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建物に残された記憶を集めて


車窓を流れてゆく風景を、横目に眺める。

田舎町に足を運んだ際には、目的もなく商店街を通り抜けるのが好きだ。


ひと気が少ない商店街を走り、赤信号でとまると、左手に古いお店。シャッターは閉められていない。

そちらへ顔を向けると、ガラス戸の中は、古びた自転車と段ボールで隙間なく埋め尽くされている。ちょうど家の中央の位置に、部屋の奥へと進むための、人1人がやっと通れる獣道のようなスペースが、かろうじて確保されていた。

日差しには、自転車店の文字。

ちょうどガラス戸の向こうの獣道から、使い古した黄色のつなぎを纏った年配の男性がゆっくりと姿を現した。

何をするでもなく、お店に背を向け、どこかへ出かけるようだった。


何年、何十年か前はきっと、この商店街は賑わいがあり、この自転車店もまた、子供から大人まで、多くの人で賑わっていたのだろう。

そして、店主のご年配の男性は元気にお客さんに自転車を届け、そしてお客さんの持ち込んだ自転車を修理していたのかもしれない。

そんな様子のセピア色の風景が目の前に浮かび、何故だか涙が溢れた。



今ある風景も必ず変わってゆき、何年、何十年後かにはそこから消え失せてしまう。

今あるこの風景を思い出し懐かしみ、又は想いを馳せてくれる方は現れるのだろうか。

そんなことを考えると少し寂しくなるが、こういう風景があったのだよ、と何十年後かにここを訪れる人に届くよう、じっくりとその風景を眺め、味わった。



歴史的な建造物もそうだが、いまや街にあふれている、人の住んでいない建物や、昔お店だった建物など、それらの建物の一つ一つに残された記憶に想いを馳せながら街を訪れると、また違った風景が見えてくる。

そんな風景を求めて、今日もまた、車を走らせる。





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