10月15日(静謐の中で狂気になる。土曜日) 苦労というものを知らずに生きてきた。私はぬるま湯で茹で上がったマヌケなタコです。 芯のある男になりたかった、タフな男になりたかった、誠実な男になりたかった、思想を実生活で活かせる男に、本物の審美眼を持った男になりたかった。 「道の人」バラモンに近づきたかった。 父は昔悲惨なほどに貧乏だったそうだ。私の祖父、つまり父の父は賭博に溺れ、借金とまだ学生だった父と、祖母を残し病死したと聞く。 生活は困窮を極めていた。保険証すらも持って
①革靴がつま先から溶ける。記憶の固執みたいに。想像力の馬が猛る。力強い蹄の轍ができる。そのどれか一つの中で、踏み潰されたミミズが悶える。 僕の生活はそういう具合に進んでいる。 深夜、コインランドリーのベンチで小説を読み終えた。つまらなかった。シナリオの構成はすぐに予測がつくもので、登場人物のセリフもクサい。物語らしい物語という感じで、何か嫌な感じがしたし、作者のニンも上手く表現できていないような、全てオリジナルなのにそこらじゅうにテンプレートな臭いが充満している作品だった。
小心者が嘘をついた その日から彼の頭には白蛇が巻き付いて 彼は終日頭痛に苛まれた 痛みは長く長く続いた フラフラと歩いていると 突然どこかから、肉の弦が引きちぎれるような 不気味な音がした 足下を見ると、1匹の蛙を踏み潰していた それがきっかけとなり 彼は全てから逃げることを決断した 逃げた先は、彼が最も辿り着きたくない場所だった (古い畳の上で流動する計算づくの丸みを帯びた肉欲は、他のどんなものよりも柔らかく、また、吐き気を催すほど淫らで、美しかった。私は敗北した。 次
今更どうにもならぬ事ばかりを考えながら 歩いておりましたら やんわと広がる雲のにオモテに 巨大な魚影が見えました 僕はそれを見た瞬間、努力とか信頼とか 手と手を取り合うことに対して 浅ましさと憎悪を覚えたのです
靴を洗う事を思いつく →さっさと靴をあらう または→靴を洗う必要性について熟考し、そこに虚しさを見る 例えば、靴を洗うことが自分らしくない行為だ 自分は靴の汚れみたいなことに気を使わない人間であるべきだと思い込む そうして靴を洗わないという選択をする それに関わらずそれ以降も靴を洗う必要性が訪ねくる トントントン「毎度どうも、私コアラですけども、お宅の靴は汚れているので、洗う必要があります。」 「帰ってくれ、そんなことはお門違いだ」ピシャリとドアを閉める。 「お待ちください。
東の農場で育った豚が 南農場に移された 東の豚は南農場の豚の 生活の中に混じった 東育ちの豚は新しい集団の 豚たちがする、奇妙な行い なんとも素敵に見える行い 非道に思える行い どの行いも尊重するように努めた 豚はその集団に溶け込む必要を感じた 理解できないことでも理解しようと 熱心に取り組んだ この集団に受け入れられないと 一人でする泥浴びなんて哀しいだけ 東から来た豚は食事の食べ方を 周りに倣って真似をし、泥浴びの仕方も 周りのやり方にならった 強迫的に それから今までし
詩人が百人、トマトが一つ 六十人は、トマトの水々しい果肉、目の冴える赤色、ヘタの微妙なうねり、その甘さ、または酸味などについて歌った。 三十人は、トマトに内在する自分自身の影を追った。トマトが自己に及ぼす影響と、自己がトマトに及ぼしている影響、トマトと自己の一致、または不一致などについて思考して、頭痛に苛まれた。 八人は、トマトをハンマーで叩き潰したり、車で轢いてみたり、空高くに放り投げてみたり、火炎放射器で焼き尽くしてみたりして、ただ楽しんでいた。 残りの二人の内の
抽象世界の「雨」というシニフィエ それを「雨」と言わずに表現する方法を考え続けている詩人がいる (ハングドマンが二回出た後、ツバメが僕の周りを三周回った。) 抽象世界の「雨」というシニフィエ それはエピグラムもアフォリズムもエスプリさえも無力化する感傷という大魚を飼っている (遠くで大仏の哄笑が聞こえた。その響きに紛れて、誰かが鶏を絞め殺している。) 抽象世界の「雨」というシニフィエ それは限りなく真実に近い嘘である それに気づく者はいつも少数で、気づいたとしても何も
本屋が嫌いですねん。本屋はナルシストやから。 ◯ 暴力的な夕日に全身真っ赤に染められました。せやから、夕日を暴行罪で訴えました。 ◯ もし明日晴れたら、僕はこれからの人生、当たり屋として生きていきます。せやから、雨降って欲しいです、明日は。 ◯ いつか虹の事が大っ嫌いな男と出会って、下品な下ネタで大爆笑しあいたいです。 ◯ 雨の事は好きですけど、雨って言葉は嫌いです使い古されてる感じがします
恐るな、自分だけの空間、明日には忘れてしまえ。 救う、救うよ、絶対救う。これは旅、俺だけの俺、誰も通さない、ここから先へは。 嘘つきはどこか、なんにも考えちゃいない。わからないんだバカだから。 自尊心はどこか、ガラスよりもガラスのハート、弱っちいのよ、本当に。見下してるよね、見下されてるよね。 生きるのって死ぬより悲しい。 無くしたリモコンは、部屋中ひっくり返せば見つかるけれど、心ってやつはそうもいかない。1人って怖いよ。助けてよ。でも頑張ったじゃない。あんなに弱かったのに、
夕暮れに、とぼとぼあるく、二人である マンションとマンションの間の祠の前 婆さんがずっと合掌してる 信楽焼のタヌキが、紫陽花の葉の下で雨宿り 雨はもう降っていないのに、ばかなやつ 猫避けの水を飲んでまわる妄想をする アルミサッシの向こう側の話し声は愉快 猫の一声、爺さんが振り返る 水溜りを踏む、アメンボすべる 命なりせば、寺の貼り紙 イヤホン、はずしてみれば無常 立ち止まり、爪を見て、ただ数える 一、ニ、三、四、五、十指に至らず なんだか、虚し
薄汚れた街の薄汚れた路地裏に薄汚れた喫煙所があって、そこには有名な薄汚れたガチャガチャがあるんだ。なんでも、それを回すと今の自分に必要な言葉が出でくるんだと、で、そこにさ、ついこの前行ってきたわけだ。 あそこは酷いね、街や、物だけじゃない。人まで暗澹として、深く呼吸するのも憚られるような空気感だった。 もちろんその例のガチャガチャも、回してきたよ。 回すとカプセルが落ちてきて、その中に入ってる汚い紙切れに、文章が書いてあるんだ。何回か回したけれど、どうと言うことはなかったね。
シロサギよ そんなに長い間同じところに突っ立って 何を考えているんだ どうせ何も考えちゃいないんだろう 俺は違うぞ たしかに俺もお前と同じようにもう長い間にじっとしているけれど 俺は人間様であるので、労働の事や、哲学の事や未だ見ぬ将来の事、とんでもなくエロい事、その他もろもろ考えた だけど最後には、お前を見つめてボーっとするしかなくなったので、 もしかしたら、俺はお前と同じ、シロサギなのかもしれないな 白いシャツを着ているし、今は何にも考えていないから そこでだ、同じシロサギ
男はスクランブル交差点を歩いている。くたびれたスーツに、ビジネスバッグをぶら下げていた。左のポケットにはショートホープとライターが、右のポケットには名刺入れが入っている。すれ違う人たちの足元だけを見ながらぶつからないように歩を進める。 彼の頭の中にはもはや、破壊衝動すらも無かった。疲労だけが漂っている。 首を垂れながら、それでも歩く彼は、人々の靴を見ながら、いつもと少しだけ違うことが起こっているのに気がついた。 人々の足が時々、こちらを向いているような気がしたのだ。 それは、
真夜中の交差点で、僕はあり得ない事に思いを馳せる 存在しないバス停に忘れられた傘 存在しない国の明日の天気予報 存在しない永久機関の歯車の回転、そこに降りかかる存在しない重力 存在しない男女の愛の囁き 存在しない草原が、存在しない焦土に変わったら、存在しない女の子はどれほど哀しむだろうか 真夜中の交差点で、僕は現実に目を向ける ポケットに入っているくしゃくしゃの千円札 遠い国で見たストリートチルドレンの眼差し 取り壊された秘密基地と新品のビジネススーツ 皆んな誰かのフリ
本当の自分を見たいなら 学校も仕事も、うんと寝坊しな 明日できる事は、絶対に今日やっちゃダメだよ 花言葉なんて、調べちゃいけない 自分で勝手に、名前を付けちゃえばいいよ そうして耳を傾けてごらん あそこの公園でブランコに乗ってる小さい子 が、何か言いたそうにしているよ ほら、こっちへ来た。聞いてあげな。 「今日砂場で遊んでた時にね、考えたんだけれど、結局のところ、ラプラスの悪魔はね、未来を知る事が出来なかったんじゃないかって思うんだ。波動関数の収縮と、世界の多