白菜

リリ山白菜です。架空の街「深山市」を舞台にした連作小説を書いています。不定期で「ゴース…

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リリ山白菜です。架空の街「深山市」を舞台にした連作小説を書いています。不定期で「ゴーストハンター」シリーズの予定も。

最近の記事

『MIYAMA #6 深山わくわくテレビ』

黒木:皆さん、こんにちは。深山わくわくテレビの黒木です。本日は特別ゲストをお迎えしています。三条ホールディングスの社長、三条宗春さんです。三条さん、どうぞこちらへお越しください。 宗春:ありがとうございます。三条ホールディングスの三条です。 黒木:三条さん、本日はスタジオにお越し頂きありがとうございます。さて視聴者の皆さんはすでにお気づきかもしれませんが、お忙しい三条さんに本日お越し頂いたのには理由があって、三条さん、この度は「深山市地域発展賞」の受賞、おめでとうございま

    • 『MIYAMA』 登場人物 #1

      これまでの話の登場人物を整理しました。まだ5話ですが、登場人物を増やしていって深山市を舞台にした群像劇に仕立てていく魂胆ですので、これからも定期的にこういうまとめ的なものを挟んでいこうと思います。 連作『MIYAMA』は、ただの地方都市の日常を描くにとどまらず、登場人物たちの選択と結果が引き起こす暴力の連鎖、人間関係のもつれ、そしてそこから生まれる感情の動きを深く掘り下げることを目指しています。 今後、物語ではさらに登場人物を増やしていき、深山市をより鮮明に、そして多角的

      • 『MIYAMA #5 虎然』

        ある日の早朝、霧が静かに街を覆う中、山熊組の若頭である李虎然は、思いがけず黒木からの電話を受け、その内容に心を乱されていた。黒木の声は冷静を装っていたが、言葉の端々からは緊迫した空気が滲み出ていた。会話の内容は些細なものだったが、黒木の言葉には、間もなく彼に仕事を依頼するかもしれないという、不穏なほのめかしが含まれていた。 虎然は、その依頼が沈倫に関わるものであり、おそらくは彼を排除することを目的としているに違いないと察した。というのも前々から黒木は沈倫を目の敵にしているの

        • 『MIYAMA #4 阿古屋』

          深山市の裏社会で起こった黒木と沈倫の確執は、ついに具体的な暴力として表出してしまった。かつての盟友との間に渦巻いていた険悪な空気は現実のものとなり、麻里田住民を不安と恐怖で覆っていく。病室の静けさとは対照的に、沈淪の心にはあの夜の激しい記憶が焼き付いていた。 一方その頃、深山市の影に潜む真実を暴こうと、新聞記者の井原は滞在していたホテルで夜を徹して記事を書いていた。彼女の目の前には、これまでの取材ノートと市内の暴力事件についての断片的な情報が散乱していた。彼女はひとつひと

        『MIYAMA #6 深山わくわくテレビ』

          『MIYAMA #3 権兵衛』

          清水権兵衛の机は、いつものように無造作に積まれた曖昧な書類で埋め尽くされていた。彼のデスク周りは、他の職員のそれとは一線を画しており、その独特な乱雑さが彼の仕事ぶりを如実に物語っていた。たまに聞こえてくる「権兵衛部長は一体全体、何の仕事をしとるんじゃろ」という同僚たちの愚痴にも似た声は、彼にとっては風に吹かれる葉のささやきに過ぎない。 権兵衛はそんな周りの雑音を耳にしながら、ゆったりとした時間を過ごす。彼の存在は市役所という組織の中でぼんやりとした輪郭を持ち、捉えどころのな

          『MIYAMA #3 権兵衛』

          『MIYAMA #2 黒木』

           深山市の朝は、地方都市周辺部に特有の懐かしい静けさに包まれている。その一角にあるスーパーマーケットでは、店長の黒木が早朝から店内の準備をしていた。彼の動きは手際良く、まるで何年も同じ動作を繰り返してきたかのように見える。商品の整理、賞味期限の確認、そして開店前の清掃。これらすべてが、彼の日々のルーティンとなっていた。    しかし、この平穏な日常の中にも、黒木の心の中には常に不安があった。それは、彼の表情や仕草に微妙に現れていた。例えば、従業員が質問をすると、黒木は答える前

          『MIYAMA #2 黒木』

          『MIYAMA #1 不比等』

           麻里田の小さなスーパーマーケットに、不比等はアルバイトとして働いていた。東京の大学で地域経済学を専攻し、その学びを活かしていつかは故郷の活性化に貢献したいという思いを胸にUターンしてきた彼にとって、このアルバイトは一時的なものだった。しかし、この小さな町での日常は、彼が思い描いていた活気ある地域活動とは程遠いものだった。店の外を眺めれば、日中から活動する人々の姿は稀で、そのほとんどが年配の方々だ。不比等は、こうした現実が地方の過疎化が進む日本の縮図であることを痛感していた。

          『MIYAMA #1 不比等』

          #ゾンビと僧 13

          老人にゾンビは難しいと言い出した。ゾンビは力学が必要で、この場合の力学とは実際に土中から這い出るパワーである。このエネルギーさえあれば、あとは地上にでてさまよいさえすればいいのだが、棺桶ごと埋められて、そこから出てくるには相応の筋力が必要になるだろう。はたして老人にこの作業ができるだろうか。私は試してみればいいと提案した。仲間にはダンボールか何かに入ってもらって、人一体が入れるほどの穴を掘って上から土をかける。で、仲間がそこから出てくればクリアだし、無理そうだったらこの話は残

          #ゾンビと僧 13

          #ゾンビと僧 12

          私に家族はいない。離婚して子供二人は妻と一緒に暮らしていたが、年齢からすると二人とも成人して、おそらく今はそれぞれの暮らしを営んでいるだろう。両親もずっと前に他界した。親戚はいるにはいるが、どこでなにをしているのかわからない。そもそも連絡をとる手段がないので、私は私がかつて関係した人たちの動向を知るすべがない。この開放感溢れる孤独に私はずいぶんと親しんできた。ただ生きているだけでどこに向かっているのか自分でさえ知らない。私を待つのはただの死だ。待たれていようがいまいが、どうせ

          #ゾンビと僧 12

          #ゾンビと僧 11

          先生の日記 固定された住まいをもたない生活は快適だがいつ死ぬかわからない。死んでも誰も気がつかない。私は事業で失敗して離婚して資産もすべて精算したので戸籍をのぞいて社会をは繋がっていない。つまりいつ死んでも面倒がない。ただし街中で死ぬと私の死体の後処理で行政に迷惑をかけることになるのでこれは避けたい。私はもう誰にも面倒をかけたくない。蒸発はしたので、あとは死ぬだけだ。私にはそもそも人を雇うような器量がなかった。私のわがままに付き合ってもらった社員には心から感謝している。彼

          #ゾンビと僧 11

          #ゾンビと僧 10

          エロと健康。エロと運動。 エロと健康はなんとなくありそうだ。可能性を感じる。エロのメンタルへの恩恵はすでに実証済みだろう。エロと運動はピンとこない。試しにエロと運動で検索してみると、エロ動画しかでてこなかったのはなんともたくましい。エロと健康の記事はおおかた長生きとか、セックスとか、それらを検証したあれこれ。これらのファクトを踏まえて私は逆張りをしてエロと運動でマーケティングしようと決めた。エロい大人の目にとまるように、彼らが出向く先で待っていれおのずとエロい大人たちがやって

          #ゾンビと僧 10

          #ゾンビと僧 9

          アキラの日記 私には目標がある。働く大人たちの健康寿命をのばしたい。父を亡くして以来、働く大人たちへのケアが必要だと感じるようになった。父の生活は仕事と家庭の往復で、いずれの場所でも彼は責任と義務を背負って生きていた。私たち家族は父の疲弊を気にかけたが、彼は私たちがそのような素振りをみせるといつも大丈夫だよといって、立ち止まろうとはしなかった。父は植物生理学の研究者で、家のそこら中に研究とインテリアを兼ねた植物があったが、父が亡くなってからは世話が大変なので、近隣の洒落た

          #ゾンビと僧 9

          #ゾンビと僧 8

          日本にゾンビが存在しないのは哲学の問題であろう。ゾンビとは生ける屍といって、肉体を持つが魂はない状態。彼らには幽霊のように未練や恨めしい感情がない。ただの力学系肉体。目的の喪失。存在の意味づけがなされない存在。このような存在を許容するメタ的な言説が日本には存在しなかった。八百万の神や付喪神などあらゆる存在に意味付けできたのは、そこに現象があったからだ。現象とはつまり存在が確認されていない何者かがもたらす、あるいはもたらした痕跡で、であるならばゾンビの現象とはなにか? 土中から

          #ゾンビと僧 8

          #ゾンビと僧 7

          僧ゆえに人の生き死にが毎日のように目の前を通過していく。私の読経は実体なき空に消えていく。虚無。いったい行政はこれほど大量の生死を毎日あまさず記録しているのだから、その所業はまったく修行である。煩悩が入りこむ余地がない。他人のミスに目が行きがちな私はいくらかは取りこぼしがあるのだろうと妄想する。現代日本はわれわれ仏門でさえ法人化して行政の管理下にあるので、彼らの目の忍んで勝手に生きて死ぬことができない。仏教の教えを守る以前に法の下の民であらねばならない。なるほど現代の役所勤め

          #ゾンビと僧 7

          #ゾンビと僧 6

          僧の日記 都合よく検体があるわけでもなく日々の勤めをこなす。退屈だ。私は坊主でいていいのか悩む。説教の本来は感情を理性でオーガナイズすることだが、衆生はそのような理知的な言葉を好まない。経験の言葉を聞きたがっているようだが私は若い。説得力に欠ける。結局のところ坊主は見た目が肝心なのだろう。年寄りは存在がすなわち涅槃である。住職は80を超えてまだ生きている。坊主の務めも健気にこなしている。尊い。根っからの僧である。日中戦争がはじまった年の生まれだそうだから生を受けた時点です

          #ゾンビと僧 6

          #ゾンビと僧 5

          幸いなことに私は僧であるから、人の生き死には比較的近しい場所にいる。そこでどうにかして土葬ができないものかと調べてみたところ、埋葬について規定した法律というのがあって、そこでは行政の長と墓地管理者の許可があれば、管理組合から禁止されていないかぎり、土葬はどうやら可能なのだが、そもそも土葬が許可されている地域は非常にすくない。この寺にきて10年近く経つが、いまだに土葬の話はきいたことがない。住職にもきいてみたが、やはり知らないと言う。自治体の職員にも、土葬の事例がないかきいてみ

          #ゾンビと僧 5