなんだけど、他のスキルアップもしたかったから好都合すぎる話だった。
いやぁ、いい日だなぁとルンルンと自席に戻るとニヤニヤしながら鼻歌を歌ってしまった。
その日は1日中いつもつまらないと感じていたルーティン業務も全然苦じゃなかった。
帰りまでルンルン気分は続き、帰って趣味の掃除でもするか〜とそそくさと帰る支度をして「お疲れさまです、お先でーす♪」とオフィスを出た。

エレベーターを降りると、早川くんも隣のエレベーターから出てきたところだった。
「おつかれ〜、今日早いじゃん」
「成海さんも。これから飲み?」
「いや、今日は直帰して家のことやる。そっちはデート?」
「んなわけない」
「なんでよ」

会話の内容なんて全くないのだが、こんな適当すぎる話ができる存在がいるって素敵。
こういう発想がいけないことはわかるんだけど、弟と絡んでる感覚が楽すぎて好きだ。
「新宿だっけ?駅」
「そう、途中まで一緒かな?」
こんな感じの空気感だから、同僚のワンコ教信者に舌打ちされるのだろうな〜と頭の片隅でほんのりと思いながら駅へ向かう。

「今日部長にさぁ、新規案件のディレクション任せてもらえたんだぁ」
「お、すごいじゃん。オトメン部長成海さんお気に入りだしそりゃそーなるか〜」
「え??そうなの?」
「あからさまにそうでしょ!まじで話してるときすごい笑顔っすよ」
「…あれデレ顔だったんか」
「成海さんって天然?」
ワンコに失笑されてしまった。

うーん?なんかいつも良くしてくれるなぁとは思ってはいたけど、そういう…?
考えようとしてやめた。
シャナイレンアイめんどくさい。且つ既婚者やんか。
…ないわ。

「成海さんってさ、気になる人とかいないの?」
「え、今?いないねぇ〜」
「うっわ、可愛いのにもったいな」
「美人の方が嬉しいな~てか、もう三十路は軽く超えてんのよ私」
「年齢関係ないっしょ」

なんかめっちゃゴリ押されてる感覚。
どうしたワンコ、エサが欲しいんか。

「…あのさ、今度2人でどこか行かない?」
「え?」
「デートしよ」

あゆみの「早川は絶対性欲はあるぞ、若いし」の一言が私の頭を横殴りにしてきた。

「お、おぉう…」
横殴りの一発がだいぶ重たい。

「何そのリアクションーーー!俺泣いちゃう!!」
「いや、だって!いきなりだし!」
「俺の夏の思い出作り手伝ってよ」
「お前のかよ!しかもいつからそんな風に見てたんだよぉぉぉ」
「え?」

子犬系イケメン満面の笑みの早川が本当に遊んで欲しそうに尻尾をふりながらこちらを見ている。
垂れ耳仕様なのはズルかろう?

「い、いいよ…」
押しに激弱過ぎる私がワンコにお手をした瞬間だった。

「おっけ!そしたら今週土曜日空けといて。あとで連絡するから」
じゃーね〜と颯爽と新宿駅の改札を駆け抜けていく犬。
足は早いのね…。しかも土曜日も暇なの見透かしてたの??

あの、、さ?
何か世界線ホントに変わってませんかね?
ただ心には少しだけ、春風が吹いた気がした。


LIFE 4 Vision

何やらいつもみたいな退屈な一週間ではなくなってしまった。

来週の締切分も早々に仕上げて金曜日が終わり、夜は月1のチームの飲み会へ。
だいぶいい感じに酔いが回ってきたあと、オトメン部長が低音響くいい声で「なるみん、カラオケ行こうぜ!」
とノリノリで肩を組みながら誘ってきた。
明日のデートが朝早かったのを思い出して、明日は予定が朝からあるので今日はごめんなさい〜!となんとか逃げ帰ってきた。
これで捕まったら朝まで確定だった。部長にはだいぶがっかりされて懇願までされていたのがツボだった。気に入られてるのがやっとわかった気がする。

別に早川が大切とかそういうわけではなくて、私は約束したことを破るのがあまり好きではなかったのだ。
本当に乗り気じゃない時は先に断るけどね。

いつもは新宿三丁目から乗るんだけど、歌舞伎町の方で飲んでいたからそのまま新宿駅から渋谷へ向かった。
終電まではまだ時間があるから人混みを駆け抜けることはしないけど、いつもながら人で溢れかえっていた。
いい感じに酔っ払っていたので、いい気分のままホームへ向かう。
階段を降りてホームで急行を待ち乗り込み、窓際で外を眺めながらぼんやり考えごとしながらひんやりとした地下の空気感が体温を少し下げてくれて心地よかった。
満員電車は嫌いだけど、乗り物は好きなのよね。あのキィーンと響くレールが擦れる音とか。

明日早川くんとデートかぁ…我ながら本当に浮ついてるな。と苦笑した。
元彼の仲田くんは結婚願望がないから、好きだけどこれから先を考えづらかったし?
それなのにこの間の会いたいって気持ちは一体どういうことなんだよ、莉緒よ。
早川に結婚願望があったら、私はどう感じるのだろう?
異性というより弟ワンコって感じだよなぁ…それでいいのか??
でも、デート誘ってくれたのは嬉しいかな。でも付き合う…??
ええ??今それ考える時?
あー…もう、恋愛より仕事やろ、自分。。。
あれれ、なんか目の前がグラグラしてきたな。。。

最寄り駅までの20分間くらいしかないのに突然、頭を締めつけられるような痛みが走りと一瞬息が止まりそうになって呼吸が苦しくなった。よろけそうになり窓に寄りかかった途端にキィーンと耳鳴りがした。
そして突然ババババっと頭の中にものすごい情報量のイメージが電撃の如く入ってきた。

!?

何これ…!
雷のように瞬間的なフラッシュと共に大量のビジョンが頭の中に流れ混んできた。
それが私の頭の中にダウンロードし終わると、耳鳴りが止んだ。

はぁはぁと荒い呼吸をしながら、へたりとその場に座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?すごい苦しそうですけど…」と心配そうに隣の女性が声をかけてくれた。
「あ…大丈夫です。ちょっと気分が悪くなっちゃって。ありがとうございます…!」
と、窓に手をついて息を整えながらゆっくりと立ちあがった。

きっと青白い顔しながらものすごく変な顔していたと思う。
頭の理解が追いついてなかった。
BPM150くらいで心臓が脈打っているようだった。

どう説明したらいいものか。
一瞬の出来事だったが、私は見てしまったのだ。

自分の未来を。

断片的なものばかりだけど、少し先の私。
そして全ての自分の感情が自分の中に入ってきて、混乱して息ができなくなりそうだった。
ポタポタと涙が両目から零れ落ちた。

一瞬のことだったのに、これは夢ではないと確信する私。
そして、これがこれから自分に起こる未来なんだと、何故かわからないけどそう感じた。

私の日常がこんなにも変化していくなんて信じられない…!

とても幸せな自分と、不幸の極みみたいな自分。
はたまた何も起こらない平凡な毎日を過ごす自分。
試練みたいな苦痛だらけの自分。今の自分よりも大人びた自分が居る世界…

こんなにも世界が変わってしまうなんて…!と驚くほど豹変する未来。
いうならば、シュミレーションゲームのハッピーエンドやバッドエンドみたいなものだった。

ちょっと待って。
これってもしかして…

私のこれからがどうなるかを予知してるってこと?
そんな能力ないよ、私。

でもこんなリアルな感情まで体感しちゃったってことは…
最近の不可思議なこともあるし、もしかしたら本当にそうなってしまうかもしれない…と背筋がゾッとした。

はっと気づくと電車が最寄駅に着いていた。
やばい、降りないと。
足早に電車を降りてコツコツと家路を急いだ。

もし、さっきのビジョンが本当なら明日からその未来がやってきてしまう。
私は今の事態にものすごい悪寒みたいなものを感じながら、冷静になろうと夜風に当たった。

だめだ。頭が更に混乱する。
どうすればいいのか。
いや、その前に私はどうしたい…?
どんな未来を経験したい??

その未来を作るのは、その一瞬の自分の選択が大事なことも悟った。
選択を間違えたら起こり得る未来。

バッドエンドなんて嫌だ。
心底惨めで悲惨な人生を送ってる自分の姿が脳裏に浮かんで涙が出てきた。
さっき見たビジョンの中の自分は、絶望の底にいた。

涙を右手で拭う。

あんな自分には絶対なりたくない。
そしてエンドだなんて絶対に嫌だ、まだ先の未来があるのに…!
沸々と湧いてくる強い想い。

私は…
自分を絶対に幸せにすると、その時心に誓った。

***


今、私がいるこの世界は止め処ない選択肢で満ち溢れている。
毎日が選択の連続。
適切な選択肢を選ばないと、一瞬で世界は変わっていく。

その先に見えるものは、一体どういう意味があるんだろうか?

ビジョン通りになるのか試したくなってきた私は、
好奇心にも似た興味が湧くと共に『自分の未来を変えるゲームをする』ことに決めた。



▼続編

[短編小説]リアルライフゲーム 【中編】

https://note.com/preview/nee17cd38546c?prev_access_key=d04009d284790faf086676ecb2fd731e

[短編小説]リアルライフゲーム 【後編】

https://note.com/preview/neaa41808d24d?prev_access_key=abeb7eb9161e1b7ccd0190bbbfc4de2b



#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門 #小説 #ファンタジー #ノンフィクション系 #パラレルワールド #パラレルシフト #他世界 #ビジョン #自分軸 #選択 #本当にやりたいこと #仕事 #転生 #スターシード #人生ゲーム #リアルライフゲーム


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?