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薄汚れたエピグラム
薄汚れた街の薄汚れた路地裏に薄汚れた喫煙所があって、そこには有名な薄汚れたガチャガチャがあるんだ。なんでも、それを回すと今の自分に必要な言葉が出でくるんだと、で、そこにさ、ついこの前行ってきたわけだ。
あそこは酷いね、街や、物だけじゃない。人まで暗澹として、深く呼吸するのも憚られるような空気感だった。
もちろんその例のガチャガチャも、回してきたよ。
回すとカプセルが落ちてきて、その中に入ってる汚い紙切れに、文章が書いてあるんだ。何回か回したけれど、どうと言うことはなかったね。退屈な物だったし、なんだか不愉快になったよ。で、捨てようとしたんだけど、そこで君のことを思い出してね。ほら、君って名言とか、格言とか、そう言う自己啓発みたいなの好きだろ?
じゃあ、これあげるから。またな。
そう言って彼は行ってしまった。またな、の後に何かもう一言喋ったような気がしたが、気のせいだろうか。とりあえず私は、手渡されたいくつかの紙切れを、一枚一枚ゆっくりと開いていった。
「酔っ払いのゲロにまみれた高瀬川を眺めようが、玲瓏なるベネチアの運河を眺めようが、
同じことです。なんにもなりません。」
「ギルガメッシュ抒情詩を読んだ後のあなたは、読む前のあなたと何も変わっていません。街中を歩くと、すれ違う美女に目を奪われて足元の石に躓くあなたのままです。」
「運命論を信じていないあなた方が結婚するのはなぜでしょうか。そこに打算という悪が一枚噛んでいるのは明らかではありませんか。」
「夕日を眺めながら夕日について書かないでいることができますか?その自己欺瞞とも取れる冒険を、やってのけるあなたになりなさい。」
「なんの思惑もせずに、道の真ん中で踊りなさい。あるいは、なんの思惑もせずに、あなたの友人に「目玉焼き」と囁きなさい。実用性を蹂躙する事が必要です。あなたは弱っている。目論見から目論見へと、絶え間なく向かわされて、疲れている。あなたの中の常識というビジネスマンはまた次の目論見をすでに用意して待っています。それから解放された時には、すでにあなたは肉体も精神も年老いて、使い物にならなくなってしまうのです。
さあ、この紙を持って、
逃げるのです!はやく!」
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